薫のメモ帳

私が学んだことをメモ帳がわりに

司法試験の過去問を見直す19 その4

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 旧司法試験・二次試験・論文式試験の平成5年度憲法第1問をみていく。

 

6 立候補の自由の制限と地方自治の本旨との関係

 前回までで本問法律が憲法14条1項、15条1項、22条1項に反しない旨みてきた。

 最後に、憲法92条との関係をみていく。

 

 憲法92条は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項」を「地方自治の本旨に基づいて」「法律で」定めると規定している。

 そのため、本問法律が地方自治の本旨に反していれば、憲法92条違反になる

 

 では、「地方自治の本旨」とは何か。

 これについては、次の訴訟などで端的に述べているので、これらの部分を活用する。

 

平成5年(行ツ)163号選挙人名簿不登録処分に対する異議の申出却下決定取消判決

平成7年2月28日最高裁判所第三小法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/525/052525_hanrei.pdf

(いわゆる「定住外国人地方参政権訴訟最高裁判決」)

 

(以下、同判決より引用、各文毎に改行、セッション番号など省略、強調は私の手による)

 憲法第八章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解される

(引用終了)

 

 似たようなことは別の判決でも述べている。

 

昭和37年(あ)900号収賄被告事件

昭和38年3月27日最高裁判所大法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/008/057008_hanrei.pdf

(いわゆる「特別区長公選制廃止事件最高裁判決」)

 

(以下、同判決より引用、各文毎に改行、セッション番号など省略、強調は私の手による)

 何がここにいう地方公共団体であるかについては、何ら明示するところはないが、憲法が特に一章を設けて地方自治を保障するにいたつた所以のものは、新憲法の基調とする政治民主化の一環として、住民の日常生活に密接な関連をもつ公共的事務は、その地方の住民の手でその住民の団体が主体となつて処理する政治形態を保障せんとする趣旨に出たものである。

(引用終了)

 

 最高裁判所が述べたことをまとめれば、次のようになる。

 

 憲法地方自治地方自治の本旨」に基づいて行われることを制度として保障した

 憲法92条の「地方自治の本旨」とは団体自治と住民自治である

 団体自治とは、地方政治は政府から独立したその住民の団体によって処理されるべきこと

 住民自治とは、地方政治はその住民の意思によって行われるべきこと

 

 また、一般に、国会は憲法に規定されてない制度の定立について広い裁量がある。

 したがって、地方自治の本旨たる団体自治や住民自治を没却するような特段の事情でもない限り憲法92条に反することはない、ということになる。

 極めて緩やかな基準になってしまったが、組織に関することである以上致し方ない面もある。

 

 この規範で見ていけば、まあ特段の事情はないということになるだろう。

 なぜなら、四選連続当選を阻止したくらいで、地方公共団体が政府からの独立性を失うことはないし、住民の民意を完全に無視されるわけではないから。

 

 以上を簡単にまとめてみよう。

 

 

 本問法律は、知事の四選連続当選禁止という「地方公共団体の組織及び運営に関する事項」を規定している。

 そこで、本問法律は「地方自治の本旨」に基づかないものとして憲法92条に反するのではないか地方自治の本旨」の意義が問題となる。

 この点、憲法92条の趣旨は民主主義社会における地方自治の重要性を考慮し、住民生活に密接な関係を有する公共的事務はその地方の住民の意思に基づいて行われること、かつ、その地方の地方公共団体が処理するべきであるという住民自治と団体自治を制度として保障することにある。

 一方、憲法に規定されていない制度や運営については基本的に国会による広い裁量を認めざるを得ない。

 とすれば、住民自治や団体自治を没却するような特段の事情のない限り、憲法92条には反しないものと解する。

 本問法律についてこれを見ると、知事の四選連続当選を制限しても、地方公共団体地方自治を担うことに変わりはないので、団体自治の趣旨が没却されることはない。

 また、確かに、知事の四選連続当選を制限すれば、その知事の長期政権を望む住民の意思を妨げることになり、その民意が地方自治に反映されないことになる。

 しかしながら、特定の知事の長期政権の発生が地方自治の停滞を生むことを考慮すれば、長期政権を望む住民の民意の反映を制限することは住民自治の活性化につながる。

 とすれば、住民自治の趣旨を没却するとまでは言えない。

 したがって、本問法律に特段の事情はないと言え、憲法92条には反しない。

 

 

 こんな感じであろうか。

 まあ、長期政権を望む住民の意思によって生まれた知事は、独裁化して住民自治を損なう危険がある一方、強力な民意を反映した知事として団体自治の観点から見て望ましいと言えないわけではない。

 そして、それを本問法律で制限しよう、というのだから、団体自治の観点から問題がないわけではない。

 でも、そこまで言い出すと細かくなり出すため、その辺はスルーすることにした。

 

 

 以上で本問自体の検討は終わった。

 次回はこの過去問を見ていて考えたことを述べて、次の過去問に移ろうと考えている。