薫のメモ帳

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司法試験の過去問を見直す19 その5(最終回)

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 旧司法試験・二次試験・論文式試験の平成5年度憲法第1問をみていく。

 

7 本問に対する当時の苦手意識

 この点、本ブログの過去問検討では憲法の第1問(人権)のみを対象としており、第2問(統治機構)は検討対象にはしていない。

 ただ、その第2問で被選挙権の制限について問われたことがある。

 それは、平成16年の憲法第2問である。

 

(以下、旧司法試験・二次試験・論文式試験の平成16年度の憲法第2問の過去問を下記サイトから引用、ただし、各文毎に改行)

 公職選挙法第10条は,被選挙権を有する者を,衆議院議員については年齢満25年以上の者,参議院議員については年齢満30年以上の者と定めている。

 この規定の憲法上の問題点を論ぜよ。

 また,同条を改正して,衆議院議員及び参議院議員のいずれも年齢満35年以上の者とした場合は,憲法上どのような問題が生じるか,論ぜよ。

(引用終了) 

 

https://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/shiken_ronbunshiken.html

 

 そして、本問の出題趣旨には次のようなことが書かれている。

 

(以下、同過去問の出題趣旨から引用、強調は私の手による)

 衆議院議員及び参議院議員の各被選挙権の年齢要件に関する公職選挙法の規定の合憲性につき,被選挙権の性質,憲法第44条,第47条等の趣旨を踏まえた理解を問うとともに,それを前提に,両議院の議員の各被選挙権の資格年齢をさらに引き上げた上,それを同じにする改正をした場合に生じる憲法上の問題点につき,両院制との関連等を踏まえた論理的思考力を問うものである。

(引用終了)

 

 この点、今回検討した過去問は知事の被選挙権が問題となっているところ、この過去問は国会議員の被選挙権が問題になっているが、本問とこの問題が似ていることに変わりはない。

 

 ところで、私が初めてこの平成16年の過去問を検討したとき、「この問題にどう答えればいいのか?」と悩んだ記憶がある。

 まあ、平成16年は私が司法試験の勉強を開始した年であり、この問題を見たのは勉強を開始して約1年程度しか経過していなかったため、そうなったこと自体にしょうがない面があったとしても。

 そして、その記憶を引きずったためであろうか、今回検討した過去問(知事の連続四選禁止)もどう答えればいいかが分からなかった(自信がなかった)記憶がある。

 

 しかし、現在、問題を検討していて「どう答えればいいか分からない」という感想を持つことはなかった

 また、今回の過去問の検討においては手順に沿って淡々と行っており、何か特別なことをしているわけでもない。

 そのため、この問題は「どう解くか」で悩む必要はなかった、ということになる。

 

 

 当時と今で何が変わったのだろうか。

 違うのは、憲法上の権利の制限に対する考え方が一本化(体系化)された、ということであろうか。

 もちろん、当時も「憲法上の権利の制限に対してどう考えるか」ということに対する答え方は用意していた。

 しかし、この答え方は総ての権利を網羅されてはいなかった。

 例えば、受益権たる国家賠償請求権を制限する法律の憲法適合性とか。

 国家賠償請求権の制限については郵便法違憲判決という著名な判決があるが、それに準じた問題が出題された場合に「どのような構成で答案を書くのか」は決まっていなかったと考えられる。

 まあ、論文試験ではそんな問題は出ないだろう、と考えていたことは否定しないとしても。

 

平成11年(オ)1767号損害賠償請求事件

裁判年月日平成14年9月11日最高裁判所大法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/038/057038_hanrei.pdf

(いわゆる郵便法違憲判決)

 

 他方、現在、改めて郵便法違憲判決に類似の事案の憲法適合性を考えるなら、それほどの苦手意識や困難さを感じない。

 また、その手段も今まで検討してきた方法を用いて淡々と考えるだけである。

 

 

 では、受験当時と現在とで何が違うのか。

 こちらの過去問検討でも似たようなことを述べたが、いわゆる「『憲法上の権利』の作法」を取得しているか否か、という点であろうか。

 より端的に言えば、次の本を読んだか否か、というのもあるかもしれない。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 

 こう考えてみると、この上の本はすごいなあ、と考える次第である。

 

8 立候補の自由の制限に対する作法

 ところで、私は本問の検討において、立法裁量と被選挙権が憲法上の規定がないこと、被選挙権の制限は参政権に対する間接的な制限にしかならないことなどから緩やかな違憲審査基準を立てている。

 果たしてこの枠組みは妥当か。

 

 これについて参考になるのが上の出題趣旨である。

 国会議員と都道府県知事という違いはあるが、被選挙権の制限を考える上では参考になるだろう。

 そして、上の出題趣旨では現行の公職選挙法の合憲性について次の点を踏まえるように書かれている。

 

・被選挙権の性質

憲法第44条と第47条の趣旨

 

 この点、憲法44条と47条には次のようなことが書かれている。

 

憲法44条

 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。

 但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。

憲法47条

 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

 

 なお、知事に関する選挙については憲法92条と93条2項に規定している。

 

憲法92条

 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

憲法93条2項

 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

 

 憲法44条のような制限について見れば「直接」選挙するという部分だけである。

 まあ、平等については憲法14条1項があるのだけれども。

 

 このように対比することで、本過去問について次のことが言えそうである。

 まず、被選挙権の法的性質について触れる必要があること

 それから、憲法92条に触れる必要があること

 本問は直接選挙との関係が一切ないため規範定立の部分で93条には触れなかった(自由で公平な選挙の実施というところで93条2項を用いただけ)が、直接選挙が関係する場合には93条2項にも触れる必要があるだろう。

 このように考えれば、合理的関連性の基準のような緩やかな基準でいいのか、という問題はあるとしても、審査基準定立までの枠組み自体に間違いはないと言ってもいいのかな、という気がする。

 

 

 以上で本過去問の検討は終わり。

 次回は最終回、平成10年度の過去問をみていこうと考えている。