これまで私は「旧司法試験・二次試験・論文式試験・憲法第1問」を見直している。
そして、平成元年度から平成20年度までの過去問のうち、18問の検討が終わった。
残るは平成5年度、平成10年度の2問である。
今回から見ていくのは平成5年度の過去問である。
本問のテーマは「知事の連続四選禁止」である。
1 旧司法試験・論文試験・憲法・平成5年度第1問
まず、問題文を確認する。
なお、昔の過去問であることから、問題文は次の教科書にあったものを引用した(書籍のリンク先は最新版のものだが、私が引用したのは当時の版、つまり、第2版である)。
(以下、司法試験二次試験・論文式試験・平成5年度・憲法第1問の問題文を引用、なお、文毎に改行)
都道府県知事の長期在職は、地方自治の固定化ないし沈滞を招き、地方自治の発展を阻害するとして、知事の連続四選禁止の規定を公職選挙法に設けたと仮定する。
そのような立候補の資格制限は、憲法第14条、第15条第1項、第22条第1項、第92条に違反するかどうか、論ぜよ。
(引用終了)
本問は、法律(公職選挙法)によって「都道府県知事の四選連続当選」をストレートに制限している。
また、具体的な条文が列挙されているため、述べるべきことがはっきりしている、と言える。
もっとも、その条文が4つもあるため、少々多い気がしなくはないが。
では、いつものように関連条文を確認する。
憲法12条後段
国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
憲法13条後段
生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
憲法14条1項
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
憲法15条1項
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
憲法22条1項
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
憲法92条
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
それから、参考にすべき判例として次のものがある。
昭和38年(あ)974号公職選挙法違反事件
昭和43年12月4日最高裁判所大法廷判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/720/050720_hanrei.pdf
昭和37年(あ)900号収賄被告事件
昭和38年3月27日最高裁判所大法廷判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/008/057008_hanrei.pdf
平成5年(行ツ)163号選挙人名簿不登録処分に対する異議の申出却下決定取消判決
平成7年2月28日最高裁判所第三小法廷判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/525/052525_hanrei.pdf
では、各条文に反しないかをみていこう。
とはいえ、一部は相互に関連されているため、それらを意識しながら見ていくことにする。
2 立候補の自由と憲法上の保障
まず、本問で問題となるのが、「連続四選禁止が個人の立候補の制限につながる点」である。
よって、この点が憲法に反しないか、が問題となる。
そして、前提として確認しないといけないことが、立候補の自由、つまり、被選挙権が憲法上の権利として保障されるか否か、である。
何故なら、憲法15条1項は選挙権しか保障しておらず、被選挙権について何も言及していないからである。
この点、三菱美唄炭鉱労組事件最高裁判決は立候補の自由について次のように述べ、憲法上の権利の1つとして認めた。
(以下、三菱美唄炭鉱労組事件最高裁判決から引用、各文毎に改行、セッション番号省略、一部中略、強調は私の手による)
憲法一五条一項は、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」と規定し、選挙権が基本的人権の一つであることを明らかにしているが、被選挙権または立候補の自由については、特に明記するところはない。
ところで、選挙は、本来、自由かつ公正に行なわれるべきものであり、このことは、民主主義の基盤をなす選挙制度の目的を達成するための基本的要請である。
(中略)公職選挙法は、自ら代表者になろうとする者が自由な意思で立候補し、選挙人は立候補者の中から自己の希望する代表者を選ぶという立候補制度を採用しているわけである。
したがつて、もし、被選挙権を有し、選挙に立候補しようとする者がその立候補について不当に制約を受けるようなことがあれば、そのことは、ひいては、選挙人の自由な意思の表明を阻害することとなり、自由かつ公正な選挙の本旨に反することとならざるを得ない。
この意味において、立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である。
このような見地からいえば、憲法一五条一項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。
(引用終了)
最高裁判所は「立候補の自由を不当に制限すれば、選挙権の不当な制限につながり、自由かつ公正な選挙が維持できなくなる」ことを理由に立候補の自由を憲法上の権利として認めた。
これは具体的に選挙をイメージすれば理解できるだろう。
例えば、衆議院選挙において特定の主義・主張を持つ人間の立候補を禁止してみる。
すると、その特定の主義・主張を持つ人間は選挙の土俵に立つことさえできなくなるわけだが、これを投票する側から見れば、立候補の制限によりその特定の主義・主張を持つ者に対する投票が不可能になる。
これが「選挙権の行使に対する不当な制限」となり、結果的に自由かつ公正な選挙が阻害につながる、というわけである。
これを答案上にまとめるなら、次の通りになるであろう。
もちろん、大展開する必要はなく、次のようなレベルで問題ない。
まず、本問の連続四選禁止は立候補の自由を制限するものとして許されないのではないか。
この点、立候補の自由が憲法上の権利として保障されるか、明文がないため問題となるものの、立候補の自由の制限は選挙権の不当な制限につながり、ひいては自由かつ公正な選挙を阻害する要因になることを考慮すれば、立候補の自由は選挙権の自由な行使と表裏の関係にあるものとして憲法15条1項によって保障されるものと解する。
とすれば、四選連続禁止の規定は立候補の自由という憲法15条1項で保障された権利の制限にあたりうることになる。
かくして、憲法上の権利の制限という原則部分の認定は終わった。
もちろん、例外の検討がこれから始まるわけだが、それについては次回に。