今回はこのシリーズの続き。
司法試験・二次試験・論文式試験の平成19年度の憲法第1問を検討していく。
もっとも、過去問の検討自体は前回で終わった。
そこで、ここからは本問を通じて考えたことについて述べていきたい。
8 平成17年の最高裁判決を見直す
今回の過去問検討で定住外国人の地方政治への参政権について次の最高裁判決を取り上げた。
平成5(行ツ)163号選挙人名簿不登録処分に対する異議の申出却下決定取消
平成7年2月28日最高裁判所第三小法廷判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/525/052525_hanrei.pdf
平成10年(行ツ)93号管理職選考受験資格確認等請求事件
平成17年1月26日最高裁判所大法廷判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/248/052248_hanrei.pdf
まず、前者の事件の結論をまとめると次のようになる。
1、地方政治(地方公共団体)の参政権と公務就任権は権利の性質上日本国民をその対象にしている(権利説の不採用)
2、一定の定住外国人などに対して法律での地方議会議員や首長の選挙権を与えることは憲法は否定していない(禁止説の不採用)
この点、上の2については園田元最高裁判所裁判官によると「傍論」ですらないものらしく(後述のリンク参照、なお、井上元判事の言葉を借りれば「司法のしゃべりすぎ」に該当すると考えられる)、「不採用」とまで言っていいのかという疑問が思い浮かぶ。
しかし、後者の事件との連続性を考慮すれば、禁止説によってこの事件を判断したと考えるのは難しいと思われる。
なお、法律によって一部の定住外国人などに地方政治の選挙権を付与することを許容する見解のことを「許容説(一部許容説)」という。
次に、後者の事件で最高裁判所は地方公務員の公務就任権において次のような見解を述べている。
「公権力行使等地方公務員」・・・禁止説
「公権力行使等地方公務員」以外・・・許容説
この点、判決で「原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されている」と述べている(強調は私の手による)のに「禁止説」を採用していると言っていいのか(原則としてという限定がかけられているため)と考えなくもないが、判例の態度としてこれに近いであろう。
ところで、この判決では藤田宙靖裁判官(学者出身)の補足意見を述べている。
補足意見の具体的な内容は、本件が「特別永住者」(「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法に定める「特別永住者」)である点に注目しながらも、特別永住者に対して特段の配慮をする必要がない旨について述べている。
また、地方公共団体には人事に関する広範な裁量がある旨の意見を書いた裁判官が前回言及した金谷利廣裁判官(裁判官出身)と上田豊三裁判官(裁判官出身)である。
補足意見・意見では、本件は当不当のレベルで問題になるとしても、適法性の問題にはならないということを述べている。
まあ、裁量を前提として考えればこうなるのは当然の結論である。
他方、この判決において2人の裁判官が反対意見を書いている。
一人が滝井繁男裁判官(弁護士出身)、もう一人が泉德治裁判官(裁判官出身)である。
この二人は、管理職試験を受けるために日本国籍を一律に要求する(特段の関係を持つに至った定住外国人、例えば、特別永住者でさえ排除する)点については厳格な合理性を要求する(手段についても相当性を求める、地方公共団体の裁量を限定的に考える)旨の違憲審査基準を立て、多数意見と逆の結論を導いている。
この二人の意見は東京高等裁判所の原審(控訴審判決)と整合的である。
この二つの意見の特徴は地方公共団体の管理職が携わる職務の内容を具体的に評価しながら検討している点である。
これに対し、補足意見の方は見方が抽象的である。
まあ、地方公共団体に広範な人事制度に関する裁量権を認めれば、見方が抽象的になること自体、何の不思議もないが。
なお、私自身、正直、どちらが妥当かと言うことはわからない。
ただ、日本教に照らして考えた場合、反対意見は日本教と適合的ではないと漠然と感じるのみである。
それから、私自身、昔は地方議員・首長の選挙権については(一部)許容説がいいと考えていた。
しかし、少し前から、禁止説を採用した方がいいのではないかとは考えている。
もっとも、この点についてもあまり自信はない。
最後に、外国人に対する人権享有主体性の問題についてはいくつか考えていることがある。
しかし、それらについては次々回に検討する平成元年度の過去問でみていこうと考えている。
なぜなら、平成元年度の問題の方が論点との関連性が強いと考えるからである。
以上で本問の検討は終了する。
次回は、本問とほぼ同じ問題である平成9年度の過去問を検討する予定である。