今回はこのシリーズの続き。
犯罪収益移転防止法の条文を通じてマネロン対策(AML/CFT)についてみていく。
46 外国所在為替取引業者との契約締結の際の確認
前回は、疑わしい取引の届出等についてみてきた。
今回は、外国為替(海外送金)に関する特定事業者の義務についてみていく。
具体的に見ていくのが、犯罪収益移転防止法第9条、10条である。
なお、今回の内容を学習する際には、法令だけではなく次の資料を参考にした。
『犯罪収益移転防止法の概要』(令和6年4月1日、JAFIC)
https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/hourei/data/hougaiyou20240401.pdf
まずは、犯罪収益移転防止法第9条を見ていく。
犯罪収益移転防止法第9条は、特定事業者(特に金融機関)がコルレス契約を締結する際の確認義務について定めている。
この点、犯罪収益移転防止法第9条について条文にある「カッコによる定義規定」をそのまま書くと見づらくなってしまう。
そこで、同条の定義内容を抽出しておく。
・ 外国所在為替取引業者
外国に所在して業として為替取引を行う者
・ 外国
本邦の域外にある国又は地域
・ 取引時確認等相当措置
犯罪収益移転防止法第4条、第6条、第7条、第8条の規定による措置(取引時確認等、確認記録の作成義務等、取引記録等の作成義務等、疑わしい取引の届出等)に相当する措置
・ 監督を受けている状態
犯罪収益移転防止法第15条から第18条までに規定する行政庁の職務(報告、立ち入検査、指導等、是正命令)に相当する職務を行う当該所在する国又は当該外国の機関の適切な監督を受けている状態
・ コルレス契約(定義規定があるわけではないが補足のため記載)
為替取引を継続的に又は反復して行うことを内容とする契約
その上で、犯罪収益移転防止法第9条に定める確認義務の内容についてみていく。
つまり、金融機関等の特定事業者が外国所在為替取引業者との間でコルレス契約を締結する場合、取引相手の外国所在為替取引業者について次の点を確認しなければならない。
確認内容を見ていくと次の通りとなる。
・ 取引相手の外国所在為替取引業者が、取引時確認等相当措置を的確に行うために必要な営業所等の施設が存在すること
・ 取引相手の外国所在為替取引業者に取引時確認等相当措置の実施を統括管理する者がいること
・ 取引相手の外国所在為替取引業者が、取引時確認等相当措置の実施に関し監督を受けている状態にあること
(以下、犯罪収益移転防止法第9条第1号、犯罪収益移転防止法施行規則第29条第1号)
・ 取引相手の外国所在為替取引業者が、業として為替取引を行う者であって監督を受けている状態にないもの(シェルバンク)との間でコルレス契約を締結していないこと
(以下、犯罪収益移転防止法第9条第2号)
取引時確認等相当措置を行う施設があることを確認する、統括管理者が存在するということは、当然、取引時確認等相当措置を実施していなければならないことになる。
このような形で取引時確認等相当措置の実施を確認する、ということなのだろう。
それから、外国所在為替取引業者が金融庁に準じる国家機関からの監督を受けていること、そのような監督を受けていないシェルバンクとコルレス締結を締結していないことの確認もマネロン・テロ資金供与対策から見れば重要になる。
次に、犯罪収益移転防止法施行規則第28条は、コルレス契約を締結する前の確認事項の確認方法について次のように定めている。
・外国所在為替取引業者から申告を受ける方法
・外国所在為替取引業者がインターネットに公開している情報を閲覧すること
・金融庁に相当する外国機関がインターネットに公開している外国所在為替取引業者に関する情報を閲覧すること
確認のための情報の入手方法について規則に定めるというのはあれなのだが、「法令上の手続によって確認する義務がある」ということなのかもしれない。
47 外国為替取引に係る通知義務
犯罪収益移転防止法第9条は、コルレス契約、つまり、外国為替取引を開始する際の確認義務について定めていた。
犯罪収益移転防止法第10条は外国為替取引における通知義務について定めている。
まず、犯罪収益移転防止法第10条第1項を見てみる。
(以下、犯罪収益移転防止法第10条第1項を引用、カッコ書きの中などは省略、強調と改行は私の手による)
特定事業者は、
顧客と本邦から外国へ向けた支払に係る為替取引を行う場合において、
当該支払を他の特定事業者又は外国所在為替取引業者に委託するときは、
当該顧客及び当該顧客の支払の相手方に係る本人特定事項その他の事項で主務省令で定めるものを通知して行わなければならない。
(引用終了)
ざっくり見るならば、外国に向けた海外送金を行う場合で他の特定事業者に支払を委託する場合、送金を受け付けた特定事業者は委託先に対して一定の事項の通知することが必要になる、ということになる。
以下、犯罪収益移転防止法施行令、犯罪収益移転防止法施行規則を見ながら、「支払に係る為替取引」の範囲と「委託先への通知事項」についてみてみる。
まず、「支払に係る為替取引」に含まれないものを確認する。
犯罪収益移転防止法施行令第17条と犯罪収益移転防止法施行規則第30条によると、海外送金の範囲には、次のものが除かれているらしい。
・小切手、手形の振出し、通常為替、払込為替、払出為替
ざっくり見ると、手形、小切手による送金がこの通知義務から除外される、といったところであろうか。
次に、犯罪収益移転防止法施行規則第31条第1項から「委託先への通知事項」を確認する。
ざっくり述べれば「送金元の顧客等及び送金先の名義人の情報」となるが、細かく見ていくと次のようになる。
・顧客等(送金元)が自然人や代表者・管理者の定めがない人格なき社団・財団の場合
1、顧客等及び代理人の氏名
2、顧客等及び代理人の住居又は本人確認書類に関する情報若しくは顧客識別番号
(顧客と支払に係る為替取引を行う特定事業者が管理している当該顧客を特定するに足りる記号番号)
3、送金について預金又は貯金口座を用いる場合は口座番号
4、送金について預金又は貯金口座を用いない場合は取引参照番号
(顧客と支払に係る為替取引を行う特定事業者が当該取引を特定するに足りる記号番号)
・顧客等(送金元)が法人(代表者の定めある人格なき社団・財団含む)の場合
1、法人の名称
2、本店等(本店若しくは主たる事務所)の所在地又は顧客識別番号
3、送金について預金又は貯金口座を用いる場合は口座番号
4、送金について預金又は貯金口座を用いない場合は取引参照番号
・送金先(顧客の支払いの相手方)
1、送金先の氏名又は名称
2、送金について預金又は貯金口座を用いる場合は口座番号
3、送金について預金又は貯金口座を用いない場合は取引参照番号
ざっくとまとめれば、送金元の名義、住所等、口座番号又は取引参照番号、送金先の名義、口座番号又は取引参照番号となりそうである。
次に、犯罪収益移転防止法第10条第2項によると、海外送金についてとある特定事業者から委託・再委託を受けた特定事業者がさらに別の特定事業者に委託する場合、委託元から通知を受けた「委託先への通知事項」について委託先に通知しなければならない。
まあ、間をとりもった特定事業者が通知しなければそこで情報がストップしてしまう。
このことを考えれば当然といえる。
さらに、犯罪収益移転防止法第10条第3項は、海外から送金先に指定された特定事業者がさらに海外に送金する場合で、かつ、海外への送金を別の特定事業者に委託する場合の通知義務に関する規定である。
つまり、ここで間に立った特定事業者は送金先に指定された海外の金融機関等から一定の通知を受けているところ、自分たちが行う海外送金を他の特定事業者に委託する場合、送金元と送金先の情報といった「犯罪収益移転防止法施行規則第31条第1項に記載されている委託先への通知事項」を委託先に通知しなければならない。
そして、犯罪収益移転防止法第10条第4項は、犯罪収益移転防止法第10条第3項によって委託・再委託を受けた特定事業者が別の特定事業者に再委託等する場合は「委託先への通知事項」を委託先に通知しなければならないことになる。
いずれにせよ、「海外送金を委託・再委託する際には、『送金元の名称(氏名)・所在地(住所)と口座番号又は取引関連情報、送金先の名称(氏名)と口座番号又は取引関連情報』を委託先に通知する必要がある」ということなのだろう。
送金窓口となった特定事業者は調査することにより、委託を受けた特定事業者は通知された事項をさらに通知することで。
以上、コルレス契約や外国送金の通知義務についてみてきた。
次回は、犯罪収益移転防止法第11条についてみていく。