薫のメモ帳

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司法試験の過去問を見直す4 その4

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 前回、「今回は立法不作為について」などと書いたが、平等原則について考えたことがあったので、それについてメモにまとめる。

 

5 平等原則の文章構成について

 司法試験の論文試験、その答案には一定の「型」がある。

 ここで「型」と書いたが、「テンプレート」・「論証パターン」等と言い換えてもよい。

 

 この点、このような「型」を用いることについて、「型」を用いること自体を否定する見解もある。

 しかし、司法試験の答案では知識だけが問われているだけではない。

 理解力・思考力・判断力も問われていることは、司法試験法3条4項をみれば明らかである。

 そして、思考力には「思考の過程」も含まれる。

 また、論文試験は書かれた答案の内容が総てである。

 ならば、「一定の思考の過程を踏まえていること」を答案上に明確に示さなければならない。

 そして、思考の過程を示すために「一定の型」を採らざるを得ない。

 

 以上を考慮すれば、「型」について最初から最後まで一切考慮しないのはまずい。

 もちろん、「『型』なんか意識せずに使えるようになるべきである」とか「『型』の質が問題外だ」といったことはいくらでもあっても。

 

 

 ところで、司法試験法3条4項とは次のような条文である。

 

(以下、司法試験法3条第4項、強調は私の手による)

 司法試験においては、その受験者が裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を備えているかどうかを適確に評価するため、知識を有するかどうかの判定に偏することなく、法律に関する理論的かつ実践的な理解力、思考力、判断力等の判定に意を用いなければならない。

 

 ちなみに、司法試験法は法律である。

 つまり、国民の代表者で構成される国会が、行政(ここでは、法務省司法試験委員会)に対して、「お前ら、司法試験をやる際には、知識の有無だけに偏った判定するんじゃねーぞ。理解・思考・判断についてもちゃんと判定しろよ」と命令しているわけである。

 考えてみればシュールである。

 

 

 さて、設問1で問われている平等原則のケース。

 当時の私が持っていた平等原則のケースの答案の「型」は次のような感じであった。

 

(以下、答案の型)

1 設問に存在する憲法上の問題点の指摘

2 平等原則について

(1)「法の下」の意義

(2)「平等」の意義

3 違憲審査基準の定立

(1)後段列挙事由の趣旨の指摘

(2)具体的な基準の設定

4 事案の検討

(1)目的の検討

(2)手段の関連性の検討

(3)不利益の程度に関する検討

(4)基準に適合するかの結論

5 設問に対する結論

(以上、終了)

 

 この答案の型はオーソドックスなものであり、いわゆる予備校の教科書であればこれに類似のものが必ず書いてある。

 だから、設問1の場合、この答案の型に事案をあてはめていけば、そこそこの答案を書くことができる、

 というか、「これすらできない」ようでは話にならない。

 

 

 ところで、この答案の型、設問1はそのまま使えた。

 しかし、設問2はそのまま使うと結論に不都合があったため、原則修正パターンを使って修正することになった。

 

「修正が必要」ということは答案の型として不十分であることを意味する。

(なお、試験本番でこの型を修正する力があればこの型だけで足りるところ、その力は合格する上で極めて重要であること、また、覚えることの多さ等の問題を考慮すれば、この「型」をまず押さえるという手段は合格という目的に対して有効・適切とも言いうる)。

 そこで、どうすればより精密になるのかについて検討する。

 

 この点、1と5は文章として不可欠な部分(問題提起と結論)なのでいじる必要はない。

 また、2は法解釈の問題であり、教科書の内容をそのまま書いてあるわけだから、ここもいじる必要はない。

 さらに、4のあてはめは3によって決まる。

 そこで、3の審査基準の定立部分について考えることになる。

 

 

 この型を形式的に見た場合の問題点は「後段列挙事由か否か」という二分法になっていることである。

 そのため、①「日本国籍を有する人に『住所』を理由として選挙権(極めて重要な憲法上の権利)を与えない、選挙権の価値に差をつける」というケースにおいて、平等原則違反か否かを判断する際には緩やかに判断するということになりかねない。

 また、②アファーマティブ・アクションのような社会福祉政策においては一定の立法裁量が憲法上認められているところ、その点を審査基準に反映できない、という問題もある。

 設問2では②が問題となった。

 

 とすれば、審査基準を定立前に考慮すべき要素を追加する必要があることになる。

 まず、①後段列挙事由は重要である。

 例示列挙に過ぎないと考える場合であっても、「条文がある」ことを考慮すれば、言及しないのはまずい。

 また、前述の点を考慮すると、②立法裁量とそれを裏付ける条文も触れるべき要素になる。

 設問2であれば、社会権等の規定がこれにあたる。

 また、このように考えれば、設問1において憲法24条について触れるべきということになる。

 では、③制限される憲法上の権利の内容と制限の程度については審査基準の段階で触れるべきであろうか。

 この点、審査基準の要素を①目的・②手段の関連性・③不利益の程度の3つにして考える場合、あてはめで言及することになるので先に検討する必要はない、と言うことはできる。

 しかし、制限する権利によって審査基準の密度を変更するならここで触れる必要がある。

 例えば、選挙訴訟のように。

 ならば、ここで触れるべきであろう。

 

 

 このように考えることで、平等原則の型をより精密に修正出来た気がする。

 改めてその型を表示するとこんな感じになる。

 

(以下、答案の型)

1 設問に存在する憲法上の問題点(事実と事実が抵触しうる原則・条文)の指摘

2 平等原則についての解釈

(1)平等原則における「法の下」の意義

(法適用の平等だけではなく、法内容の平等を含む)

(2)平等原則における「平等」

(形式的・機械的平等ではなく、実質的・相対的平等をいい、合理的区別を許容する)

3 平等原則違反に関する違憲審査基準

(1)後段列挙事由・立法裁量と関連する条文・制限される権利と制限の程度の指摘

(2)審査基準の設定

4 事案の検討

(1)目的の検討(事実の指摘、事実の評価、目的要件の結論)

(2)手段の関連性の検討(事実の指摘、事実の評価、関連性要件の結論)

(3)利益の関する検討(事実の指摘、事実の評価、利益要件の結論)

(4)審査基準に適合するか否かの結論

5 設問に対する結論

(以上、終了)

 

 これなら「より良い型」になったと言えるかな。

 また、後段列挙事由を例示列挙と考える型に近くなったような気がする。

 

 

 では、今回はこの辺で。

 次回はこの手の訴訟で問題となる争点、「立法不作為」について知識を確認し、私の考えたことをメモにしていく。