今回はこのシリーズの続き。
犯罪収益移転防止法の条文を通じてマネロン対策(AML/CFT)についてみていく。
33 「ハイリスク取引」における取引時確認の内容
前回はハイリスク取引の条件について見てきた。
具体的なハイリスク取引の条件は次のとおりである。
1、なりすまし取引
2、虚偽申告取引
3、特定国等に居住し、所在地を持つ顧客との特定取引
4、特定国等に居住し、所在地を持つ顧客への財産移転を目的とする特定取引
5、外国PEPsとその関係者、外国PEPsとその関係者が実質的支配者になっている法人を顧客とする特定取引
そして、これらのハイリスク取引の確認事項は、移転する財産の価格が犯罪収益移転防止法施行令に定められたボーダーを超えているか否かによって分かれる。
そして、そのボーダーは200万円である(犯罪収益移転防止法施行令第11条)。
この点、移転する財産の価格が200万円以下のハイリスク取引の場合、取引時確認における確認事項は次のとおりである。
この場合、通常の取引時確認における確認事項と同じになっている。
・顧客が個人の場合
①本人特定事項(氏名、住居、生年月日)
②取引目的
③職業
・顧客が法人の場合
①本人特定事項(名称と本店等の所在地)
②取引目的
③事業内容
④実質的支配者
これに対して、移転する財産の価格が200万円を超える場合、上に記載した確認事項に「資産・収入の状況」が加わる(犯罪収益移転防止法第4条第2項前段)。
つまり、マネロン・テロ資金供与の疑いの可能性があり、移転する財産の価格も相当程度高額になる場合、資産・収入の状況を調べることによって移転する財産の原資も確認することになる。
なお、資産・収入の状況の調査の範囲には制限がある。
つまり、資産及び収入の状況の確認は、疑わしい取引の届出を行うべき場合に該当するか否かの範囲で行う、と(犯罪収益移転防止法第4条第2項後段、第8条第1項、第2項)。
ざっくり述べると、「疑わしい取引」とは移転する財産が犯罪収益等である場合かこの取引がマネロン罪等に該当する場合のいずれかを指すわけだから、この確認において顧客等の資産・収入の両内容を厳密に明らかにする必要はないとも言える。
しかし、資産・収入の確認は、犯罪収益移転防止法施行規則第14条第4項に規定された書類の原本又はコピーによって行わなければならない旨定められている。
・顧客等が個人の場合
顧客等又は顧客等の配偶者(事実婚含む)の源泉徴収票、確定申告書、預貯金通帳等
(犯罪収益移転防止法施行規則第14条第4項第1号)
・顧客等が法人の場合
(犯罪収益移転防止法施行規則第14条第4項第2号)
つまり、ハイリスク取引においては、公的書類やそれに準じる書類によって資産や収入を確認しなければならない、と言える。
なお、移転する財産の価格が200万円以下のハイリスク取引の場合、取引時確認における確認事項は通常の特定取引と同内容である。
しかし、ハイリスク取引の場合、額のいかんにかかわらず、その確認方法が通常の特定取引とは異なるため、その違いを意識しながら確認していく。
まず、本人特定事項の確認方法から。
ハイリスク取引における本人特定事項の確認の場合、追加の本人確認書類や補完書類(原本)の提示、本人確認書類や補完書類(原本又はコピー)の送付が必要になる(犯罪収益移転防止法施行規則第14条第1項)。
つまり、「免許証(原本)の提示+マイナンバーカード(原本)の提示」や「『免許証とマイナンバーカード(コピー)の送付+健康保険証(コピー)の送付』と『取引関係文章等を書留郵便等によって転送不要郵便等として送付』の合わせ技」等のように追加の本人確認書類や補完書類の提示・送付が必要になる。
マネロン・テロ資金供与を警戒する以上、追加の本人確認書類や補完書類を要求してその可能性がないことをチェックする、というところであろうか。
なお、「なりすまし取引」や「虚偽申告取引」の場合、前提となる取引(口座開設時)において用いなかった本人確認書類や補完書類を用いる必要があるらしい。
この場合、口座開設において免許証とマイナンバーカードの写しを用いて本人特定事項の確認を行った場合、免許証とマイナンバーカード以外の本人確認書類が必要になる。
ただ、他に身分証明書がない場合でも、戸籍の附表の写しや住民票の写しでも本人特定事項の確認は可能なので、手詰まりになることはなさそうだが。
次に、取引目的、職業、事業内容は、通常の特定取引における確認方法と同じである(犯罪収益移転防止法施行規則第14条第2項)。
つまり、取引目的と職業の確認方法は申告、事業内容の確認方法は、定款や登記事項証明書等による。
この辺も、定款と登記事項証明書の両方を求めても意味がなさそうだし、取引目的や職業を公的な証跡によって示すのは難しいことを考えれば、通常の取引時確認と同じ確認方法になるのはやむを得ないのかもしれない。
では、実質的支配者の確認方法はどうか。
この点、通常の取引時確認の場合、実質的支配者は「申告」によるとされていた。
これに対して、ハイリスク取引の場合は次の方法による。
・資本多数決法人(株式会社等)の場合
株主名簿や有価証券報告書等
・資本多数決法人以外の法人の場合
登記事項証明書
(犯罪収益移転防止法施行規則第14条第3項)
このように、ハイリスク取引の場合、実質的支配者は公的な書類によって確認することになる。
マネロン・テロ資金供与のリスクが高まっているため、実質的支配者(黒幕)の確認に公的な裏付けを求める、ということなのかもしれない。
最後に、代理人や代表者の本人特定事項の確認方法は顧客等の本人特定事項の確認方法とほぼ同様なのでここでは割愛する。
以上、ハイリスク取引の取引時確認についてみてきた。
次回は、犯罪収益移転防止法第4条第3項による確認方法についてみていく。