薫のメモ帳

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司法試験の過去問を見直す5 その6

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 旧司法試験・二次試験の論文式試験・平成12年度の憲法第1問についてみていく。

 

10 酒税法判決の基準を用いた場合のあてはめ

 ここまで、本問で制限されている憲法上の権利が営業の自由であると考えた場合についてみてきた。

 そして、前回は「厳格な合理性の基準」を用いたあてはめについて検討した。

 

 もっとも、他に考えられる違憲審査基準として、「教育の自由の制限」で考えた場合に用いた酒税法判決の基準がある。

 

昭和63年(行ツ)56号

平成4年12月15日最高裁判所第三小法廷判決

(いわゆる「酒税法判決」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/281/054281_hanrei.pdf

 

 酒税法判決で問題となったのは「許可制による営業の自由の制限」である。

 そして、権利の制約が強いことを認める一方で、財政・租税に関する事情が規制目的にあり、政府(立法・行政)の裁量が広いことを考慮して、明白性の原則よりも厳しい基準である「著しく不合理である場合に違憲」という基準を採用した。

 本問では、不認可事由の目的が教育に関する事情であり、政府・自治体の裁量が広くなるという点で酒税法判決と同様である。

 そこで、この基準を用いることは十分可能である。

 

 もちろん、この基準を用いる前提としていわゆる「合理性の基準」があることは言うまでもない。

 だから、この基準を採用する場合、「(相対化された)規制目的二分論による違憲審査基準の定立」の部分を差し替えることになる。

 つまり、「合理性の基準」を基本に規制態様と規制目的を考慮して具体的な審査基準を立てる、という点ではどちらも同じである。

 

 

 そして、あてはめについては「教育の自由」に対するあてはめと同様になる。

 したがって、この基準を用いた場合、結論は合憲になると考えられる。

 

 

 もっとも、営業の自由の制限を認定して、この基準を用いるとあてはめが充実せず、中身の薄い答案になるかもしれない

「答案政策上」という観点から考えると、営業の自由で考えるなら厳格な合理性の基準を採用して、充実したあてはめを展開した方がいいような気がする。

 あるいは、制限される権利が「教育に関する営業の自由」であって、憲法上の権利としての教育の自由について論じた上で、要保護性が通常の営業の自由よりも弱いことを認定するとか。

 ただ、それなら「教育の自由の制限」を軸に答案を書いたほうがいいだろうが。

 

 以上、本問に回答するために必要な知識の確認は終わった。

 ここからは、本問を見直して考えたことについてつらつら述べていく。

 

11 本問が問うていること

 私が司法試験の勉強をしていたころ、本問が何を問うているのかよくわからなかった。

 教育の自由について訊いているのか、あるいは、営業の自由について訊いているのか。

 

 しかし、今、振り返ってみると、この問題はもっと大きいフレームで訊いているような気がする(あくまで「気がする」であって、これ以外の正解がないと言うつもりはない)。

 つまり、「現実の複雑な事情に即して、憲法上の権利の制限を認定し、違憲審査基準を立てて、あてはめをして、結論を出す」という意味の違憲審査のフレームワークについて訊いているのではないか、と考えている。

 

 もちろん、いわゆる人権の問題(憲法第1問)でこのフレームワークに乗らないことは平等原則や政教分離といった問題を除けば原則としてない。

 しかし、人権の問題は「表現の自由について問う」といった形で問題がよりフォーカスされていることが多い。

 このことはこれまで扱った平成3年や平成8年の過去問を見ればわかる。

 これに対して、本問にはそういったものがない。

 

 そして、この仮説・推測を前提とすると、「営業の自由の制限の認定→合理性の基準の導出→厳格な合理性の基準による違憲審査基準の定立→充実したあてはめ」という答案は「問いに答えたことになるのかな」という疑問がある。

 この点、この答案でも書いてある内容が正確で、あてはめが丁寧でであれば、合格答案になりうると考えられる。

 それでなくても、いわゆる「守りの答案」として考えるならば十分なりうるだろう。

 しかし、「充実したあてはめ」という観点から見た場合、問題文に書かれた事情はあまりに少ない。

 なんか、本問を薬事法違憲判決に引き付けて答案にしている、薬事法違憲判決を振り回している、という感じが否めないのである。

 

 また、「本問は違憲審査基準の定立の部分までで勝負が決まるのかな」という感想を抱いた。

 教育の自由を軸に答案を考えた場合、「違憲審査基準の定立」までで考えるべきこと・書くべきことはたくさんある。

 教育の自由の認定・合理性の基準の導出・具体的な審査基準の定立、どれも大変である。

 ただ、それをこなしてしまえば、あてはめはそれほど重視しなくてもいいのかもしれない。

 もちろん、最低限のあてはめは必須であるし、酒税法判決の反対意見を参考にして違憲にもっていけばさらに加点する可能性があるとしても。

 

 

 以上、本問に回答するために必要な知識をみてきた。

 本問を通じてつらつら考えたことは他にもあるが、分量(2000文字)を超えているので、残りは次回に。