薫のメモ帳

私が学んだことをメモ帳がわりに

続・マネロン・テロ資金供与対策等の勉強を始める 5

 今回は次の記事の続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン等についてみていく。

 

マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン

(以下「ガイドライン」という。)

https://www.fsa.go.jp/common/law/amlcft/211122_amlcft_guidelines.pdf

 

・マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)

(以下「FAQ」という。)

https://www.fsa.go.jp/common/law/amlcft/amlcftgl_faq.pdf

 

7 第2章第1節を読む

 第2章のタイトルは「リスクベース・アプローチ」。

 この章では、「リスクベース・アプローチに基づくマネロン・テロ資金供与対策」について具体的に実施すべきことが述べられている。

 

 そして、第2章第1節のタイトルは「リスクベース・アプローチの意義」。

 前提となる「リスクベース・アプローチ」それ自体について触れられている。

 

 

 では、第1節の本文を見ていく。

 第1節の構成及びその内容は次のとおりである。

 

・ リスクベースアプローチの定義

・ リスクベースアプローチが求められる趣旨

・ 結論

・ FATFの第1勧告に関する補足

 

 きれいな構成となっている(私なら「FATFの第1勧告に関する補足」と「結論」の順番を入れ替えるかもしれないが)。

 まあ、金融庁が公表する文章、しかも、法令の解釈を示すための文章であるから、当然のことであると言われればそれまでだが。

 

 

 各項目の内容をまとめると次のようになる。

 

・ リスクベースアプローチの定義

 マネロン・テロ資金供与対策におけるリスクベース・アプローチとは、金融機関等が、①自らのマネロン・テロ資金供与リスクを特定・評価し、②これをリスク許容度の範囲内に実効的に低減するため、③当該リスクに見合った対策を講ずることをいう。

 

・ リスクベースアプローチが求められる趣旨

 マネロン・テロ資金供与の手法や態様は、様々な経済・社会環境において変化していること、特に、情報伝達の容易性や即時性の高まった現状においては、高度化に後れをとった金融機関等が瞬時に標的とされてマネロン・テロ資金供与に利用されるリスクも高まっていることを考慮すれば、金融機関等によるマネロン・テロ資金供与対策の方も、マネロン・テロ資金供与の手法や態様の変化に応じて、不断に高度化を図っていく必要がある。

 

・ 結論

 金融機関等においては、マネロン・テロ資金供与リスクを自ら適切に特定・評価し、これに見合った態勢の構築・整備等を優先順位付けしつつ機動的に行っていくため、リスクベース・アプローチによる実効的な対応が求められる。

 

・ FATFの第1勧告に関する補足

 国際的にみた場合、リスクベース・アプローチの実施は、FATFの策定した「40の勧告」の第1項において言及されているところ、このリスクベース・アプローチは、FATFの勧告の全体を貫く基本原則となっているなど、標準的なアプローチとなっている。

 

 

 以上が第1節の内容である。

 この点、金融機関等が採用すべきリスクベース・アプローチを見ていくと、その背後に「金融機関等がリスクを特定・評価せよ。自分たちの残存リスクを決めよ。そして、そのための措置を決めて実行せよ」という価値観があることになる。

 そして、この価値観の背後には、様々な経済・社会環境(資金洗浄の背景となる犯罪等の動向、産業や雇用の環境、人口動態、法制度、IT 技術の発達に伴う取引形態の拡大、経済・金融サービス等のグローバル化の進展等)の中でマネロン・テロ資金供与の手法・態様が常に変化していくという社会的状況がある。

 

 しかし、全金融機関等にそれができるのか(第1章第3節の参照)、それが効率的なのか、という疑問を感じなくはない。

 この点、最終的は決定は個々の金融機関等の経営陣が行うしかない

 しかし、ある程度、因数分解のような作業が必要であって、その作業の結果を犯罪収益移転危険度調査書(今年のものは次のリンク先のとおり)以外の方法で示す必要があるのではないか、そういう疑問を持たないではない。

 まあ、実際は私が知らないだけで、現実にはそういう資料(地方毎・規模毎の犯罪収益の移転の危険性を検討した文章)があるのかもしれないが。

 

 

 さて、第2章第1節では「FATF勧告」の第1項に言及している。

 財務省のサイトに仮訳があったので、こちらを確認しておく。

 

FATF 勧告(仮訳)

https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11194366/www.mof.go.jp/international_policy/convention/fatf/fatf-40_240216_1.pdf

 

(以下、上のpdfファイルからFATF勧告の第1項「リスクの評価及びリスク・ベース・アプローチの適用」の部分を引用したもの、各文毎に改行、強調は私の手による)

1.リスクの評価及びリスク・ベース・アプローチの適用【新規】

 各国は、自国における資金洗浄及びテロ資金供与のリスクを特定、評価及び把握すべきであり、当該リスクを評価するための取組を調整する関係当局又はメカニズムを指定することを含み、当該リスクの効果的な軽減を確保するために行動し、資源を割り当てるべきである。

 各国は、当該評価に基づき、資金洗浄及びテロ資金供与を防止し又は低減するための措置が、特定されたリスクに整合的なものとなることを確保するため、リスク・ベース・アプローチ(RBA)を導入すべきである。

 この方法は、資金洗浄及びテロ資金供与対策の体制やFATF勧告全体にわたるリスクに応じた措置の実施における資源の効率的な配分にあたっての本質的基礎とならなければならない

 各国は、リスクが高いと判断する場合、自国の資金洗浄・テロ資金供与対策の体制
が当該リスクに十分に対処することを確保しなければならない。

 各国は、リスクが低いと判断する場合、一定の条件の下で、いくつかのFATF勧告の適用に当たって、簡素化された措置を認めることを決定してもよい。

 各国は、金融機関及び特定非金融業者及び職業専門家(DNFBPs)に対し、資金洗浄及びテロ資金供与のリスクを特定、評価及び低減するための効果的な行動をとることを求めるべきである。

(引用終了)

 

 FATFは国際機関であるので、当然というべきか、義務を求める名宛人は金融機関等ではなく国(政府)となっている

 

 あと、ざっと見た印象に過ぎないが、この文章の趣旨は「リスクベース・アプローチでマネロン・テロ資金供与対策をやれ」ではなく、「ルール・ベースでマネロン・テロ資金供与対策をやるな」ということなのかもしれない

 現実のマネロン・テロ資金供与の方法・態様を考慮すれば、ルール・ベースでは実効性のある対応ができない可能性が高まるのだから。

 

 

 では、今回はこの辺で。

 次回は、第2章の第2節に移り、ガイドラインが各金融機関に対して求めている実施内容について具体的に見ていくことにする。