薫のメモ帳

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司法試験の過去問を見直す13 その1

 これまで「旧司法試験・二次試験・論文式試験憲法第1問」を見直してきた。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 これまで検討した過去問は、平成3年度・4年度・8年度・11年度・12年度・13年度・14年度・15年度・16年度・17年度・18年度・20年度の12問。

 今回から平成19年度の過去問を見ていく。

 今回のテーマは「外国人の公務就任権」である。

 

1 旧司法試験・論文試験・憲法・平成19年第1問

 まず、問題文と出題趣旨を確認する。

 なお、問題文と出題趣旨は法務省のサイトから引用している(リンク先は次のとおり)。

 

(以下、問題文を引用)

 A市では 条例で市職員の採用に当たり 日本国籍を有することを要件としている。この条例の憲法上の問題点について,市議会議員の選挙権が,法律で,日本国籍を有する者に限定されていることと対比しつつ,論ぜよ。

(引用終了)

 

(以下、出題趣旨を引用)

 本問は,外国人の公務就任権及び地方議会議員の選挙権について,外国人の人権享有主体性,それぞれの権利の性質,国民主権原理と地方自治との関係などを踏まえて論理的に記述することができるかどうかを問うものである。

(引用終了)

 

www.moj.go.jp

 

 本問は「対比しつつ,論ぜよ」とあるので、比較しながら論じる必要がある。

 そこで、市議会議員の選挙権の制限について検討し、市の職員という公務への就任権の制限について検討することになる、と考えられる。

 

 

 まず、本問に関連する憲法の条文を確認しよう。

 

憲法11条

 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

憲法15条1項

 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

憲法92条

 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

憲法93条2項

 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

憲法98条2項

 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

 

 また、関連判例として次のものがある。

 

昭和50年(行ツ)120号在留期間更新不許可処分取消

昭和53年10月4日最高裁判所大法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/255/053255_hanrei.pdf

(いわゆる「マクリーン事件判決」)

 

平成5(行ツ)163号選挙人名簿不登録処分に対する異議の申出却下決定取消

平成7年2月28日最高裁判所第三小法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/525/052525_hanrei.pdf

 

平成10年(行ツ)93号管理職選考受験資格確認等請求事件

平成17年1月26日最高裁判所大法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/248/052248_hanrei.pdf

 

 

 本問を見ると、「外国人の市の職員になる自由」・「外国人の市議会議員選挙における選挙権」が制限されている。

 そこで、これらの自由の制限が憲法上の権利を過度に制限するものとして違憲とならないかが問題となる。

 

 そして、本問では外国人の自由が制限されている。

 そこで、そもそも外国人にも人権享有主体性が認められるか、という点が問題となり、ここから論じることが必要になる。

 もちろん、一定の範囲で適用されることは判例も認めているから、この点を大展開する必要はない。

 しかし、そのことは書かなくてもいいことを意味しない。

 

2 外国人の人権享有主体性について

 憲法上の条文は国家権力の制限を目的としているところ、国家権力の恣意的な行使から保護すべき対象は原則として国民である

 動物・自然、団体こと法人や外国人は当然に保護する対象にはならない。

 

 この点、法人の人権享有主体性についてはこれまでの過去問検討で言及した

 では、外国人については人権規定の適用対象になるだろうか

 いわゆる外国人の人権享有主体性が問題となる。

 

 まずはこの点を検討する。

 なぜなら、この点の結論が以後の細かい点を考慮するうえで重要になるからである。

 

 この点、憲法は外国人に対して人権を保障するとは書いていない。

 しかし、ジョン・ロックが提示した生命・自由・財産に関する権利は「国家ができる前から存在している。

 そのため、人権には前国家的性格があり、国籍の有無によって享有主体性が左右されるものではない。

 また、憲法98条2項は国際協調主義を定めており近代主義の柱たる人権の尊重は「確立された国際法規」に該当する。

 以上から、外国人にも権利の性質上日本国民をその対象とするものを除き、憲法上の権利の保障を受けうるものと考える

 

 

 以上は、マクリーン事件最高裁判決の結論と重なる。

 一応、その旨述べている部分を判決文から引用する。

 

(以下、マクリーン事件最高裁判決から引用)

 思うに、憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり、

’(引用終了)

 

 以上の前提に立てば、外国人だからといって憲法上の規定が一律排除されるわけではない。

 もっとも、権利の性質上日本国民をその対象と考えている権利でなければ、基本的に憲法上の権利としての保障は受けられないことになる。

 では、市の職員になる自由、つまり、公務就任権についてはどうか。

 あるいは、市議会議員選挙における選挙権についてはどうか。

 

 

 それらについての検討は次回に。