今回はこのシリーズの続き。
前々回と前回は「法令の適用」にポイントをあてていたため、話の軸が司法試験にあった。
しかし、今回の話は司法試験だけではなく、マネロン対策に話を戻す予定である。
6 判例の重要性
まず、前々回に触れた司法試験で問われる能力を再掲載する。
① 事案(事件)を短時間で正確に把握する能力
② 法令を適用する能力
③ 妥当な結論を導く能力
④ ①~③の思考過程を文章で説明する能力
そして、前回までで「定義・趣旨・条文」が関係するのは②の法令を適用する能力である旨確認した。
では、判例はどのような位置づけになるのか。
前回まで見てきた通り、判例は具体的な事案に対して法令が適用された結果である。
だから、判例は「定義・趣旨・条文」が具体化されたものとして重要な価値を持つ。
例えば、司法試験で登場する定義については判例などで言及しているものがたくさんある。
したがって、その定義を用いることは実務上は必須であるし、司法試験においても極めて有益である。
なにしろ、実務に出れば判例がものをいうのだから。
そして、司法試験は法律実務家登用試験なのだから。
また、「妥当な結論」に関する参考例を見つけることができる。
法令の適用で見てきたとおり、「妥当な結論を導出すること」は重要な能力である。
そのため、「『妥当な結論』とはなんぞや」となって頭を悩ませることになる。
この悩みの中で「判例」はそこそこの重みをもつであろう。
もちろん、個人的に個々の判例の結論に同意できないことはあるとしても。
最後に、当然だが判例は文章で書いてある。
とすれば、ロジックの進め方の具体例を見ることができる。
このように、判例は上に書かれた②・③・④を身に着けるための有用な具体例、ということになる。
以上の意味で判例は重要である。
たとえ、呪文が「定義・趣旨・条文」であって「定義・趣旨・条文・判例」ではないとしても。
なお、語呂的なものをよくしたければ、「条文・判例・定義・趣旨」としたほうがいいのかもしれない。
最後に、「法律の隙間を判例が埋める」と述べたが、「判例でも埋められない隙間は学説が埋める」ことになる。
その意味で、通説・学説は判例と比べて優先順位が下がってしまうのだろう。
しかし、通説や学説は体系的理解のために役に立つ。
だから、触れる必要が全くないものでもない。
7 マネロン対策において条文に直接あたった意味
以上、司法試験における条文の重要性についてみてきた。
よって、マネロン対策の学習でも通用するのか、という疑問を持つことはありえない話ではない。
最初に述べた通り、「条文にあたる重要性・必要性はその人間がマネロン対策のどのパートを担っているか」にも依存する。
そのため、私が役に立った点が他の人にも一般化できるとは考えていない。
しかし、「私の立場であれば、金融庁やJAFICの発表した資料を読み、参考書を読み、資格を取った後に条文を見直したことは有益だった」といえる。
以下、どのように役に立ったのか説明する。
まず、一番実感している有用性は「マネロンについてこれまで学んだことの復習となったこと」である。
確かに、私は金融庁のガイドライン、JAFICのNRAなどの資料を読んだ。
また、参考書を読み、きんざいのマネロン関係の資格を取得した。
しかし、時間に追われていたからであろうか、表面的な理解にとどまった部分や誤解していた部分もたくさんあった。
そのため、犯収法・犯収法施行令・犯収法施行規則の条文を読み、条文の構造を整理・理解することによって自分の誤解を修正できた。
これは、犯収法の条文を読んだことによる第一の成果である。
第二の成果は、「犯収法を用いたマネロン対策の体系的理解が進んだこと」である。
私は、犯収法・犯収法施行令・犯収法施行規則の条文を参照しながら、「これまで学んだこと、実践したことが犯収法・犯収法施行令・犯収法施行規則のどの条文に位置づけられるのかを確認した。
その結果、断片的なピースとなっていた知識が犯収法を通じてリンクさせることができた。
もっとも、この成果が得られたのは、条文を参照する前に様々な資料を見ていたおかげである。
マネロンに関する知識・実践が皆無の状況で犯収法を読んだとしても、途中で投げ出す羽目になったであろう。
その意味で、条文を参照するタイミングは重要であろうと考える次第である。
たとえ、犯収法・犯収法施行令・犯収法施行規則に重要なことが書かれているとしても。
最後に、犯収法・犯収法施行令・犯収法施行規則を見て、憲法の委任立法で学んだことの具体例や行政法の具体例を見ることができた。
犯収法20条は政令への委任を規定し、犯収法21条では経過措置に関する政令・規則への委任を規定している。
委任立法に関する論点は憲法を学んだ時に見ていたが、真剣に具体例を見るのは初めてであり、この論点を見直す観点からも有益であった。
また、「行政法の具体例を見ることができた」と言えなくもないように見える。
この点、六法の観点から見れば、犯収法は刑法に属することになるだろう。
だから、行政法らしい条項があったため、「なるほどなあ」と理解が進む面が少なくなかった。
その意味でも犯収法の条文を見てきた意味はあったと考えている。
まあ、行政法の知識がないので、程度についてはよくわからないとしても。
以上、犯収法、犯収法施行令、及び犯収法施行規則の条文を見直した意義についてみてきた。
法令の条文にあたったお話はこの辺で終えることにする。