0 はじめに
先日、「マネロンの勉強をしよう」という記事を書いた、気がする。
そして、昨日、金融財政事情研究会(いわゆる「金財」)の「AML/CFTスタンダード」という資格をCBT形式で受験し、普通に合格した。
そこで、忘れないうちに、この試験とそれに付随する点について振り返っておく。
なお、マネロンについて詳しく知らない人のために、あるいは、今後、私がマネロンについて知らない人に対してマネロンについて説明するための資料として利用するために、マネロンについて細かめに言及する。
また、少し分量が多くなってしまったので、前半と後半の2つに分けることにする。
1 マネロンとは
まず、マネロンについて説明する。
マネロンとは「マネー・ローンダリング」のことであり、日本語では「資金洗浄」と訳されている。
「資金を洗う」といっても、紙幣や硬貨や金の延べ棒を水や洗剤で洗ったり磨いたりするわけではない。
「洗う」といっても、物理的ではなく法律的に洗うのである。
では、「法律的に洗う」とは何か。
まず、一般的な洗濯では水・洗剤・薬剤を用いるのに対して、「法律的な洗濯」においては「取引」を用いて洗濯することになる。
そして、「法律的な洗濯」によって本来ならば没収されるべき財産の没収を困難にする(できなくする)のである。
この「没収できるはずの財産を没収できなくなるようにする」、これがマネロンの本質である。
もちろん、財産の没収を防ぐことでその財産を犯罪組織の勢力拡大に用いたり、犯罪に再利用することは言うまでもない。
そのため、マネロン対策は「犯罪関連財産を使った取引(これがマネロン)の阻止」という形を採る。
もちろん、その後には犯罪組織に対する没収刑の適用、訴訟などによる被害回復を行うことになっている点は言うまでもない。
2 刑法・刑事手続から見た場合のマネロン対策の位置づけ
以上の喩え話を刑法を用いて説明するなら次の通りとなる。
刑法その他の規定には、犯罪に関連した物件の没収に関する条文がある。
ここでは、没収の基本形が示されている刑法の条文を確認する。
刑法9条
死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。
刑法19条第1項
次に掲げる物は、没収することができる。
一 犯罪行為を組成した物
二 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
三 犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
四 前号に掲げる物の対価として得た物
刑法19条第2項
没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。
ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる。
以上の条文をまとめると、犯罪に関連する物などを(強制的に)没収するためには次の1から3の条件をすべて満たす必要がある。
1、その物(金銭)が①所有者不在、②犯人所有、または、③犯情について悪意(知っている)である者が所有していること
2、その物(金銭)が①犯罪組成物件、②犯罪供用物件、③犯罪産出物件、④犯罪取得物件、⑤犯罪報酬物件、⑥犯罪対価物件のいずれかであること
3、有罪判決の付加刑として宣告されること
ただ、この3つの条件ゆえに不都合が生じることがある。
例えば、①その物が善意の第三者に譲渡されれば没収できない、とか。
または、②犯罪産出物件が犯罪と無関係なものに結合・吸収されてしまい、分離不可能な場合(コストがかかりすぎる場合も含む)に没収できない、とか(違法薬物を既に使用してしまった場合を想定してほしい)。
さらに、③起訴猶予などの不起訴処分、犯人が分からない場合には没収されない、とか。
そこで、この原則論を修正して妥当な結論になるように法令が定められている。
例えば、②の具体例としては刑法にある追徴(物の代わりにその価格を支払わせる制度)規定や組織犯罪処罰法があるし、③の具体例としていわゆる振り込め詐欺救済法がある。
そして、マネロンは①に対する対策、ということになる。
つまり、マネロン対策においては「犯罪関連物件を取引に使わせない(譲渡させない)」ということが主眼となるのである。
以上、マネロンの目的についてみてきた。
この部分がマネロンの「極意」である。
3 日本のマネロン対策
次に、日本のマネロン対策について少し触れる。
この点、薬物犯罪対策としてスタートし、その後、組織犯罪、対テロ資金供与対策と広まっていった「AML/CFT」であるが、海外と比較して日本ではあまり対策が進んでいなかった、らしい。
そのため、マネロン対策を講じる国際機関たるFATFから日本に対して「お前ら、(先進国のくせに)マネロン対策を全然やってないではないか」という趣旨のことを言われる羽目になった。
いわゆる2008年になされた第三次対日相互審査である。
このようないきさつなどから、犯収法などの関連規定を作ってマネロン対策に動き出した。
しかし、2021年に発表された第四次対日相互審査でも「まだまだ足らん」と言われた。
そのため、日本政府はマネロン対策に突っ走ることになる(その背後に権益の拡大があるかどうかは、、、知らない)。
この点、態勢を構築するリミットは2024年の3月。
最近、「本人確認」がやかましくなった、厳しくなった背後にはこのようないきさつがある。
4 マネロン資格を取る理由
さて、最近、突如マネロンに携わるようになった私は、マネロンについて教科書を読んだり、犯収法の条文を読むことなどによって勉強することになった。
また、断片的な実務に関する知識についてはいくらでも身に付く状況になった。
しかし、これらだけでは「体系的な理解」が身に付かない可能性がある。
そこで、これまでの勉強と同じように、資格を取ることにした。
社会状況から見てもなんらかの資格があった方がいいだろうから。
あと、資格を取るといっても「講義を受けないとダメ」といったものは少々取りずらい。
講義を受けないと受験資格がない、となると費用も嵩むだろうから。
そこで、金融財政事情研究会の次の資格をとりあえず取ることにした。
5 勉強について
試験のための勉強として行ったことは次の3点である。
第1に、マネロンに携わったこと。
マネロンに関する細かい知識はマネロンに携わることで学んだ。
これがなければ、そもそも試験を受からなかっただろう。
まあ、マネロンに携わらなければ、この試験を受けもしなかっただろうが。
次に、マネロンの教科書を図書館から借りてきて読んだ。
もっとも、この分厚い文章は眺めるのが精いっぱいで、熟読できたとは言い難いけれども。
さらに、次の問題集を一通り解いて、間違えた問題と自信がなかった問題を復習した。
この問題集にある問題数は約120問だったが、重要な問題がまとめられており、十分役に立った。
この点、受験者専用サイトや試験のパンフレット、または上述の問題集によると、この試験の出題分野は次の7つである。
① 金融犯罪
②FATF
③国内法規制等
④リスクベース・アプローチ
⑤管理態勢
⑥顧客管理
⑦疑わしい取引
つまり、マネロン実務に直結する分野は4つ(④~⑦)ある一方、法律やマネロン全体に関する分野が3つ(①~③)もある。
そこで、マネロン実務に携わるだけでは全体的な知識の観点から見て不安が残る。
その意味で、上の教科書を読む意味やこの問題集を解く意味は十二分にあった。
さて、上の教科書と問題集に費やした時間は・・・約10時間であろうか。
教科書を読むのは大変だった一方、問題集は試験前日に1夜漬けで解いて復習したので、それほど時間をかけた予定はない。
まあ、時間をかけるつもりもなかったけれども。
5 試験本番について
試験はいわゆるCBT方式と言われるものである。
つまり、試験会場へ行き、試験会場のPCを使って問題を解く、という方式で受けた。
具体的なテスト会場は、基本情報技術者試験の午後試験(当時)を受けた会場だった。
だから、初めて行った場所ではない。
もっとも、2年半ぶりの試験会場、ではあるが。
試験会場には早めに着き、かつ、早く試験を始めることができた。
そして、早く試験が終わった。
まあ、試験時間の3分の1近くを残して終わったが。
もちろんと言うべきか、結果は合格。
合格点70点を圧倒的に上回る成果を得た。
以上、試験までを振り返った。
後半では、この試験を受けて考えたことを述べることにする。