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司法試験の過去問を見直す12 その2

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 旧司法試験・二次試験の論文式試験・平成17年度の憲法第1問についてみていく。

 

2 経済的自由権に対する違憲審査の基本的方針

 前回、酒類を提供する自由は営業の自由として憲法22条1項によって保障されうることを確認した。

 今回は例外(正当化)の議論について見ていく。

 

 なお、営業の自由に関する違憲審査基準については次のメモで言及している。

 そこで、重複する部分は結論と理由を簡単に述べるにとどめる。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 さて、書くべき内容は上の過去問検討で触れているので、正当化の議論(例外の部分)の書き出しから合理性の基準の定立までは一気に進めてしまおう。

 

 

 もっとも、営業の自由も絶対無制限ではなく、公共の福祉(憲法12条後段・13条後段・22条1項)による制約を受ける。

 そこで、法律1の制限は「公共の福祉」による制限と言いうるか、違憲審査基準が問題となる。

 この点、表現の自由のような精神的自由に対する規制の場合と異なり、営業の自由のような経済的自由に対する制限が不当になされても民主制の過程での回復が容易である。

 また、憲法は政府による社会福祉政策を予定しているところ(25条以下)、社会福祉政策などに関する判断は政治部門たる国会・内閣の判断を尊重する必要性も高い。

 そこで、営業の自由に対する違憲審査については法律の合憲性を推定した上での合理性の基準によるべきである

 

 

 以上が基本指針の部分である。

 もっとも、合理性の基準だけ打ち立てて当てはめに移っても何をどう考慮すればいいのか分からない。

 そこで、基準をさらに具体化する。

 

3 具体的な審査基準の定立

 では、具体的な審査基準を考えていく。

 経済的自由に対する違憲審査基準については規制目的二分論という考え方があった。

 つまり、消極目的規制、つまり、社会的害悪の防止を規制目的とする場合は警察比例の原則が妥当するため、裁判所は厳格に審査する。

 これに対して、積極目的規制、つまり、社会的・経済的弱者を保護することが規制目的の場合は、国政調査権(62条)を行使できる国会の判断を尊重し、裁判所は明白性の原則によって審査する。

 さらに、規制目的のみで判別できない場合は規制態様を考慮しながら審査基準を決定する。

 以上の発想が規制目的二分論である。

 

 そこで、本問でも「規制目的」と「制限を受ける権利の程度」を考慮して、違憲審査基準を立てることになる。

 以下、検討してみよう。

 

 まず、問題文を確認する。

 

(以下、問題文を再掲載、引用元は前述と同じ)

 酒類が致酔性・依存性を有する飲料であり,飲酒者自身の健康面に与える悪影響が大きく,酩酊者の行動が周囲の者に迷惑を及ぼすことが多いほか,種々の社会的費用(医療費の増大による公的医療保険制度への影響等)も生じることにかんがみて,次の内容の法律が制定されたとする。

1  飲食店で客に酒類を提供するには,都道府県知事から酒類提供免許を取得することを要する。酩酊者(アルコールの影響により正常な行為ができないおそれのある状態にある者)に酒類を提供することは当該免許の取消事由となる。

2  道路,公園,駅その他の公共の場所において管理者の許可なく飲酒することを禁止し,これに違反した者は拘留又は科料に処する。

 この法律に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。

(引用終了)

 

 問題文を見ると規制目的は次のようになると考えられる。

 

1、飲酒者自身の健康の維持

2、酩酊者の行動にによって周囲の者に迷惑を及ぼすことの防止

3、種々の社会的費用(医療費の増大による公的医療保険制度への影響等)を抑制すること

 

 すると、1はいわゆるパターナリズムによる規制、2は他者加害防止のための規制、3は社会保障制度の効率的運用ということになる。

 よって、複数の規制目的が混在していることになる

 

 また、規制手段は「酒類を提供することについて免許制を採用すること」となる。

 これは全面的制限であり規制の程度は強いことが分かる。

 

 では、これらをどう評価すべきか。

 ここからは論述形式で一気に書いてしまおう。

 

 

 この点、公的医療保険制度は憲法25条2項の「社会保障」に関する制度である。

 とすれば、公的医療保険制度の維持という点を強調すれば、法律1の規制目的は積極目的規制ということになる。

 この場合、裁判所は国会の政策判断を最大限尊重し、明白性の原則によって審査することになるだろう。

 しかし、規制目的の中には飲酒者本人の健康の維持といった目的も含まれている。

 とすれば、社会的費用の抑制という目的は本人の健康維持というより重要な目的を達成するための手段の要素が少なくない。

 そのため、費用抑制を強調して積極目的規制に引き付けるのは妥当ではない

 また、規制目的には酩酊者による迷惑行為の防止というものが含まれているところ、これはいわゆる消極目的規制である。

 そこで、裁判所は警察比例の原則によって具体的に審査できる。

 さらに、飲食店においては酒類の提供が重要であると考えられるところ、酒類の提供について免許制にすることは飲食店営業にとって強力な制限になる

 以上を考慮すれば、本問規制は消極的目的の要素が主である上、規制の程度が強いと言えるから、厳格な合理性の基準によって判断すべきであると考える。

 つまり、規制目的が重要ではないか、または、目的と手段と間に実質的関連性がない場合には違憲になるものと解する。

 

 

 この点、規制目的二分論の一般論を述べると、分量が厚くなってしまう。

 そこで、制限の程度と規制目的から具体的な指針を定めて立ててあてはめる、という手段を採用した。 

「論証パターンの吐き出し」にしない観点を考慮すれば、こちらの方がいいのではないかと考えられる。

 

 これで、具体的な審査基準は決まった。

 以下、あてはめに移るわけだが、あてはめについては次回に。