薫のメモ帳

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司法試験の過去問を見直す12 その1

 これまで「旧司法試験・二次試験・論文式試験憲法第1問」を見直してきた。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 これまで検討した過去問は、平成3年度・4年度・8年度・11年度・12年度・13年度・14年度・15年度・16年度・18年度・20年度の11問。

 今回から平成17年度の過去問を見ていく。

 

 平成17年度の司法試験(旧司法試験のみが行われたのはこの年が最後の年)は私が「初めて司法試験を受けたときの試験」である(つまり、私は旧司法試験を突破するために4回試験を受けることになる)。

 そして、その年の論文式試験憲法第1問がこれであるということは、この問題が「私が初めて見た論文試験の生の問題」ということになる。

 その意味で感慨深い問題である。

 

 なお、本問のテーマは「多様な規制目的がある場合の営業の自由の制限」となる。

 表現や宗教、平等やプライバシーではなく、「経済」がテーマとなる。

 

1 旧司法試験・論文試験・憲法・平成17年第1問

 まず、問題文と出題趣旨を確認する。

 なお、問題文と出題趣旨は法務省のサイトから引用している(リンク先は次のとおり)。

 

(以下、問題文を引用)

 酒類が致酔性・依存性を有する飲料であり,飲酒者自身の健康面に与える悪影響が大きく,酩酊者の行動が周囲の者に迷惑を及ぼすことが多いほか,種々の社会的費用(医療費の増大による公的医療保険制度への影響等)も生じることにかんがみて,次の内容の法律が制定されたとする。

1  飲食店で客に酒類を提供するには,都道府県知事から酒類提供免許を取得することを要する。酩酊者(アルコールの影響により正常な行為ができないおそれのある状態にある者)に酒類を提供することは当該免許の取消事由となる。

2  道路,公園,駅その他の公共の場所において管理者の許可なく飲酒することを禁止し,これに違反した者は拘留又は科料に処する。

 この法律に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。

(引用終了)

 

(以下、出題趣旨を引用)

 本問は,酒類提供及び飲酒に関する規制を行う法律が成立したと仮定して,酒類提供免許制につき,複合的な立法目的に対応した合憲性審査基準を検討し,当該事案に適用する能力を問うとともに,公共の場所における飲酒禁止につき,飲酒の自由の憲法上の位置付けを踏まえつつ,その合憲性審査基準や当該事案への適用,刑罰法規の明確性との関係等について,論理的に思考する能力を問うものである。

(引用終了)

 

www.moj.go.jp

 

 出題趣旨を見ると、法律1(営業の自由)と法律2(飲酒の自由)は分けて考えるようである。

 そのため、2つの事案について憲法上の権利の制約と正当化について検討する必要がある。

 また、法律1は「複合的な立法目的に対応した合憲性審査基準」という文言から単純な規制目的二分論が適用できない場合にどのように違憲審査基準を立てるべきかが問われていることが分かる。

 さらに、法律2については飲酒の自由について新しい人権における違憲審査基準の定立とあてはめだけではなく、刑罰法規の明確性(いわゆる明確性の原則)についても論じる必要があったらしい。

 そのため、書くべきことがめちゃくちゃ多い。

 

 この点、平成17年の論文式試験憲法第2問は「最高裁判所の法案提出権」という超ド典型的な論点であった。

 だから、時間配分について第1問を多めにすることができた。

 とはいえ、それにしても・・・という感じである。

 

 もっとも、このブログにおける検討においては時間制限・分量制限がない。

 以下、丁寧に見ていく。

 

 

 次に、条文その他の情報を確認する。

 本問に関連する憲法の条文は次のとおりである。

 

憲法12条後段

 国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

憲法13条後段

 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

憲法22条1項

 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

憲法25条2項

 国は、すべての生活部面について、社会福祉社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

憲法31条

 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

 

 また、本問で参照した方がいい法律として「酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」という法律があるので、これも見ておく。

 

法4条第1項 

 酩酊者が、公共の場所又は乗物において、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をしたときは、拘留又は科料に処する。

 

 現法上は公共の場所における飲酒のみで罪に問われることがない。

 飲酒・酩酊した人間が公共の場所で一定の行為をした場合に拘留・科料に処されていることが分かる。

 その意味で、本問の(2)は現行法よりも加重されることになる。

 

 さらに、本問で参照する最高裁判所判例は次のとおりである。

 ここで取り上げる判例のうちのいくつかは平成12年度の過去問でも言及した。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

昭和43年(行ツ)120号

昭和50年4月30日最高裁判所大法廷判決

(いわゆる「薬事法事件違憲判決」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/936/051936_hanrei.pdf

 

昭和63年(行ツ)56号

平成4年12月15日最高裁判所第三小法廷判決

(いわゆる「酒税法事件判決」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/281/054281_hanrei.pdf

 

昭和45(あ)1310号尊属殺人被告事件

昭和48年4月4日最高裁判所大法廷判決

(いわゆる尊属殺人重罰規定違憲判決)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/807/051807_hanrei.pdf

 

昭和44年(あ)1501号国家公務員法違反事件

 昭和49年11月6日最高裁判所大法廷判決

(いわゆる「猿払事件判決」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/800/051800_hanrei.pdf

 

昭和48年(あ)910号

集団行進及び集団示威運動に関する徳島市条例違反、道路交通法違反事件

昭和50年9月10日最高裁判所大法廷判決

(いわゆる「徳島県公安条例事件判決」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/070/051070_hanrei.pdf

 

昭和57年(あ)621号福岡県青少年保護育成条例違反被告事件

昭和60年10月23日最高裁判所大法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/269/050269_hanrei.pdf

 

平成17年(あ)1819号広島市暴走族追放条例違反被告事件

最高裁判所第三小法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/114/035114_hanrei.pdf

 

 これで本問に必要な情報はそろった。

 以下、本問の検討を始める。

 

 まず、法律1の合憲性についてみていく。

 法律1を見ると、酒類販売・飲食店経営の自由が制約が問題になっている。

 そこで、通常の手順、つまり、憲法上の権利の認定から正当化に関する議論へという手順に従う。

 

2 営業の自由と憲法上の権利

 まずは、憲法上の権利の認定から始める

 原則論は大事であり、出発点でもあるからである。

 

 

 本問法律1は、①飲食店で客に酒類を提供する際には都道府県知事からの免許を必要とすること、②酩酊者へ酒類を提供することを禁止すること、③酩酊者へ酒類を提供した場合は免許の取消事由になることを内容としている。

 そこで、本問法律1は「飲食店において酒類を提供する自由」を制限するものとして違憲とならないか。

 

 まず、酒類を提供する自由は憲法上の権利として認められるか。

 客に対する酒類の提供は、酒類の販売、または、飲食店経営の一環として行われるところ、これらの行為はいわゆる営業行為に該当する。

 そこで、営業の自由が憲法上の権利として保障されるか、明文がないため問題となる。

 この点、憲法22条1項は職業選択の自由しか保障されていないが、営業の自由も憲法22条1項によって保障されるものと解する。

 なぜなら、選択した職業を遂行する自由、つまり、営業の自由を認めなければ、職業選択の自由を保障する意味がないからである。

 そこで、本問の酒類を販売・提供する自由も営業の自由として憲法22条1項によって保障される。

 

 

 原則論の認定はこの辺でいいだろう。

 また、営業の自由に関する論点は平成12年の過去問検討の際に言及しているため詳細は割愛する。

 

 

 もっとも、かかる自由は無制限ではなくて「公共の福祉」(憲法12条後段・憲法13条後段・憲法22条1項)による制約を受ける。

 そこで、この部分に関する例外の議論は次回以降でみていく。