今回はこのシリーズの続き。
司法試験・二次試験・論文式試験の平成7年度の憲法第1問を見ていく。
なお、問題文の検討は既に終わっているので、今回は本問を通じて考えたことを述べていくことにする。
9 本問で問われていること
改めて本問を再検討して気になったことがある。
それは、「本問は何をどこまで訊いているのだろう」という点である。
この点、放送事業者の観点から見た場合、「本問要求による放送事業者の放送編集の自由の違憲性」は間違いなく論じる必要がある。
ただ、放送事業者の放送編集の自由を「憲法上の権利の作法」に沿って論じればそれだけでいいのだろうか。
最初に気になったのが、「新聞と対比しつつ」という点がどのレベルまで要求されているのか、という点である。
例えば、放送の自由を検討する際に新聞との対比を指摘するだけでいいのだろうか。
それだけではなく、「新聞の編集の自由に対する本問要求の違憲性」まで論じるべきなのだろうか。
そして、新聞についても憲法上の権利の作法に沿って話す場合、新聞の編集の自由に対する違憲審査基準はどうなるだろうか。
また、本問要求が現行法上とほぼ同様である以上、放送に対する本問要求は合憲となるであろうが、新聞に対する本問要求は果たして違憲になるのだろうか。
新聞には現行法上は規制がないが、仮に、新聞紙法を制定して本問要求のようなことを規制した場合、最高裁判所が違憲にするとは少々考え難いのだが。
次に気になったのが、「できるだけ多くの角度」とか「政治的公平」を要求するのは、明確性の原則との関係を問題がないのだろうかという点を検討すべきか否か、という点である。
明確性の原則に反しないか否かの基準は具体的な基準が条文から読み取れるかどうかで決まるから、本問要求の曖昧さを考慮すれば問題にならないとは到底言えない。
また、本問要求に応じなかったときの制裁の全くなければ(問題文中には言及がない)、そもそも憲法上の権利の制限と言えないのではないか、その辺はどうか、とか。
以上は放送事業者サイドの問題であるが、視聴者サイドの検討についてもどこまで見ればいいのだろうか。
本問要求が一定の番組視聴の自由の制限になる、という点だけを検討すればいいのだろうか。
もっとも、他のメディアを通じて知ることができる点を考慮すれば、そもそも知る権利の制限にあたると言えるのか。
また、本問要求を利用して放送事業者にアクセスする権利のことまで書くべきか。
などなど、以上のように考えていけば、どこまで書けばいいのか正直よくわからない。
一応、今回の検討では、「新聞については放送との対比で触れればよく、新聞について審査基準を立ててあてはめて結論を出すということはしない」・「本問要求に反したときの不利益処分についてはあてはめの部分で考慮し、規範定立までは特に言及しない」・「明確性の原則については本問要求による不利益処分がないものとして検討する」・「視聴者については制限とアクセスの両方を考える」ということにしたが。
10 放送の自由について
ところで、本問要求の違憲性は憲法の基本書に普通に登場する論点である。
では、この論点についてはどう考えればいいのだろうか。
まず、電波の希少性を考慮すれば、放送の自由は万人に開かれた権利ではない。
この点は、インターネットや多チャンネル化が進んだ現在においても、大手メディアによる電波の独占といった現状を考えれば、なかなか否定できないと考えられる。
とすれば、思想言論の自由市場の自浄作用に期待するのは難しいように考えられる。
第二に、空気に振り回されている日本の現状を見ると、動画の威力を軽んじるのも無理ではないかと考えられる。
司法試験の勉強を始めたころ(約20年前)、初めてこの主張を聴いたときは「いささか国民を馬鹿にしすぎではないか」という感想を持ったが、現時点から考えれば、「まあ、そうだよな」にならざるを得ない。
以上を考えると、本問要求を倫理規定としてみた場合にも否定するのはきついと考えられる。
まあ、直接的な不利益処分が伴えば、さておくとしても。
あと、メディア規制に対する批判は一面においてはもっともであると感じる一方、日本のメディアの体たらくを見ると考えるところがなくはない。
私はビデオニュース・ドットコムの番組をかれこれ15年以上見続けており、その影響を大きく受けている面がないわけではないとしても。
そして、メディアを見ていると、「正直、規制を強めて加速主義的な展開にしてしまった方がいいのではないか」と考えることはある。
しかし、加速主義的な展開には相応の悲劇が生じる。
また、太平洋戦争などを見てみると、「日本教徒が歴史から学ぶ」という展開もピンとこない。
などと考えると、加速主義的な方向に引っ張っても、結局何も変わらないのではないか、ということになり、へなへなへな、となってしまうわけだが。
以上で本問の検討を終了する。
次回は、、、平成2年度の過去問を検討しようと考えている。