これまで、旧司法試験の二次試験・論文式試験の憲法第1問(人権)の過去問を見てきた。
最初は平成3年度、次は平成4年度、3つ目は平成8年度、4つ目は平成15年度、という感じで。
今回から新しい過去問、具体的には平成12年度の過去問をみていく。
これまでの過去問のテーマは、「表現の自由に対する内容中立規制」・「政教分離」・「市民会館における集会の自由」・「男女間の平等」であった。
今回のテーマは「(現実の複雑な事情に即した)違憲審査基準のフレームワーク」ではないかと考えている。
1 旧司法試験・論文試験・憲法・平成12年第1問
まず、問題文を概観する。
なお、過去問は私が使用していた教科書に記載されていたものをそのまま引用する。
(以下、上記教科書から過去問の部分を引用、ただし、版は私が持っているものである)
学校教育法等の規定によれば、私立の幼稚園の設置には都道府県知事の認可を受けなければならないとされている。
学校法人Aは、X県Y市に幼稚園を設置する計画を立て、X県知事に対してその許可を申請した。
X県知事は、幼稚園が新設されると周辺の幼稚園との間の過当競争が生じて経営基盤が不安定になり、そのため、教育水準の低下を招き、また、既存の幼稚園が休廃園に追い込まれて入園希望児及びその保護者の選択の幅を狭めるおそれがあるとして、学校法人Aの計画を認可しない旨の処分をした。
この事例における憲法上の問題点について論ぜよ。
(引用終了)
最初に、関連条文と関連判例を列挙する。
まず、憲法の関連条文は次のとおりである。
憲法12条後段
国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
憲法13条後段
生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
憲法22条第1項
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
憲法23条
学問の自由は、これを保障する。
憲法第26条第1項
すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
また、下敷きにすべき判例として次のものがある。
ただ、最近の判例は知らないので、重要な判例を用いるということでご容赦願いたい。
昭和45年(あ)23号
昭和47年11月22日最高裁判所大法廷判決
(いわゆる「小売市場距離制限事件判決」)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/995/050995_hanrei.pdf
昭和43年(行ツ)120号
昭和50年4月30日最高裁判所大法廷判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/936/051936_hanrei.pdf
昭和43年(あ)1614号
昭和51年5月21日最高裁判所大法廷判決
(いわゆる「旭川学テ判決」)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/016/057016_hanrei.pdf
昭和63年(行ツ)56号
平成4年12月15日最高裁判所第三小法廷判決
(いわゆる「酒税法判決」)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/281/054281_hanrei.pdf
2 「複雑な事情」の意味
当時、私はこの問題が実質的に何を問うているのかよく分からなかった。
もちろん、「形式的な手続」に乗せれば、書くべき順番は分かる。
それを列挙するなら、次の通りとなる。
1、問題文中にて誰のどんな自由が制限されているかを確認する
2、その自由が憲法上の権利であることを確認する
3、憲法上の権利に対する規制が正当化されるか、具体的な基準を立てる
4、あてはめを行って、結論を出す
当時使われていた「原則修正パターン」・「IRAC」を用いれば、この順番はすぐに思いつく(これができなければ論外である)。
もっとも、以上の面は形式的な話。
実質的に見ていくと、2と3でつまづく。
本問の自由はどんな権利を制限しているというべきか。
また、その権利の制約を正当化する基準としてどんな基準を立てるべきなのか。
X県知事の不許可処分によってA学校法人の幼稚園設置計画はおじゃんになった。
つまり、「A学校法人の幼稚園を設置する自由」が制限されたことになる。
では、この自由を憲法上の権利に置き換えるとどうなるか。
「幼稚園を設置して『金儲け』する」と考えれば、営業の自由になる。
また、営業の自由は最高裁判所が憲法22条1項で保障される旨述べている。
この場合、本問を憲法22条1項の問題に引き付けることができる。
本番であれば、この選択は十分ありである。
しかし、営業の自由だけで考えると、違憲審査基準までの段階において「幼児教育」の観点がごそっと抜け落ちてしまいかねない。
「あてはめでフォローすればいい」とは言えるが、それでいいのか。
他方、幼稚園の設置が幼児「教育」を目的とすることは明らかである。
そこで、「教育の自由の制限」を軸とする答案を作ることが想定される。
教育の自由が憲法上の権利として認められていることは旭川学テ事件の最高裁判決で認められている。
よって、「教育の自由」の問題に引き付けることは可能である。
しかし、違憲審査基準はどうするか。
現段階では知らないが、当時は教育の自由に対する違憲審査基準というものは特になかった。
ならば、現場で基準をでっちあげることになる。
それでいいのか、そんなことをして大丈夫なのか(もちろん、大丈夫である)。
この点、営業の自由と教育の自由、どちらが正解でどちらかが不正解というものではない。
営業の自由を選べば違憲審査基準までのフレームワークを流用できるが、実態からかけ離れないか、という疑問が浮かぶ。
ただし、この部分はあてはめでフォローすればいいと考えれば問題ない。
他方、教育の自由を選ぶと違憲審査基準をどうするか、現場で考えなければならない。
もちろん、現場で考えたもので問題があるわけではないが。
ただ、現実において制限された自由が複数の権利にまたがるのは当然である。
例えば、「営利言論の自由は憲法21条1項と憲法22条1項のどちらで考えるかが問題になるところ、前者で考える」ということは憲法を学んでいれば当然に学ぶ常識レベルのことである。
つまり、現実から見た場合、こんなことはしょっちゅうあるはずのことである。
その観点から見れば、この程度で悩んでいるようでは合格からは程遠いのかもしれない。
なお、このブログは司法試験の過去問解説が目的ではない。
過去問及びそれに付随することについて外から見ることが目的である。
過去問を解くために必要な知識その他についてもある程度書いているが、それは前提としてである(前提としては分量が大きい気がしないでもないが)。
そして、この目的から見た場合、「本問で何を問うているのか」ということは結構重要なことである。
そのため、少し長めに事情を書いた。
そして、私がこの点について考えたことは最後で触れる。
以上が本問である。
次回から、前提として試験に必要な知識その他を見ていこう。