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マネー・ローンダリング等の勉強を始める 6

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 犯収法の条文を通じて、マネロン対策(主にAML/CFT)についてみていく。

 

9 犯収法第4条の構造

 前回までで、犯収法と犯収法施行令と犯収法施行規則の紐づけは完了した。

 そこで、今回から犯罪収益移転防止法の第4条を見ていく。

 

 犯収法第4条は犯罪収益移転防止法第1条で示されている「顧客等の本人特定事項等の確認」について書かれている。

 この点を考慮すれば、この条文は超重要な条文と言えよう

 

 もっとも、犯収法第4条は第1項から第6項まである。

 また、関連する犯収法施行令は第7条から第14条まである。

 さらに、犯収法施行規則は第4条から第18条まである

 そこで、前回みてきた犯収法の構造を確認しておく。

 

 その結果は次のとおりである。

 

 

 犯収法第4条第1項 特定事業者が(特定業務の)特定取引を行う際に行うべき「取引時確認」

  施行令第6条(金融機関等の特定業務)

  施行令第7条(金融機関等の特定取引)

   第1項 金融機関等の特定取引

    施行規則第4条(簡素な顧客管理を行うことが許容される取引)

     第1項 令第七条第一項に規定する簡素な顧客管理を行うことが許容される取引

     第2項 特定取引該当回避目的でなされる分割取引に関する特則

     第3項 令第九条第一項に規定する簡素な顧客管理を行うことが許容される取引

    施行規則第5条(顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引)

    施行規則第6条(顧客等の本人特定事項の確認方法)

     第1項 通常の特定取引における本人特定事項の確認方法

     第2項 通常の特定取引における本人特定事項の確認において住所が本人確認書類に記載された住所と異なる場合の確認方法

     第3項 法人を顧客とする通常の特定取引における本人特定事項の確認方法の特則

     第4項 本人特定事項の確認を行う場合の取引関係文書を書留郵便等により転送不要郵便物等として送付する方法の代替手段

    施行規則第7条(本人確認書類)

    施行規則第8条(本邦内に住居を有しない外国人の住居に代わる本人特定事項等)

     第1項 法第四条第一項第一号に規定する主務省令で定める事項

     第2項 法第四条第一項第一号の本邦内に住居を有しないことに該当する基準

    施行規則第9条(取引を行う目的の確認方法)

    施行規則第10条(職業及び事業の内容の確認方法)

    施行規則第11条(実質的支配者の確認方法等)

     第1項 通常の特定取引における実質的支配者の確認方法

     第2項 実質的支配者の判定基準

     第3項 議決権を直接又は間接に有するかどうかの判定基準

     第4項 実質的支配者の判定における国等とその子会社に関する特則

    施行規則第12条(代表者等の本人特定事項の確認方法)

     第1項 国等の代表者等の本人特定事項の確認の方法に関する施行規則第6条の準用及び読み替え

     第2項 転送不要郵便物等を代表者等の現在の住居へ送付することによる代表者等の本人特定事項の確認方法

     第3項 転送不要郵便物等を代表者等の現在の住居以外の場所へ送付することによる代表者等の本人特定事項の確認方法

     第4項 転送不要郵便物等を送付することに代替する手段

     第5項 施行規則第1項の代表者等の基準

    施行規則第13条(法第四条第一項に規定する取引に際して行う確認の方法の特例)

     第1項 通常の特定取引において本人特定事項を確認する際の特則

     第2項 施行規則第12条5項の準用

   第2項 信託・信託行為などによる特定取引に関する補足

   第3項 特定取引該当回避目的でなされる分割取引に関する特則

  施行令第8条(司法書士等の特定業務)

   第1項 司法書士等の顧客のためにする次に掲げる行為又は手続のうち特定業務に該当しないもの

   第2項 司法書士等の会社等の組織、運営又は管理に関する行為又は手続のうち特定業務に該当するもの

   第3項 司法書士等の特定業務に該当する組織、運営又は管理に関する行為又は手続のうち会社以外の法人、組合又は信託に該当するもの

   第4項 司法書士等の「これらに相当する」行為又は手続のうち特定業務に該当するもの

  施行令第9条(司法書士等の特定取引)

   第1項 士業等の特定取引

   第2項 士業等との特定取引該当回避目的としてなされる分割取引における特則

  施行令第10条(法第四条第一項第一号に規定する政令で定める外国人)

 

 犯収法第4条第2項 ハイリスク取引時の「厳格な取引時確認」

  施行令第11条(法第四条第二項に規定する政令で定める額)

    施行規則第14条(厳格な顧客管理を行う必要性が特に高いと認められる取引に際して行う確認の方法)

     第1項 ハイリスク取引の取引時確認における本人特定事項の確認方法

     第2項 ハイリスク取引の取引時確認における取引目的と職業・事業内容の確認方法

     第3項 ハイリスク取引の取引時確認における実質的支配者と実質的支配者の本人特定事項の確認方法

     第4項 ハイリスク取引の取引時確認における資産及び収入の確認方法

  施行令第12条(厳格な顧客管理を行う必要性が特に高いと認められる取引等)

   第1項 法第4条第2項第1号に該当するハイリスク取引

   第2項 法第4条第2項第2号に該当するハイリスク取引

   第3項 法第4条第2項第3号に該当するハイリスク取引

    施行規則第15条(外国政府等において重要な地位を占める者)

 

 犯収法第4条第3項 特定取引を行う際に行うべき「取引時確認」の適用除外

  施行令第13条(既に確認を行っている顧客等との取引に準ずる取引等)

   第1項 別の特定事業者に委託した場合、特定事業者の組織変更した場合における既に確認を行っている顧客等との取引に準ずる取引等に該当する場合

   第2項 既に確認を行っている顧客等との取引に準ずる取引等に該当する場合

    施行規則第16条(顧客等について既に取引時確認を行っていることを確認する方法)

     第1項 施行令第十三条第二項に規定する主務省令で定める方法

     第2項 特定事業者が顧客等又は代表者等と面識がある場合等の特則

    施行規則第17条(令第十三条第二項に規定する主務省令で定める取引)

 

 犯収法第4条第4項 会社と特定取引等を行う際の代表者や担当者に対する本人確認

 

 犯収法第4条第5項 顧客等が国・地方公共団体その他の場合の第1項・第2項の読み替え

  施行令第14条(法第四条第五項に規定する政令で定めるもの)

    施行規則第18条(国等に準ずる者)

 

 犯収法第4条第6項 取引時確認における虚偽回答の禁止

 

 

 うーん長い。

 とはいえ、これを見ていかないと理解はおぼつかない。

 そこで、犯収法第4条第1項から見ていく。

 

10 特定業務について

 まず、犯収法第4条第1項の柱書を確認する。

 

(以下、犯収法第4条第1項の柱書を引用、ところどころ改行、強調は私の手による)

 特定事業者(第二条第二項第四十五号に掲げる特定事業者(第十二条において「弁護士等」という。)を除く。以下同じ。)は、

  顧客等との間で、別表の上欄に掲げる特定事業者の区分に応じそれぞれ同表の中欄に定める業務(以下「特定業務」という。)のうち

  同表の下欄に定める取引(次項第二号において「特定取引」といい、同項前段に規定する取引に該当するものを除く。)を行うに際しては、

  主務省令で定める方法により、当該顧客等について、

  次の各号(第二条第二項第四十六号から第四十九号までに掲げる特定事業者にあっては、第一号)に掲げる事項の確認を行わなければならない。

(引用終了)

 

 つまり、犯収法第4条第1項の取引時確認は「①(弁護士を除く)特定事業者が②特定業務のうち③特定取引を行う場合」に行う必要があることになる。

 そして、犯収法第4条第2項と第3項を参照すると「④ハイリスク取引に該当しないこと、⑤第3項の取引に該当しないこと」も犯収法第4条第1項の取引時確認が必要な場合の要件になると言える(それぞれの場合、異なる対応が必要になる)。

 そこで、ここから①から⑤の要件について確認する。

 

 

 なお、ここから注意事項。

 このブログは私の学習メモであり(詳細は次のリンク参照)、犯収法の解説ブログではない(犯収法を解説しているネット記事は優秀なものを含めて山のようにある)。

 そのため、私の関心のない分野に対する言及は省略したり簡略化する。

 

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 まず、前述の5つの要件のうち、①特定事業者については士業を除いた残りの特定事業者なので細かく踏み込む必要はない。

 

 そこで、次の②特定業務についてみていく。

 すると、別表と犯収法施行令を参照する必要があるらしい。

 以下、金融機関の特定業務についてみていく。

 

 犯収法の別表に従うと、金融機関の特定業務は「金融に関する業務その他の政令で定める業務」とあり、政令たる犯収法施行令第6条第1号を見ると、金融機関の特定業務は「当該特定事業者が行う業務」とある。

 つまり、普通の金融機関であれば、総ての業務が特定業務に該当することになる。

 

11 特定取引の構造について

 次に、③特定取引についてみていく。

 犯収法の別表によると、金融機関の特定取引は「預貯金契約(預金又は貯金の受入れを内容とする契約をいう。)の締結、為替取引その他の政令で定める取引」であり、政令たる犯収法施行令第7条第1項第1号にはたくさんの取引が列挙されている。

 当然、これを全部見ていくと大変なことになるため、最初に大枠を確認する。

 

 

 まず、犯収法施行令第7条の柱書を確認する。

 

(以下、犯収法施行令第7条の柱書を引用、適宜改行、強調は私の手による)

 次の各号に掲げる法の規定に規定する政令で定める取引は、

   当該各号に定める取引(法第三条第三項に規定する犯罪収益移転危険度調査書に記載された当該取引による犯罪による収益の移転の危険性の程度を勘案して簡素な顧客管理を行うことが許容される取引として主務省令で定めるものを除く。以下この項において「対象取引」という。)

  及び

   対象取引以外の取引で疑わしい取引(取引において収受する財産が犯罪による収益である疑い又は顧客等が取引に関し組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号)第十条の罪若しくは国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号)第六条の罪に当たる行為を行っている疑いがあると認められる取引をいう。第九条第一項及び第十三条第二項において同じ。)その他の顧客管理を行う上で特別の注意を要するものとして主務省令で定めるもの

  とする。

(引用終了) 

 

 別表と上の施行令を見た場合、特定取引は大きく次の2種類に分けられる。

 

・対象取引(犯収法施行令に列挙されているが、施行規則には列挙されていないもの)

・疑わしい取引等

 

 そして、施行規則5条と7条を参照しながら分解していくと、次の①から④の条件を満たすものと言える。

 

① 施行令第7条に列挙されている取引

② 「簡素な顧客管理を行うことが許容される取引」ではない取引

③ 疑わしい取引

④ 同種の取引の態様と著しく異なる態様で行われる取引

 

 これらが特定取引の対象ということになる。

 そして、核となるのが①と③と言えようか。

 

 以下、①から④についてみていく。

 

12 犯収法施行令第7条記載の取引

 まず、犯収法施行令第7条記載の取引(①)を確認する。

 犯収法施行令第7条1項1号には39個の項目(イ・ロ・・・)が列挙されている。

 しかし、ざっくりと分類すれば次のようになると言える。

 

 

(プレースメント関係)

イ・ロ(以下、預貯金口座関係)・ハ・二(以下、信託関係)・ホ・へ・チ(以下、保険契約・共済契約関係)・リ・ヌ(以下、金融商品関係)・ル(以下、有価証券関係)・ヲ・ワ・カ(消費貸借契約等)・ヨ・タ(以下、電子決済手段)・ツ・ナ・ム・ヰ(以下、資金決算関係)・オ(以下、暗号資産関係)・マ(金融商品先物取引法関係)・コ(当座預金口座関係)・エ(貸金庫関係)・テ(社債、株式等の振替関係)・ア(電子記録債権関係)・サ(保護預り関係)・ユ(外国銀行関係)

 

 これらは口座といった財産(金銭・有価証券・金融商品・暗号資産・その他高価な財物)を預けたり、移動したりするための前提部分である。

 ここはマネー・ローンダリングの観点から見れば「プレースメント」にあたると言える。

 

 

(レイヤリング関係)

レ・ソ(以下、電子決算関係)・ネ・ラ・ウ・ノ(以下、資金決済関係)・ク・ヤ(暗号資産関係)・ケ(現金送金・為替・小切手取引)・フ(振替)

 

 次に、10万円を超える財産の移動(為替取引・送金・移転・交換)

 この点、為替取引というのはマネー・ローンダリングの観点から見れば「レイヤリング」にあたる。

 ただ、レイヤリングについては10万超えという閾値があるようである。

 

 

(インテグレーション関係)

ト(満期の保険金・共済金・返戻金、解約返戻金関係)・ケ(現金・小切手・無記名公社債等関係、ただし、200万円を超えるもの)・キ(両替、ただし、200万円を超えるもの)

 

 これらはレイヤリングした財産を回収する手段に該当し、マネー・ローンダリングから見れば「インテグレーション」に該当する。

 もっとも、送金よりも閾値が高くなっている。

 入出金は送金よりも頻繁にあるためであろうか。

 

 以上、犯収法施行令第7条第1項第1号の項目を整理してみた。

 こうやって見れば、理解できないではないような気がしないでもない。

 

 

 なお、閾値があることを逆用する輩が出てきてもおかしくない。

 そこで、犯収法施行令第7条第3項は、特定取引の潜脱のためになされたであろう分割取引を一括した契約とみなす旨の条項を置いている。

 

 例えば、250万の出金を意図したが、1回の出金で完了させようとすれば対象取引に該当するため、50万円の出金を5回に分けて行う、とか(数値は適当である)。

 あるいは、自分の預金口座から他人の預金口座に40万を送金しようとすれば特定取引に該当するため、8万円の送金を5回にして行う、とか(こちらの数値も適当である)。

 

 この点、取引の手間を考慮すれば、これらの取引は非効率である。

 しかし、マネー・ローンダラーは金銭を洗うための洗剤(手数料)を惜しまないであろうから、このような手段を採用することは十分ありうる。

 とすれば、このような分割取引を1つの取引としてみなすことの必要性は十分あるであろう。

 

 

 以上、犯収法施行令第7条についてみてきた。

 次回は、特定取引の残りの要件をみていく。