薫のメモ帳

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司法試験の過去問を見直す8 その6

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 旧司法試験・二次試験の論文式試験・平成16年度の憲法第1問についてみていく。

 

6 本件情報を求める側から見た場合の憲法上の問題点_後編

 前回から、公開を求める親権者側から見た場合の憲法上の問題の検討を始めた。

 つまり、本問法律をプライバシー権(前科情報を公開されない自由)の制限ではなく、知る権利(政府・自治体の情報を知る権利)の制限から検討することにした。

 

 そして、前回は「『知る権利」の制約」という観点から見て、本問法律が合憲になることを確認した

 この結論は、「情報の公開を求める権利・自由」の請求権的性格を考慮すれば、当然の結果ともいえる。

 もっとも、この法律を見れば、「何故、13歳未満の親権者に請求権者を限定するのだ。子供に対する危険の防止という観点を考慮すれば、13歳未満と13歳以上で差を設ける理由はないではないか。よって、本問法律は差別している」という疑問を持つことは可能である。

 そこで、今回はこの観点から検討を行う。

 つまり、本問法律は平等原則(憲法14条1項)違反ではないか、という憲法上の問題についてみていく。

 

 もっとも、憲法に関する基本的な内容は次のメモと同じである。

 そこで、基本的な内容は簡単に述べるにとどまる。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 つまり、憲法14条1項は「法の下の平等」を定めている。

 そして、「法の下の」とは、法適用の平等だけではなく、法内容の平等をも意味し、立法権もその拘束を受ける。

 また、「平等」とは、形式的・機械的平等ではなく、実質的・相対的平等を意味する。

 よって、憲法14条1項は、法律の内容に対する平等を要求している一方、不合理な差別を禁止しているのみであり、合理的な区別は許容している、と。

 

 

 では、本問法律は合理的な区別によるものと言いうるか。

 具体的な違憲審査基準が問題となる。

 そして、次のメモで見てきた通り、ここで審査基準を決めるための具体的な要素は、①14条1項の後段列挙事由に該当するか否か、②差別・区別によって制限される権利・自由の内容、③憲法上、立法裁量の大小を基礎づける条文の3点である。

 

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 まず、親権者が監督する子供の年齢は14条1項の後段列挙事由に該当しない

 この点、親権者という点が「社会的身分」に該当するのではないかと疑問を持つかもしれないが、ここで問題なのは親権者か否か、ではなく、13歳以上の子供を持つ親権者と13歳未満の子供を持つ親権者の違いである。

 ならば、「社会的身分」の問題であるということは難しいのではないかと考えられる。

 

 次に、制約される権利の内容を見ると、知る権利のうちの情報公開請求権に属するものである。

 この権利が表現の自由(民主主義の前提となる重要な権利)から派生したものであるであるが、情報公開請求権それ自体は請求権的性格があり、立法による調整が不可欠である以上、その範囲で裁量があることは前回述べたとおりである。

 ならば、②情報公開を求める自由という制限されている権利・自由の重要性・要保護性はやや下がると言わざるを得ない

 

 さらに言えば、再婚禁止規定では憲法24条2項が立法裁量を制約する方向で働いていたが、③情報公開の請求の場面においてはこれに準じる条文がない

 

 以上を考慮すれば、違憲審査基準を厳格にする事情はなく、緩やかな審査基準を用いるべきであると考えられる。

 具体的には、いわゆる合理的関連性の基準(①目的が正当、②手段に合理的関連性がある場合に合憲)によって判断すべきものと考える。

 

 

 以下、あてはめを行う。

 本問法律が区別を設けた目的は、本件情報の請求権者を制限することによって、本問前科者たちの前科情報の拡散を防止することにある。

 一般に、前科情報が国民にとって他人に知られたくない情報であること、この情報の公開を望まない自由がプライバシー権の一内容をなすことを考慮すれば、区別の目的は正当である。

 また、情報の請求者を限定しなければ、本件情報が拡散するおそれ(抽象的な危険)があることを考慮すれば、請求者の範囲を制約することは区別の目的を促進するものである。

 そして、刑法では13歳未満の子供の性的な同意が無効になっている(刑法176条・177条)ことを考慮すれば、13歳未満の子供と13歳以上の子供で保護の必要性の程度が質的に変化することになる。

 とすれば、13歳未満の子供を持つ親権者に限って請求権を認めるという手段は法的に見て不自然なものではない。

 以上を考慮すれば、区別の手段は目的との関係で合理的関連性があると言える。

 

 したがって、本問法律は合理的な区別と言える。

 以上より、本問法律は平等原則との関係では合憲である。

 

 

 現実問題、前科情報を求める側から見て、本問法律を違憲と主張するのは厳しい。

 よって、こちら側の問題はプライバシー権の問題と比較すれば優先順位が下がる。

 また、プライバシー権との関係で本問法律を違憲にすれば、この部分は検討する必要がない。

 さらに、プライバシー権の問題を差しおいて知る権利の問題を手厚く論じれば、それは積極ミスになる。

 とすれば、こんなところになるであろうか。

 

 

 以上、憲法的観点から本問の検討を行った。

 次回、憲法外の事情を見て、本問の検討を終えたい。