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司法試験の過去問を見直す19 その2

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 旧司法試験・二次試験・論文式試験の平成5年度憲法第1問をみていく。

 

3 立候補の自由に対する制限の正当化

 前回は、被選挙権、つまり、立候補の自由が憲法上の権利として保障されることを確認した。

 もちろん、権利として保障されたからといって、その保障は絶対無制限ではない。

 

 もっとも、ここで対立利益となっているのは他者の人権ではなく、「自由かつ公平な選挙の実施」である。

 そこで、人権相互の矛盾・衝突を回避するための実質的公平の原理たる「公共の福祉」を持ち出すのは少々ずれている。

 よって、ここでは「立候補の自由は自由かつ公平な選挙(憲法15条、93条)の実施の観点から必要かつ合理的な制限を受ける。」という言い方になる。

 この辺は、在監者(18条、34条)や公務員(15条、73条4号)に対する特別な制限と同様に考えてもいいかもしれない。

 

 では、違憲審査基準はどうなるであろうか。

 基準を定立する上で重要な要素となるのは、権利の重要性、権利の制限の程度、憲法に定められた立法裁量の3点である。

 この点は「公共の福祉」による制限の場合と同様である。

 この辺を一気に書き切ってしまおう。

 

 

 もっとも、立候補の自由も絶対無制限ではなく、自由かつ公正な選挙の維持の観点から合理的な制限を受ける。

 そこで、本問法律による制限は合理的制限と言えるか、立候補の自由の制限に対する違憲審査基準が問題となる。

 

 この点、被選挙権は国政に参加する権利たる参政権の一つであって、民主主義における極めて重要な権利である。

 とすれば、政治的言論の自由に対する制約と同様、極めて厳格な基準が妥当するべきであるとも考えられる。

 しかし、憲法には被選挙権の保障について明記されているわけではない。

 そして、被選挙権を保障する背後には選挙権の不当な制限の防止という観点がある。

 そのため、被選挙権の制限は参政権に対する制限としては間接的なものであると考えざるを得ない。

 また、選挙を実行するためには一定の制度が前提となるところ、憲法92条は地方自治の組織について法律によって定める旨規定されている。

 とすれば、自由と公平な選挙制度の制定にあたって国会に一定の裁量があると考えざるを得ない。

 したがって、選挙権の制限とは異なり、立候補の自由などの被選挙権に対する違憲審査基準は緩やかな基準によって判断されるべきものと考える。

 具体的には、目的が正当であり、手段と目的との間に合理的関連性がある場合に合憲となる、という合理的関連性の基準によって決すべきものと解する。

 

 

 以上、審査基準の定立まで進めてみた。

 キーワードは「被選挙権は明文上の根拠がなく、選挙権が保障を実効化させるために保障された二次的な権利に過ぎない」、「制度は法律によって具体化する」の2点であろうか。

 このように考えることで、「選挙権は権利であるが公務でもある」といった発想を前提とした結論と同じようにもっていくことができる。

 

 

 以下はあてはめである。

 ここからは問題文の事情を用いないといけないので、問題文を確認しよう。

 

(以下、司法試験二次試験・論文式試験・平成5年度・憲法第1問の問題文を引用、なお、文毎に改行)

 都道府県知事の長期在職は、地方自治の固定化ないし沈滞を招き、地方自治の発展を阻害するとして、知事の連続四選禁止の規定を公職選挙法に設けたと仮定する。

 そのような立候補の資格制限は、憲法第14条、第15条第1項、第22条第1項、第92条に違反するかどうか、論ぜよ。

(引用終了)

 

 これらの事情を使ってあてはめをしていく。

 まあ、詳細な事実関係が書かれているわけではないので、一気に書いていくことになるが。

 

 

 これを本問法律について見ると、本問法律の目的は地方自治の固定化ないし沈滞を防ぎ、地方自治の発展を促すことにある。

 この点、地方自治体は憲法に規定されている統治機構に不可欠な要素であること、地方自治体は日常生活に関連する公共的なインフラを支えていることなどを考慮すれば、地方自治の固定化や沈滞を招いて地方自治の発展を阻害させれば、国民の日常生活に支障が生じ、ひいては国民の幸福追求権(13条後段の解釈によって保障)の追求に支障が生じるおそれが生じる。

 そこで、目的は正当である。

 

 次に、本問法律の規制手段について見ると、都道府県の首長たる知事の連続四選を制限している。

 この点、政府の場合と異なり、都道府県知事は選挙で選ばれているため(憲法93条2項)、知事の背後には民意が存在する。

 また、知事は都道府県を統轄すると共に(地方自治法147条)、団体の事務を管理し及びこれを執行する立場にあり(地方自治法148条)、一種の大統領のような立場にある。

 とすれば、都道府県知事には強力な権限がある。

 すると、都道府県知事の連続当選を無制限に許すことは、その知事個人に対して巨大な権限を集中させることになる。

 そのため、知事の連続当選は権力の集中による地方自治の固定化と停滞を招き、地方自治の発展を妨げる可能性がある。

 また、連続四選を制限したところで連続三選は可能であるところ、三選によって最大12年間任期を務めることができる。

 加えて、連続ではない四期目の当選も禁止されているわけではない。

 そのため、本件法律による立候補の自由の制限の程度は軽微なものと言える。

 さらに、思想や政策の連続性を問題にしているわけではないため、必要であれば同様の思想や政策を実現しようと考えている人が立候補することにより同種の政策を維持・継続することができる。

 とすれば、本問法律の制限は選挙に対する不当な制限になるわけでもない。

 したがって、規制手段と規制目的との間には合理的関連性があると言える。

 以上より、本問法律は被選挙権に対する合理的制限と言え、憲法15条1項に反しない。

 

 

 以上、選挙権との関係で一気に書き上げてみた。

 後述のように違憲の結論も全然ありだろうとは考えるが、ここでは敢えて合憲の結論を採用してみた。

 

 本問で気になるのが、「知事の連続四選(以上)当選→地方自治の固定化・停滞化→地方自治の発展阻害」という本問法律の主張がどの程度具体的・現実的なのか、という点である。

「権力は腐敗する」という経験則に照らして考えるならば、抽象的にさえこの主張が成立しない、ということはないだろう。

 しかし、具体的に成り立つかどうかは分からない。

 したがって、厳格な合理性の基準より厳しい基準で臨めばこの法律は違憲になりうると考えられる。

 だから、違憲の結論自体も十分ありうるであろう。

 

 

 以上、選挙の観点から本問法律を検討してみた。

 次回は他の条文との関係をみていく。