今回はこのシリーズの続き。
旧司法試験・二次試験・論文式試験の平成5年度憲法第1問をみていく。
4 立候補の自由に対する制限と平等原則
前回、本問法律が立候補の自由に対する合理的な制限として憲法15条1項に反しないことを示した。
今回は他の条文に反しないかをみていく。
まずは、憲法14条1項との関係をみていく。
もちろん、15条1項との関係を見た際、立候補の自由の権利の重要性(要保護性)を積極的に評価しなかったこと、知事に対する選挙制度の制定について国会に一定の裁量があること、そして、当選歴はいわゆる憲法14条1項後段列挙事由に含まれないことを考慮すれば、審査基準は緩くなる。
そして、前回用いたあてはめを今回にも用いれば、合理的区別として憲法14条1項に反しない、ということになるだろうが。
ただ、大前提となる「法の下」や「平等」の意義などは一言でもいいので示す必要がある。
以下、一気に書き切ってみよう。
次に、本問法律は連続三選した個人に対してそれ以外の個人と異なり立候補の自由を制限している。
そのため、憲法14条1項の平等原則に反しないか。
まず、「法の下の平等」の意義が問題となるところ、「法の下」とは法適用の平等だけではなく、法内容の平等をも含むと解する。
何故なら、不平等な法律を平等に適用しても、差別は解消されないからである。
次に、「平等」とは形式的・絶対的平等ではなく、実質的・相対的平等を指すと解する。
何故なら、事実上の差異を無視して形式的に法律を適用するとかえって不都合な結果を招くし、憲法は政府による社会福祉政策の実施を想定している(憲法25条以下)からである。
では、本問法律は合理的区別と言えるか、平等原則違反の違憲審査基準が問題となる。
この点、当選歴は憲法14条1項の後段列挙事由にない。
また、前述のとおり、公平な選挙制度を設定する際には国会に一定の裁量がある上、立候補の自由は不当な選挙権の制限の防止の観点から保障されることを考慮すれば、立候補の自由自身の重要性はそれほど高くない。
そこで、本問法律に対する違憲審査基準は緩やかな基準を用いるべきである。
具体的には、目的が正当で、目的と手段との間に合理的関連性があれば合理的区別にあたるものとして憲法14条1項に反しないものと解する。
本問法律についてこれを見ると、本問法律の規制目的は正当であること、その手段が目的に対して合理的関連性を有することは憲法15条1項との関係で述べたとおりである。
以上より、本問法律は合理的区別を定めたものであって憲法14条1項には反しない。
以上、一気に書き上げてみた。
憲法15条1項に反しない以上は、憲法14条1項にも反しないと考えるべきであろう。
言い換えれば、被選挙権の重要性を重視するのであれば、憲法15条1項にも14条1項にも反すると考えることになる。
そして、その結論もありうることは前回述べたとおりである。
5 立候補の自由に対する制限と職業選択の自由
では、憲法22条1項についてはどうだろうか。
憲法22条1項は、居住・移転の自由と経済活動の自由を定めている。
そして、知事になることで職務に対する対価を得る点を強調すれば、被選挙権の制限が知事という職業を選択する意味で憲法22条1項の問題になる、と言える。
日本における政治家の現状を見れば、それもありうるのかなあ、とも思える。
ただ、職務の公共性を取り上げて保障の対象外であるとしてみた。
具体的には、次のような感じである。
では、本問法律は憲法22条1項に反しないか。
本問法律による立候補の自由の制限は知事という職業の選択を制限しているとも言いうるため問題となる。
この点、知事になれば報酬として職務の対価を受け取ることになる。
とすれば、対価の経済的価値を考慮して憲法22条1項の問題になりうるということはできなくはない。
しかし、政治への参加は権利である共に公務であり、公共的な価値を有するものである。
また、知事としての職務は公権力を行使することであって、経済活動に従事するわけではない。
したがって、立候補の自由は憲法22条1項によって保障されることはないものと解する。
以上より、本問法律は憲法22条1項に反しない。
もちろん、憲法22条1項によって保障されうると考えることは可能である。
しかし、その場合も例外(正当化)の検討の際に緩やかな違憲審査基準を立ててあてはめをすることによって、合理的な制限として許容される、という結論にはなるだろう。
よって、22条1項に反しない結論という部分は動かしがたいと考えられる。
また、22条1項に反するかどうかという部分と憲法15条1項に反するかという部分はリンクさせなくてもいいものと考える。
「22条1項に反するが、憲法15条1項には反しない」という組み合わせは許容されないとしても、それ以外の組み合わせはどれも許容されるだろう。
まあ、どっちにも反するという結論はどうかと考えないではないけれども。
以上、憲法14条1項と憲法22条1項に対する検討が終わった。
残る憲法92条との関係については次回に検討したいと考えている。