薫のメモ帳

私が学んだことをメモ帳がわりに

司法試験の過去問を見直す13 その2

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 旧司法試験・二次試験の論文式試験・平成19年度の憲法第1問についてみていく。

 

3 権利の性質上日本国民のみをその対象とする権利について

 前回、外国人の人権享有主体性について検討した。

 その結果、「権利の性質上日本国民のみをその対象とするもの」を除き、人権規定の保障を受ける」という結論を得た。

 

 

 では、「権利の性質上日本国民のみをその対象とするもの」にどんな権利が該当するだろうか。

 

 まず、選挙権・被選挙権といった参政権があげられる。

 というのも、参政権は「国政に参加する権利」であり、その背後にある国民主権原理(国政を決定する最終的権力と究極的権威は国民にある)を考慮すれば、その資格があるのは国民(日本国籍を有する者)だけだからである。

 ずばり、本問の法律で制限されている「選挙権」はこれにあたる

 

 次に、「入国の自由」・「再入国の自由」・「在留の自由」がある。

 国際慣習法上、外国人の入国に関してはその地の統治機関の決定事項だからである。

 この点は、マクリーン事件に詳しいので、その部分を引用しておこう。

 

昭和50年(行ツ)120号在留期間更新不許可処分取消

昭和53年10月4日最高裁判所大法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/255/053255_hanrei.pdf

(いわゆるマクリーン事件判決)

 

(以下、マクリーン事件最高裁判決から引用、各文毎に改行、一部中略、強調は私の手による)

 憲法二二条一項は、日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり、外国人がわが国に入国することについてはなんら規定していないものであり、このことは、国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、当該国家が自由に決定することができるものとされていることと、その考えを同じくするものと解される(中略)。

 したがつて、憲法上、外国人は、わが国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん、所論のように在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものでもないと解すべきである。

(引用終了)

 

 さらに、社会権も含まれる。

 なぜなら、社会権は平等権や自由権と異なり、前国家的性格を有しないものだからである

 

 以上、日本国民をその対象とする権利についてみてきた。

 その結果、平等権・自由権・受益権については基本的にその保障が及ぶことになる

 無論、「国民と同じ程度の保障が及ぶか」という問題があるとしても。

 

 なお、「国民と同じ程度の保障が及ばない」としても必ずしも平等権の保障が及ばないことにはならない。

 なぜなら、国民と外国人との取り扱いの違いが合理的な区別であれば平等権の侵害にならないし、また、「同じ条件の外国人に対して異なる取り扱いを受けない」という意味では平等権の保障が及ぶからである。

 

 

 以上を前提に法律による規制についてみていこう。

 

4 地方議員の選挙権の制約について

 まず、問題文を再掲載する。

 

(以下、問題文を引用)

 A市では 条例で市職員の採用に当たり日本国籍を有することを要件としている。この条例の憲法上の問題点について,市議会議員の選挙権が,法律で,日本国籍を有する者に限定されていることと対比しつつ,論ぜよ。

(引用終了)

 

 前述の通り、参政権は権利の性質上日本国民のみをその対象にしている。

 そして、市議会議員の選挙権は参政権そのものといってよい

 ならば、市議会議員の選挙権は日本国民のみをその対象とし、外国人には及ばないものと考える。

 

 以上は権利の一般論から考えた結果である。

 しかし、できれば、憲法上の条文に引き付けて検討できるとよい。

 そこで、引っかかる条文がないか憲法上の条文を見ていくと、憲法93条2項を使うことができることに気付く。

 

憲法93条2項

 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する

 

 つまり、憲法93条2項は地方議会の議員の選挙について、①「直接選挙」によること、②「住民」による選挙であることを義務付けている

 条文の記載は「住民」であって「国民」ではない。

 ならば、国政と異なり、地方選挙に関しては、権利の性質上日本国民をその対象としると言えないのではないか。

 93条2項の「住民」の意義が問題となる。

 

 この点、選挙権(憲法15条1項参照)を含む参政権は、国民主権原理(憲法前文・1条)の下、国民が自国の政治に参加する権利であるし、選挙は国政に関与する自由である一方で、公務という二面性がある。

 また、地方公共団体憲法上定められた組織(憲法92条以下)であって国家に不可欠の要素である。

 以上の点を考慮すれば、市議会議員の選挙権は権利の性質上日本国民のみをその対象にしている。

 そこで、93条2項の「住民」は、その地方自治体に居住する日本国籍を有する者であって、たとえ、その地方に長期間居住する外国人であってもその主体になることはない、ということになる

 したがって、法律で市議会議員の選挙権を日本国籍を持つものに限定し、外国人に選挙権を付与しないことは合憲である。

 

 

 なお、以上のことは最高裁判所が述べているので、判決の一部を引用する。

 

平成5(行ツ)163号選挙人名簿不登録処分に対する異議の申出却下決定取消

平成7年2月28日最高裁判所第三小法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/525/052525_hanrei.pdf

 

(以下、上記判決から引用、各文毎に改行、一部中略、強調は私の手による)

 基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものである。

 そこで、憲法一五条一項にいう公務員を選定罷免する権利の保障が我が国に在留する外国人に対しても及ぶものと解すべきか否かについて考えると、憲法の右規定は、国民主権の原理に基づき、公務員の終局的任免権が国民に存することを表明したものにほかならないところ、(中略)。

 そうとすれば、公務員を選定罷免する権利を保障した憲法一五条一項の規定は、権利の性質上日本国民のみをその対象とし、右規定による権利の保障は、我が国に在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である。

 そして、地方自治について定める憲法第八章は、九三条二項において、(中略)、前記の国民主権の原理及びこれに基づく憲法一五条一項の規定の趣旨に鑑み、地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素を成すものであることをも併せ考えると、憲法九三条二項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。

(引用終了)

 

 

 以上で本問法律の検討は終わったように見える。

 もっとも、出題趣旨には次の記載がある。

 

(以下、出題趣旨を引用)

 本問は,外国人の公務就任権及び地方議会議員の選挙権について,外国人の人権享有主体性,それぞれの権利の性質,国民主権原理と地方自治との関係などを踏まえて論理的に記述することができるかどうかを問うものである。

(引用終了)

 

 ここで「踏まえるべきもの」を拾っていくと、次のようになる。

 

1、外国人の人権享有主体性

2、それぞれの権利の性質

3、国民主権原理と地方自治との関係

 

 これまで外国人の人権享有主体性・選挙権の権利の性質について述べた。

 もっとも、国民主権原理と地方自治との関係については全く述べていない。

 ただ、「地方公共団体憲法で定められたものであり、国政の不可欠の要素である」と述べただけである。

 とすれば、この部分を膨らませる必要がある。

 

 ここで見ておきたいのは、上で取り上げた判決である。

 この判決は傍論で次のようなことを述べている。

 

(以下、上記判決を引用、各文毎に改行、強調は私の手による)

 憲法第八章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である

 しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない。

(引用終了)

 

 当然だが、この判例を知らない人間は論文試験の前段階(択一試験)ではじかれている。

 そして、この判決には憲法92条から一定の定住外国人に対して地方議会の選挙権を付与しても憲法違反にならない旨述べている

 ならば、この部分を答案に挿入した方がよい、と言える。

 

 では、どう挿入するか。

 一番いい箇所は反対利益の指摘の部分であろう

 

 つまり、憲法92条の趣旨は住民自治(地方の政治はその地方の住民によって決すべき)と団体自治(地方の政治は政府ではなくその地方に設立された団体によってなされるべき)を制度として保障することによって、住民の日常的生活に関する公共的事務を適切かつ円滑に実施することにある

 この点を考慮すれば、住民とほぼ同じような生活を送る定住外国人などその地方と緊密を持つに至った外国人に地方政治に参加・関与させることは「地方自治の本旨」に適うと考えることができる。

 

 このように反対利益を示してから原則論を持ち出して否定すれば、論述が説得的になる上、出題趣旨にも答えることができる。

 解答方法も含めて考慮すれば、これが適切ではないかと考えられる。

 

 なお、原則論の結論を出してから「なお書き」の部分でこの判例の趣旨を論述することはできる。

 そして、「選挙権を与えた場合の憲法上の問題点」を考えるなら、これは有効である。

 しかし、選挙権を制限している本問の場合、「立法政策の問題に過ぎない」わけだから、本論から離れてしまう。

 また、本問は法律による選挙権の制限はレファレンス・ポイント(参照点)であって、本論ではない。

 ならば、反対利益の中に放り込んでしまった方がいいように思われる。

 

 

 以上、比較事項である法律による選挙権について検討が終わった。

 次回は市役所の職員になる自由、つまり、公務就任権についてみていく。