今回はこのシリーズの続き。
今回は設問2を見る。
4 設問2について
ここで今一度、過去問を確認しよう。
(問題文を再び引用)
以下の場合に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。
1 再婚を希望する女性が,民法の再婚禁止期間規定を理由として婚姻届の受理を拒否された場合
2 女性のみに入学を認める公立高等学校の受験を希望する者が,男性であることを理由として願書の受理を拒否された場合
(引用終了)
設問1は古くからある論点であった。
一方、設問2はいきなり現代的な論点に変わることになる。
設問2の事例、一見すると「なんじゃこりゃ?」と思うかもしれない。
あるいは、「性同一性障害のケース」を想像するかもしれない。
しかし、書いていない以上、性同一性障害のケースにリンクさせるのはまずかろう。
そこで、「いわゆる『逆差別』の問題かな」と考えることになる。
つまり、「アファーマティブ・アクション」(積極的差別解消措置)のケースなのかな、と。
さて、この問題。
後段列挙事由を重視しない立場なら、あまり悩むことはない。
つまり、受理を拒否した目的、つまり「女子のみの公立高校の運営」という目的は「女性の学習機会の確保」、または、「多様な教育機会の確保」にある。
この目的は高校生の学習機会の確保を促進し、ひいては、子どもの学習権(憲法26条1項)を実質化することに貢献する。
よって、①目的は重要、または、正当と言え、目的の要件は満たされる。
次に、「女子のみの公立高校を運営」のためには、男性の入学は一律拒否するしかない。
ならば、②手段は目的達成のため必要不可欠であるとさえ言え、手段の関連性の要件は満たされる。
最後に、不利益の程度を見ると、この男性は特定の高校での学習の機会を失ったに過ぎず、別の高校に入学することは可能である。
また、その高校で学ぶ予定の内容を図書館や別の高校を通じて学習することは十分できる。
よって、③この男性の被る不利益の程度は重大ではない。
したがって、目的・手段の関連性・不利益の程度、全部の要件をみたして合憲となる。
特段の事情のないのであれば、ある種常識的な結論になって万事めでたしめでたし、である。
ただ、ここには「アファーマティブ・アクション」のアの字も出てこない。
だから、この場合は、結論を書いた後に、結論が妥当であることについてアファーマティブ・アクションを絡めて少し言及した方がいいかもしれない。
しかし、私は設問1で後段列挙事由において特別な意味を持たせる立場を採用した。
よって、何も考えなければ、違憲審査基準は厳格なままになる。
この場合、③不利益の程度は必要最小限度であり、②手段は「女性の学習機会の確保、教育機会の多様性の確保」のために必要不可欠とまでは言える。
ただ、目的である「女性の学習機会の確保」・「教育機会の多様性の確保」という目的が必要不可欠とまで言えるかどうか。
子供の学習権を具体的に促進するものとは言えるが、義務教育と比べれば学習権のそもそも前提となっているとまでは言い難い。
となると、①目的の必要不可欠性については認定し難いことになる。
ならば、違憲になる、ようにみえる。
ただ、違憲の結論は採用し難い。
だが、設問1で後段列挙事由に特別な意味を持たせた以上、設問2で知らん顔をして特別な意味を持たせない立場を採るのは、法的矛盾とみられても抗弁できず、もっと避けなければならない。
それくらいなら、原則論を貫いて違憲だと言って逃げた方がマシである。
というのも、「戦後間もないころならともかく、現代の女子の高校進学率を考慮すれば、公立における女子高は逆差別そのものであり、このような制度自体が違憲である」という主張自体、出来ないとまでは言えないから。
しかし、違憲の結論自体避けた方がよいことは言うまでもない。
だからといって、①目的が必要不可欠と認定することも少し無理がある。
では、どうするか。
設問2の出題者の意図は、「あんたはアファーマティブ・アクションについてどう考えるの?」である。
よって、アファーマティブ・アクションであることを考慮して、原則の審査基準を変えてしまえばよい。
もちろん、「アファーマティブ・アクションだから」とだけ言って基準を変えてしまうと、法的許容性のないただの評論文になってしまう。
よって、法的な許容性を憲法などから見つけ出し、それを明示する必要がある。
これは、憲法が社会権(憲法25条以下)を保障しており、国家の社会福祉政策を前提としている点に触れればいい。
そして、精神的自由の規制と異なり、社会福祉政策については政治部門の判断を尊重せざるを得ないから、違憲審査基準は緩やかにならざるを得ないことも付け加える。
これで、アファーマティブ・アクションしては審査基準を緩やかなにすることができる。
そして、社会福祉政策が関係するを考慮し、審査基準を①目的が正当であり、②目的と手段との間に合理的関連性がある場合は合憲といった極めて緩やかな基準にすることができる。
あてはめは、後段列挙事由を重視しない立場と同様なので省略。
これにて合憲の結論となって終了である。
もちろん、「アファーマティブ・アクションの結果、男女間の均衡が崩れるようなことがあってはいけない」といったことが言えるが、その辺について言及がない以上、敢えて書く必要はないだろう(もちろん、一言触れてもいいかもしれない)。
これにて司法試験の過去問に答えること自体は終了。
ただ、現在の司法試験でこの手の問題が出た場合、憲法訴訟とセットで問題になるはずである。
そこで、次回以降は憲法訴訟に関する問題、具体的には「立法不作為」の問題について知識を確認し、そこについて私が改めて考えたことを述べていく。