薫のメモ帳

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司法試験の過去問を見直す18 その1

 私はこれまで「旧司法試験・二次試験・論文式試験憲法第1問」を見直している。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 そして、平成元年度から平成20年度までの過去問のうち、17問の検討が終わった。

 残るは平成2年度、平成5年度、平成10年度の3問である

 

 今回から具体的に見ていくのは平成2年度の過去問である。

 本問のテーマは「平等原則とアファーマティブアクション、または、平等原則と私人間適用」である、と考えている。

 

1 旧司法試験・論文試験・憲法・平成2年度第1問

 まず、問題文を確認する。

 なお、昔の過去問であることから、問題文は次の教科書にあったものを引用した(書籍のリンク先は最新版のものだが、私が引用したのは当時の版、つまり、第2版である)。

 

 

(以下、司法試験二次試験・論文式試験・平成2年度・憲法第1問の問題文を引用、なお、文毎に改行)

 ある市において一般職員の採用に関し、身体障碍者については健常者に優先して一定の割合で採用すること、男性については肩までかかる長髪の者は採用しないこと、を内容とする条例を定めたとする。

 この場合の憲法上の問題点について論ぜよ。

 私企業が同じ扱いをした場合についても論ぜよ。

(引用終了)

 

 問題文を見ていくと、次の4つについて検討する必要があるようである。

 

1、ある市の一般職員の採用に関し、身体障碍者については健常者に優先して一定の割合で採用することを条例で定めたこと

2、ある市の一般職員の採用に関し、男性については肩までかかる長髪の者は採用しないことを内容とする条例を定めたこと

3、私企業が一般職員の採用に関し、身体障碍者については健常者に優先して一定の割合で採用する旨決定したこと

4、私企業が一般職員の採用に関し、男性については肩までかかる長髪の者は採用しない旨決定したこと

 

 問題1と2が設問前段、問題3と4が設問後段ということになる。

 このように、検討すべきものが4つあるとなると「分量が多いな」という感じがしないではない。

 また、本問を労働法の問題として考えると、より具体的な検討が可能になる、と考えられる。

 しかし、問題の検討にあたっては労働法に立ち入ることにはしない

 

 

 さて、本問の検討にあたって参考にすべき条文を確認する。

 

憲法13条後段

 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

憲法14条1項

 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

憲法22条1項

 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

 

 それから重要となる判例として次のものがあげられる。

 

 昭和37年(オ)1472号待命処分無効確認、判定取消等請求事件

昭和39年5月27日最高裁判所大法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/093/053093_hanrei.pdf

 

 昭和43(オ)932号労働契約関係存在確認請求事件

昭和48年12月12日最高裁判所大法廷判決

(いわゆる「三菱樹脂事件最高裁判決」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/931/051931_hanrei.pdf

 

昭和54(オ)750号雇傭関係存続確認等事件

昭和56年3月24日最高裁判所第三小法廷判決

(いわゆる「日産自動車事件最高裁判決」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/345/056345_hanrei.pdf

 

 昭和55年(行ツ)15号所得税決定処分取消事件

昭和60年3月27日最高裁判所大法廷判決

(いわゆる「サラリーマン税金訴訟最高裁判決」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/662/052662_hanrei.pdf

 

平成19年(行ツ)164号国籍確認請求事件

平成20年6月4日最高裁判所大法廷判決

(いわゆる「国籍法違憲判決」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/416/036416_hanrei.pdf

 

平成24年(ク)984号遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件

平成25年9月4日最高裁判所大法廷決定

(いわゆる「非嫡出子相続分差別規定違憲決定」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/520/083520_hanrei.pdf

 

平成25年(オ)1079号損害賠償請求事件

平成27年12月16日最高裁判所大法廷判決

(いわゆる「再婚禁止規定違憲判決」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/547/085547_hanrei.pdf

 

 この点、平成15年度の過去問でも平等原則がテーマになった。

 しかし、平成15年度の過去問では「再婚禁止規定」がストレートに問われたため、直接関連する判例だけを言及した。

 これに対して、今回は平等原則が絡む判例をある程度紹介している。

 

 

 さて、設問前段は平等原則が問題となっている。

 そのため、通常の「憲法上の権利の制限」に従って検討せず、平等原則に反しないかを検討していくことになる。

 これに対して、設問後段は権利の制限主体が私人になるため平等権の問題になる。

 そこで、こちらは「憲法上の権利の制限」に従い、さらに、人権規定の私人間適用についてみていくことになる。

 

 以下、設問前段(条例について)について検討する。

 

2 平等原則の中身

 まず、設問前段の内容を確認しよう。

 その結果、設問前段の全体の問題提起は次のようになることが分かる。

 

 

 本問では、一般職員の採用に際して条例が適用された結果、①身体障碍者の採用が優先する結果、健常者や知的障碍者・精神障碍者との間で採用基準に差が生じることになる。

 また、②肩までかかる長髪の者のうち、男性のみが一切採用されないということになり、男女間で採用基準に差が生じることになる。

 そこで、本問条例による採用基準に関する異なる取り扱いが平等原則(憲法14条1項)に反しないかが問題となる。

 

 

 ということで、平等原則違反という問題提起がなされた

 次に、平等原則の具体的な内容を見ていく。

 この辺は次の過去問検討でみてきたから、概略を示すにとどめる。

 

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 まず、平等原則についての「法の下」の意義が問題となるが、「法の下」の平等とは法適用の平等のみならず、法内容の平等をも要求しているものと解する。

 何故なら、不平等な内容の法律を平等に適用したとしても、不平等な結果が生じてしまうからである。

 次に、「平等」の意義が問題となるが、不合理を差別を禁止し、合理的区別を許容する実質的・相対的平等を指すものと解する。

 何故なら、状況が異なる場合にはそれぞれに合わせた異なる対応をした方が合理的な結果が実現するし、憲法では社会福祉政策を予定している(憲法25条以下)からである。

 以下、設問前段の条例による採用基準の差が合理的区別と言えるかどうかを検討する。

 

 

 コンパクトにまとめてしまったが、こんな感じになるであろう。

 なお、この点に関する最高裁判所の主張を判決文から確認する。

 

(以下、サラリーマン税金訴訟最高裁判決から引用、一部中略、各文毎改行、強調は私の手による)

 憲法一四条一項は、すべて国民は法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない旨を明定している。

 この平等の保障は、憲法の最も基本的な原理の一つであつて、課税権の行使を含む国のすべての統治行動に及ぶものである

 しかしながら、国民各自には具体的に多くの事実上の差異が存するのであつて、これらの差異を無視して均一の取扱いをすることは、かえつて国民の間に不均衡をもたらすものであり、もとより憲法一四条一項の規定の趣旨とするところではない。

 すなわち、憲法の右規定は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であつて、国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものではないのである。

(引用終了)

 

 

 以下、本問条例の採用基準の差が合理的と区別と言えるかをみていく。

 ただ、既にそれなりの分量になっているため、これらについては次回に。