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司法試験の過去問を見直す16 その4

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 司法試験・二次試験・論文式試験の平成6年度の憲法第1問を検討していく。

 

6 森林法共有林事件のあてはめ

 前回、森林法共有林事件の違憲審査基準についてみてきた。

 実を言うと、本問の検討において、この判決を細かく見る必要はない。

 しかし、検討する20問の過去問のうち、財産権を扱う問題はこの問題だけである。

 そこで、これを機にこの判決のあてはめについてみておく。

 

昭和59年(オ)805号共有物分割等

昭和62年4月22日最高裁判所大法廷判決

(いわゆる森林法共有林違憲判決)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/203/055203_hanrei.pdf

 

 まず、違憲審査基準を確認する。

 違憲審査基準は次の3つのどれかを満たすこと、である。

 

①規制目的が「公共の福祉」に合致しないことが明らか

②規制手段が合理性を欠くことが明らか

③規制手段が必要性を欠くことが明らか

 

 以下、①から③の部分について判決をみていこう。

 

 まず、本件で問題となっている権利(森林のある土地の共有者の分割請求権)が憲法上の権利の制限にあたることを認定している

 大事な部分なので、この部分もみておこう。

 

(以下、森林法違憲判決から引用、セッション番号などは省略、各文毎の改行、ところどころ中略、強調は私の手による)

 森林法一八六条は、共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者(持分価額の合計が二分の一以下の複数の共有者を含む。以下同じ。)民法二五六条一項所定の分割請求権を否定している。(中略)

 共有とは、複数の者が目的物を共同して所有することをいい、(中略)、共有関係にあるというだけでは、それ以上に相互に特定の目的の下に結合されているとはいえないものである。

 そして、共有の場合にあつては、(中略)、単独所有の場合に比し、物の利用又は改善等において十分配慮されない状態におかれることがあり、また、共有者間に共有物の管理、変更等をめぐつて、意見の対立、紛争が生じやすく、いつたんかかる意見の対立、紛争が生じたときは、共有物の管理、変更等に障害を来し、物の経済的価値が十分に実現されなくなるという事態となるので、同条は、かかる弊害を除去し、共有者に目的物を自由に支配させ、その経済的効用を十分に発揮させるため、各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができる(中略)。

 このように、共有物分割請求権は、各共有者に近代市民社会における原則的所有形態である単独所有への移行を可能ならしめ、右のような公益的目的をも果たすものとして発展した権利であり、(中略)。

 したがつて、当該共有物がその性質上分割することのできないものでない限り、分割請求権を共有者に否定することは、憲法上、財産権の制限に該当し、(後略)。

(引用終了)

 

 興味深いのは、当時の森林法186条が否定している民法256条の分割請求権について、憲法上の権利の制限にあたることを丁寧に認定していることである。

 司法試験において「憲法上の権利の制限にあたる」部分が重要であることがこの判決から伺うことができる。

 

 

 次に、規制目的の部分のあてはめをみていく。

 

(以下、森林法違憲判決から引用、セッション番号などは省略、各文毎の改行、ところどころ中略、強調は私の手による)

 森林法一八六条は、森林法(明治四〇年法律第四三号)(以下「明治四〇年法」という。)六条(中略)の規定を受け継いだものである。

 明治四〇年法六条の立法目的は、(中略)、森林の細分化を防止することによつて森林経営の安定を図ることにあつたものというべきであり、当該森林の水資源かん養、国土保全及び保健保全等のいわゆる公益的機能の維持又は増進等は同条の直接の立法目的に含まれていたとはいい難い。

(中略)現行の森林法は、明治四〇年法六条の内容を実質的に変更することなく、その字句に修正を加え、規定の位置を第七章雑則に移し、一八六条として規定したにとどまるから、同条の立法目的は、明治四〇年法六条のそれと異なつたものとされたとはいえないが、森林法が一条として規定するに至つた同法の目的をも考慮すると、結局、森林の細分化を防止することによつて森林経営の安定を図り、ひいては森林の保続培養と森林の生産力の増進を図り、もつて国民経済の発展に資することにあると解すべきである。
 同法一八六条の立法目的は、以上のように解される限り、公共の福祉に合致しないことが明らかであるとはいえない。

(引用終了)

 

 つまり、分割請求権の制限の目的は「森林の細分化を防止することによつて森林経営の安定を図り、ひいては森林の保続培養と森林の生産力の増進を図り、もつて国民経済の発展に資すること」にある。

 また、「当該森林の水資源かん養、国土保全及び保健保全等」は目的には含まれていないらしい

 もちろん、規制目的の合理性が否定されることはめったにない。

 ただ、規制目的を限定して認定している点は見ておくべきことかもしれない。

 

 

 さらに、規制手段の合理性についてみていく。

 

(以下、森林法違憲判決から引用、セッション番号などは省略、各文毎の改行、ところどころ中略、強調は私の手による)

 森林が共有となることによつて、当然に、その共有者間に森林経営のための目的的団体が形成されることになるわけではなく、また、共有者が当該森林の経営につき相互に協力すべき権利義務を負うに至るものではないから、森林が共有であることと森林の共同経営とは直接関連するものとはいえない。

 したがつて、共有森林の共有者間の権利義務についての規制は、森林経営の安定を直接的目的とする前示の森林法一八六条の立法目的と関連性が全くないとはいえないまでも、合理的関連性があるとはいえない

 森林法は、(中略)、共有者間、ことに持分の価額が相等しい二名の共有者間において、共有物の管理又は変更等をめぐつて意見の対立、紛争が生ずるに至つたときは、各共有者は、共有森林につき、同法二五二条但し書に基づき保存行為をなしうるにとどまり、管理又は変更の行為を適法にすることができないこととなり、ひいては当該森林の荒廃という事態を招来することとなる。

(中略)、森林法一八六条が共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に民法の右規定の適用を排除した結果は、右のような事態の永続化を招くだけであつて、当該森林の経営の安定化に資することにはならず、森林法一八六条の立法目的と同条が共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に分割請求権を否定したこととの間に合理的関連性のないことは、これを見ても明らかであるというべきである。

(引用終了)

 

 まとめると次のようになる。

 

1、経営と共有は直接関係しないから、分割請求権の制限と森林経営の安定化との間に合理的関連性があるとは言えない。

2、共有者の分割請求権を否定した場合、共有者間で紛争が発生すると、各共有者は保存行為しかできないため、森林の荒廃化を招き、森林経営に資することはないので、目的と関係で合理的関連性を欠くことが明白である。

 

 重要なのは2であろう。

 興味深いのは、「合理性を欠くことが明らか」=「合理的関連性が欠くことが明らか」となっていることであろうか。

 規制手段が目的を促進しないならこのような結論もさもありなん、と言いうる。

 

 

 さらに、必要性のあてはめも見ていこう。

 

(以下、森林法違憲判決から引用、セッション番号などは省略、各文毎の改行、ところどころ中略、強調は私の手による)

 森林法は森林の分割を絶対的に禁止しているわけではなく、(中略)許されていないのは、持分価額二分の一以下の共有者の同法二五六条一項に基づく分割請求のみである。

 共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に分割請求権を認めた場合に、(中略)、当該共有森林が常により細分化されることになるとはいえないから、森林法が分割を許さないとする場合と分割等を許容する場合との区別の基準を遺産に属しない共有森林の持分価額の二分の一を超えるか否かに求めていることの合理性には疑問があるが、(中略)、共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者からの民法二五六条一項に基づく分割請求の場合に限つて、他の場合に比し、当該森林の細分化を防止することによつて森林経営の安定を図らなければならない社会的必要性が強く存すると認めるべき根拠は、これを見出だすことができないにもかかわらず、森林法一八六条が分割を許さないとする森林の範囲及び期間のいずれについても限定を設けていないため、同条所定の分割の禁止は、必要な限度を超える極めて厳格なものとなつているといわざるをえない。

 まず、森林の安定的経営のために必要な最小限度の森林面積は、当該森林の地域的位置、気候、植栽竹木の種類等によつて差異はあつても、これを定めることが可能というべきであるから、(中略)、一律に現物分割を認めないとすることは、同条の立法目的を達成する規制手段として合理性に欠け、必要な限度を超えるものというべきである

 また、当該森林の伐採期あるいは計画植林の完了時期等を何ら考慮することなく無期限に分割請求を禁止することも、(中略)必要な限度を超えた不必要な規制というべきである。

(中略)また、共有者が多数である場合、その中のただ一人でも分割請求をするときは、直ちにその全部の共有関係が解消されるものと解すべきではなく、当該請求者に対してのみ持分の限度で現物を分割し、その余は他の者の共有として残すことも許されるものと解すべきである。

 以上のように、現物分割においても、当該共有物の性質等又は共有状態に応じた合理的な分割をすることが可能であるから、共有森林につき現物分割をしても直ちにその細分化を来すものとはいえないし、また、同条二項は、競売による代金分割の方法をも規定しているのであり、この方法により一括競売がされるときは、当該共有森林の細分化という結果は生じないのである。したがつて、森林法一八六条が共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に一律に分割請求権を否定しているのは、同条の立法目的を達成するについて必要な限度を超えた不必要な規制というべきである

(引用終了)

 

 まとめると「次の疑義を解消できないため必要性がない」ということになるようだ。

 

・単独所有者が森林を分割すること、遺産分割協議で森林を分割することは許容しているところ、これらの分割と共有者の分割請求権を行使した場合に差があるのか(なければ、後者を制限する理由がない)

・分割禁止期間・土地の大きさ・森林経営計画の状況によらず一律に分割請求権を制限している分、規制の程度が過剰(不必要)

・分割請求の結果、価格賠償や一括競売になることもなるため、必ずしも土地が細分化されるわけではないから、規制の程度が過剰(不必要)

 

 

 以上のあてはめにより、規制手段の合理性と必要性の両方がないことが明らかであると認定し、法令違憲判決を下した

 なお、この判決を読むと、合理性と必要性という言葉がどのように使われているかが分かり、参考になる。

 

 

 以上、判決文をみてきた。

 なお、この判決の補足意見・意見・反対意見から色々なものが読み取れる。

 この点については、問題検討の後にみていきたい。

 

 では、以上を踏まえて、本問のあてはめをしよう。

 もちろん、結論は合憲だし、本題はこれからなので、それほど手厚い分析をする必要はない。

 

7 森林法共有林事件を用いたあてはめ

 一応、問題文を再掲する(引用元は前回と同様ゆえ省略)。

 

(以下、司法試験二次試験・論文式試験・平成6年度憲法第1問の問題文を引用)

 用地の取得が著しく困難な大都市において、公園及び公営住宅の建設を促進するために、当該都市に所在する私有の遊休土地を市場価値より低い価格で収用することを可能とする法律が制定されたと仮定する。

 この法律に含まれる問題点を挙げて論ぜよ。

(引用終了)

 

 では、あてはめをやっていこう。

 といっても、事実認定・事実の評価は似たり寄ったりだろうが。

 

 

 まず、本問法律の目的は、公園及び公営住宅の建設の促進することにある。

 大都市において公園や公営住宅を建築をすれば、その都市圏の福祉政策が実効化することで生活環境を向上させることができ、これは幸福追求権(憲法13条後段参照)の実効化に寄与する。

 よって、その目的が「公共の福祉」に合致しないことが明らかであるとは言えない。

 次に、公園・公営住宅を建設するためには土地が必要になるところ、大都市では土地の取得が困難であるから、土地を収用する手段は目的を直接促進することになる。

 ならば、本問法律の手段は目的との関係で合理性関連性があると言える。

 また、収用対象の土地は所有者が活用する意図のない遊休土地が対象となっているところ、土地の収用を回避したければ土地を活用することで収用対象から逃れることもできるため、制限の程度は軽微である。

 さらに、低額とはいえ一定の対価が支払われること、後述するようにこの額が不当・不合理な場合、憲法29条3項を根拠として差額分を請求することを考慮すれば、本問法律の手段が過剰な制限とは言えない。

 したがって、本問法律の手段は合理性または必要性が欠くことが明らかとは言えない。

 以上より、本問法律は財産権に対する「公共の福祉」による合理的な規制と言える。

 

 

 一気に書いたがこんなところであろうか。

 この点、前回のあてはめで触れたことで今回のあてはめで抜けてしまったことは、積極目的規制であるがために立法裁量がより広くなることであろうか。

 ただ、丁寧な当てはめができれば、この点を落としてもそんなに問題にならないのかもしれない、とは言えそうである。

 本問のメイン論点は損失補償であろうから。

 

 

 以上、財産権の制限についてみてきた。

 次回は、損失補償の是非についてみていく。