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司法試験の過去問を見直す11 その1

 これまで「旧司法試験・二次試験・論文式試験憲法第1問」を見直してきた。

 

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 これまで検討した過去問は、平成3年度・4年度・8年度・11年度・12年度・14年度・15年度・16年度・18年度・20年度の10問。

 今回は平成13年度の過去問を見ていく。

 

 今回この問題を取り上げたのは、この問題が前回(平成20年度)の過去問とテーマが極めて類似しているからである。

 ズバリ、今回のテーマは「強制加入団体の構成員の寄付を強制されない自由」である。

 

 なお、判例については前回見たものと重複するところが多いので、その点についてはリンクを貼る一方で結論を簡単に述べるにとどめる。

 

1 旧司法試験・論文試験・憲法・平成13年第1問

 まず、問題文を確認する。

 なお、問題文は司法試験の勉強の時にお世話になっていた「司法試験対策講座_憲法」(リンク先の通り、なお、リンク先は最新版だが、私が引用しているのは当時の物)から引用している。

 

 

(以下、過去問の問題文を引用)

 法律上強制加入とされている団体が、多数決により、特定の政治団体に政治献金をする旨の決定をした。この場合に生じる憲法上の問題点について、株式会社及び労働組合の場合と比較しつつ、論ぜよ。

(引用終了)

 

 前回で取り上げた「南九州税理士会事件」と極めて類似している。

 ただ、「株式会社及び労働組合の場合と比較しつつ、論ぜよ」とあるため、「論じ方」について制限がある。

 そこで、関連判例を見ながら検討することになると考えられる。

 

 

 まず、本問に関連する条文と判例を確認する。

 

憲法19条

 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

 

憲法21条1項

 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

 

民法34条(旧・民法43条)

 法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。

 

民法90条

 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

(当時の条文は「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行為ハ無効トス。」)

 

昭和43年(オ)932号労働契約関係存在確認請求事件

昭和48年12月12日最高裁判所大法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/931/051931_hanrei.pdf

(いわゆる「三菱樹脂事件最高裁判決」)

 

昭和41年(オ)444号取締役の責任追及請求事件

昭和45年6月24日最高裁大法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/040/055040_hanrei.pdf

(いわゆる「八幡製鉄事件判決」)

 

昭和48年(オ)499号組合費請求事件

昭和50年11月28日最高裁判所第三小法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/203/054203_hanrei.pdf

(いわゆる「国労広島地本事件判決」)

 

平成4年(オ)1796号選挙権被選挙権停止処分無効確認等事件

平成8年3月19日最高裁判所第三小法廷判決

(いわゆる「南九州税理士会事件判決」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/864/055864_hanrei.pdf

 

 

 まず、本問の憲法上の問題点を確認する。

 法律上強制加入とされている団体が、多数決によって特定の政治団体に政治献金をする旨の決定をした場合、反対に回った人間(少数派)は多数派の決定に従うこととなり、その結果、特定の政治団体への寄付を(一部)強制されることになる。

 この点、総ての決定に全会一致を要求すれば団体の機能性は大きくそがれる(この点は次のメモにて触れられている)ので、決定自体は否定できない。

 しかし、脱退の自由が大きく制限されている強制加入団体の場合、多数決によって強制できることに限界はないのか、また、政治団体への寄付を強制することはその限界を超えるのではないのか、というのが本問の問題点となる

 

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 この点、憲法上の権利の問題を検討する場合、論述の骨格は基本的に同じである。

 そこで、原則論と例外の一般論(規範定立)までの部分を一気に見ていこうと考える。

 

2 憲法上の権利の認定

 まず、原則論を確認しよう。

 答案形式にして一気に書き上げると次のようになる。

 

 

(以下、答案形式の論述)

 本問の団体の決定により、多数決に反対した団体の構成員は、特定の政治団体への政治献金を団体の一員として強制されることになる。

 そこで、本問の団体の決定は「政治献金を強制されない自由」を侵害するものとして無効とならないかが問題となる。

 

 まず、構成員の「政治献金を強制されない自由」は憲法上の権利として保障されるか。

 この点、政治献金を行うことは特定の政治団体を経済的に援助することになり、ひいては、その政治団体を支持することを意味する。

 とすれば、財産権(憲法29条)のみの問題として考えることは妥当でない。

 なぜなら、どの政治団体を支持するかといった政治的活動は、個人の一定の政治的思想、見解、判断等に結びついて行われるものだからである。

 そこで、政治献金を行う自由とその裏返しである政治献金を強制されない自由は、思想・良心の自由を定めた憲法19条によって保障されるものと解する

 よって、団体の構成員の政治献金を強制されない自由は憲法19条によって保障されうるものと考える

 

 

 この辺は、前回の問題とほとんど同じことを書いているため説明は省略。

 なお、言い回しについては「国労広島地本事件」を参考にしている。

 

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 以上が原則論である。

 ここから例外の話に移る。

 

3 憲法上の規定の私人間適用について

 この部分も一般論の部分までは、前回と同様なのであっさり進めていこう。

 

 

(以下、答案形式の論述)

 もっとも、本問で構成員の権利を制約している主体は「法律上強制加入とされている団体」(強制加入団体)である。

 そこで、憲法の人権規定がこのような法人・団体にも適用されるか。

 憲法の人権規定の私人間適用について問題となる。

 

 この点、国家権力に匹敵する社会権力が発生した現代社会においては、社会的権力から個人を守るべく人権規定を私人間にも適用する必要がある。

 そのため、私人間にも人権規定を適用するべきとも考えられる。

 もっとも、人権規定を直接適用すると、私法上の一般原則たる「私的自治の原則(契約自由の原則)」に反することになる。

 そこで、人権尊重と私的自治の原則の調和の観点から、私法の一般条項に憲法の人権規定の趣旨を解釈・適用して、間接的に私人間の行為を規律すべきであると考える。

 したがって、本問でも強制加入団体の決議の有効性についても、決議の内容が法人の「目的」(民法34条)の範囲内にあるかどうかについて、民法34条の「目的」の解釈にあたって憲法の人権規定の趣旨を解釈するべきであると考える

 

 

 ここも前回と同様である(前回の検討部分は次のリンクのとおり)。

 この点の核となる判例がいわゆる三菱樹脂事件である。

 

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 以上、原則と例外の一般論まで一気に進めてきた。

 次回から本格的な決議の有効性についてみていくことになる。