薫のメモ帳

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司法試験の過去問を見直す14 その2(最終回)

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 司法試験・二次試験・論文式試験の平成9年度の憲法第1問を検討していく。

 この点、今回の過去問は前回の平成19年度の過去問と類似している点が多い。

 そこで、知識に関する重複部分は省略する。

 また、本問を通じて考えることは、前回で言及したか、次回でより深く考えることになるから、今回は問題の検討のみとする。

 それゆえ、今回が本問の最終回である。

 

3 外国人の公務就任権

 まず、問題文を再掲載する(引用元は前回と同じ)。

 

(以下、司法試験二次試験・論文式試験・平成9年度憲法第1問の問題文を引用)

 地方公共団体が、職員の採用について、日本国籍を有することを受験資格の一つとした場合の憲法上の問題点について論ぜよ。

 また。日本国籍を有することを管理職登用資格の一つとした場合についても論ぜよ。

(引用終了)

 

 前回は、外国人の人権享有主体性について「権利の性質上日本人をその対象とするものを除いて」認められる旨認定した。

 今回は、このことを前提に本問の制限された自由の憲法上の問題点を論じていく。

 

 

 本問で制限されている自由は、外国人の「地方公共団体の職員になる自由」と「地方公共団体の管理職の職員になる自由」である

 そこで、これらの自由が外国人に保障されるか。上記自由はいわゆる公務就任権に含まれるところ、憲法15条1項が保障すると解される公務就任権が外国人に保障されるかが問題となる。

 この点、自らが公務員になる権利たる公務就任権は自らが公権力の行使する側に転じるという意味で被選挙権のような参政権としての性格をもつ。

 そして、国民主権原理(前文、1条)に照らせば、国民が自国の政治に参加する参政権は権利の性質上日本国民のみをその対象とするものである。

 したがって、公権力の行使の観点から見た場合、公務就任権は権利の性質上、日本国民をその対象とするものであり、外国人には保障されないものと解する

 そして、この考えは地方公共団体に関する公務就任権についても同様であると考える。

 というのも、地方公共団体は「地方自治の本旨」(92条)を実現されるために憲法上定められた団体であることを考慮すれば、地方公共団体も統治に不可欠の要素となるからである。

 したがって、外国人の地方公共団体の職員・管理職の職員になる自由は憲法上の人権として保障されないのが原則である。

 

 

 この点、「原則・例外」の議論のパターンを考慮すれば、原則論として公務就任権を論じ、例外として平等原則その他に触れた方がいいように思われる。

 そこで、まず、公務就任権について検討した。

 

 以下、例外の議論に続く。

 ここで争点となるのが平等原則(憲法14条1項)や職業選択の自由憲法22条1項)である。

 もっとも、これについては管理職かそれ以外かによって結論が異なることになるため、それぞれ分けて検討していく。

 

4 設問前段の検討について

 ある自由が憲法上の権利として保障されない場合であっても、国家権力や地方自治体はその自由を無制限に制約できるわけではない。

 

 例えば、「コーヒーを飲む自由」や「将棋を指す自由」を考える。

 これらの自由が憲法上の権利として保障されるかについては、結論が分かれるであろう。

(一部の国民にとっては格別)多くの国民にとってコーヒーを飲むことや将棋を指すことが人格的生存に不可欠であるとまでは言えないからである。

 だからと言って、現在の日本で「将棋を指した者は拘留・科料に処す」などと将棋を指すことを全面的に禁止し、それに対して刑罰規定を定めれば、その法令は違憲の評価を免れられないだろう。

 将棋をただ指すことの害悪が現時点では存在しないからである。

 また、仮に、「従前より賭け将棋が多少増加した(が、多くの将棋は賭博抜きで指されている)」といった立法事実があっても、このような刑罰規定が合憲になるかどうかは微妙であろう。

 なぜなら、このような場合、賭博を制限をすべきであって、将棋を制限する必要は高くないからである。

 これは、新しい人権についていわゆる「一般的行為自由説」を採用しても、「人格的生存説」を採用してもそうなる(一般的行為自由説を採用すれば、一応憲法上の権利として扱われるためより違憲に近づくことになる)。

 

 本問でもこれと同じような問題点を提起しうるわけである。

 つまり、地方自治体の職員の職務には統治権力の行使とほとんど関連性ない事務的・技術的職務もある。

 また、日本国籍を持たない外国人には一時的に日本に旅行に来た者のみならず、政治的な亡命者や特別永住者など様々な人がいる。

 であれば、それらを全部ひとくくりにして外国人を排除することが平等原則や他の憲法上の権利(職業選択の自由)に抵触しないのか、と。

 このような問題意識に、前回述べた定住外国人の選挙権訴訟で述べた憲法92条の趣旨を追加させれば、回答としては十分であろう。

 以下、まとめてみる。

 

 

 もっとも、地方公共団体の職員になる自由は職業選択の自由憲法22条1項)の側面もある。

 そして、職業選択の自由自由権であるから、権利の性質上日本国民のみをその対象とする権利とは言えないため、外国人にもその保障が及ぶ。

 とすれば、本問前段の制限は憲法22条1項に対して違憲であるとは言えないか。

 本問前段の制限は、外国人を一律に、かつ、すべての職務から排除している過剰な制限であるため問題となる。

 この点、憲法地方自治を「地方自治の本旨」(92条)に基づいて行う旨定めた趣旨は、地方政治はその地方の住民の意思により、かつ、その地方に存在する地方公共団体によって運営されるべきであるといった住民自治と団体自治の実効化にある

 とすれば、定住外国人などその地方と緊密な関係に至った者たちを地方政治に参加させることはむしろ住民自治の実効化に貢献する

 にもかかわらず、本問前段はこのような定住外国人をも一律に職員になることから排除しており、地方自治の趣旨を損なうのみならず、制限の程度は大きい。

 また、地方公共団体の職務には、一方で統治権の行使を担う職務がある一方、統治権の行使とのかかわりが薄い事務的・補佐的・技術的職務もあり、後者については一般の職務と変わらない。

 そこで、このような職務の区別を一切考慮せず、一律に地方自治体の職員に対して日本国籍を要求することは、不合理かつ過剰な規制であって憲法22条1項に反するものと考える。

 なお、当該規定は上述の定住外国人との関係では不合理な差別を定めたものとして憲法14条1項にも反すると考える。

 以上より、本問前段の制限は違憲である。

 

 

 発想は前回の問題と変わらない。

 なお、最高裁判所の前回の判決は許容説を採用しているに過ぎないため、この結論は最高裁判所と整合的かは分からない。

 まあ、大きく外れていると考えるわけではないが。

 

5 設問後段の検討について

 後段についても同様に考える。

 

 では、後段の制限についてはどうか。管理職の職員になる自由も職業選択の自由によって保障されうるとして、憲法22条1項に反しないか。

 この点、公務就任権が外国人に保障されない以上、職業選択の自由としての要保護性も減少する

 そして、地方毎に事情が異なることを考慮すれば、地方公共団体が外国人に対してどのような職員を採用するかについては一定の裁量があると考えるべきである。

 また、管理職になることで統治権の作用にかかわる機会は上昇する

 以上を考慮すれば、管理職の職員について定住外国人を含む外国人を一律に排除するような制限をすることは職業選択の自由を定めた憲法22条1項に反しないものと考える。

 なお、このような制限は合理的な区別として憲法14条1項にも反しない。

 以上より、設問後段の制限は合憲である。

 

 

 以上、2つの事例の検討を行い、前者の制限を違憲、後者の制限を合憲とした。

 対比の観点から結論を分けたが、後者についても具体的に管理職の統治権へのかかわりの違いを考慮して、全面的排除を違憲にするという結論はありえないではないと考えられる(この結論は東京高等裁判所の結論に準じる)。

 まあ、今回は最高裁判所の判断にあわせているが。

 

 

 以上、本問について検討をした。

 次回は、平成元年度の憲法第1問の過去問を検討する予定である。