薫のメモ帳

私が学んだことをメモ帳がわりに

司法試験の過去問を見直す8 その5

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 旧司法試験・二次試験の論文式試験・平成16年度の憲法第1問についてみていく。

 

5 本件情報を求める側から見た場合の憲法上の問題点_前編

 ここまで、前科情報を公開される側から見た場合の憲法上の問題点をみてきた。

 結論は合憲にしたが、違憲の結論も十分ありうると考えられる。

 なお、本番ならば私は違憲にするであろう(時間的制約による)

 

 

 ところで、問題文を見ると、親権者側から見て次のような不満を感じるかもしれない。

 

 何故、13歳以上の子供を持つ親権者は請求できないのか

 何故、同一市町村に限定されているのか(子供が別の市にある私立小学校に通っている場合、私立小学校の市の情報が分からなければ意味がない)

 何故、常習犯に公開範囲が限定しているのか

 などなど。

 

 そこで、本問法律を「知る権利」の制限と構成することはできなくはない。

 もちろん、プライバシー権の観点から見れば問題の重要性がだいぶ下がるとしても

 また、前科情報の公開の観点から違憲にした場合、この点を論じる実益はないとしても(合憲にする場合は双方から見て合憲にする必要があるが、違憲にする場合はどちらか一方を違憲にすればいい)。

 そこで、「知る権利」の観点から本問法律の合憲性を検討する

 

 とはいえ、いわゆる「情報公開請求権」の憲法上の保障と違憲審査基準の定立については、こちらと同様に考えることができる。

 そこで、規範定立までの部分は簡単に述べることにする。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 

 また、本問法律を親権者の情報公開請求権の制限とみるためには、争点を具体的にする必要がある。

 そこで、①13歳以上の親権者に情報公開請求を認めない点、②公開範囲を同一市町村に限定している点、③公開範囲を常習者に限定している点の3点を憲法違反(憲法上の問題)の具体的な争点にしてみる

 まあ、最も重要になるのは①の点だろうが。

 

 この点、「知る権利」が憲法上保障されるかが問題になる。

 しかし、マスメディアの発展により国民が情報の受け手に固定されてしまった状況を考慮すれば、表現の自由を再構成することにより知る権利も憲法21条1項によって保障されるものと考える。

 また、知る権利が自由権たる表現の自由を再構成することによって保障された点を考慮すれば、いわゆる情報公開請求権は保障されないように見える。

 しかし、情報化社会と言われる現代において情報の価値は重要であること、行政国家現象の著しい現代において政府・自治体の持つ情報は民主的コントロールの観点から重要になること、国民主権国家において国家の情報は国民の情報であることを考慮すれば、情報公開請求権も知る権利の一内容として憲法21条1項により保障される

 そのため、本問法律の①13歳以上の親権者に情報公開請求を認めない点、②公開範囲を同一市町村に限定している点、③公開範囲を常習者に限定している点はこの情報公開請求権という憲法上の権利の制限といいうる。

 

 もっとも、情報公開請求権も絶対無制約ではなく、「公共の福祉」(憲法12条後段・13条後段)による制約を受ける。

 そこで、本問法律は公共の福祉による制約と言えるか、情報公開請求権の制限に対する違憲審査基準が問題となる。

 この点、情報公開請求権が表現の自由によって保障されていること、また、表現の自由のもつ自己実現の価値・自己統治の価値を考えれば、違憲審査基準は厳格になるとも考えられる。

 しかし、政府・自治体の情報をどのように公開するかについてはその手段(請求権者と公開情報の範囲)について政府・自治体の事情を考慮せざるを得ない。

 また、前科情報と政府・自治体に対する民主的コントロールとは関連性が乏しい。

 さらに、情報公開請求権は政府・自治体に対して一定の請求を行う権利であり、自由権の制限とは事情を異にする。

 そこで、前科情報の公開の制限に関する審査基準は緩やかにせざるを得ず、合理的関連性の基準(目的の正当性と手段の合理的関連性)によって判断すべきものと考える。

 

 これを本問について見ると、情報公開の範囲を制限する目的は本件前科者のプライバシー権を保護することにある。

 前科情報を公開されないことは前科者における常識的な希望であること、みだりに私生活上の情報を公開されない権利はプライバシー権の一内容になっているところ、プライバシー権憲法13条後段の幸福追求権の一内容として憲法上の保障を受ける。

 したがって、目的は正当である。

 さらに、前科情報を公開することは本件前科者のプライバシー権を直接、かつ、具体的に制限することになる。

 ならば、①13歳以上の子供を持つ親権者の請求を制限すること、②公開範囲を同一市町村内に制限すること、③公開範囲を常習者に制限することはプライバシー権保護という目的との関係で合理的関連性を有すると言える。

 したがって、本問法律は情報公開請求権に対する「公共の福祉」の制約と言える。

 以上より、本問法律は知る権利との関係では合憲である。

 

 

 この点、合理的関連性の基準であてはめをする以上、あっさりしたあてはめになる。

 また、こちらの結論を違憲にするのは難しいだろう。

 というのも、プライバシー権の制限から見れば具体的な利益衡量が必要になる一方、情報公開請求の観点から見れば、立法裁量は強くなるだろうから。

 ただ、これでは検討した気分にはなれないかもしれない。

 

 ところで、一部の親権者に請求権を制限している点は、情報公開請求権の違法な制限から攻めるよりも、平等原則違反から攻めた方がいいような気もする。

 そこで、次回は平等原則違反から本問をみてみる。