薫のメモ帳

私が学んだことをメモ帳がわりに

マネロン・テロ資金供与対策等の勉強を始める 9

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 犯罪収益移転防止法の条文を通じて、マネロン対策(AML/CFT)についてみていく。

 

19 個人に対する本人特定事項の確認方法_2

 まず、犯罪収益移転防止法第4条第1項第1号における「本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるもの」の本人特定事項の確認についてみていく。

 

 犯罪収益移転防止法施行令第10条によると、「本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるもの」とは、①外国人観光客など国内に住所がない外国人、かつ、②パスポートなどの本人確認書類にその外国人の住所の記載がない人たちである

 なお、犯罪収益移転防止法施行規則第8条第2項によると、パスポートなどの旅券等に記載された在留期間が90日以下の場合、「本邦内に住居を有しない外国人」に該当するらしい。

 

 確かに、このような外国人観光客が日本の金融機関の口座を開設する、貸金庫を借りる、融資を受けるといったことは想定しづらい。

 しかし、日本の金融機関で両替をしよう、小切手の換金をしようということはあり得ない話ではない。

 また、いわゆるカジノ事業者は特定事業者であるところ、外国人観光客がカジノで遊ぼうとすれば、そこでの取引の一部が特定取引に該当することになる。

 したがって、このような外国人観光客に対する本人確認の方法を規定する必要がある。

 

 まず、本人確認書類になりうるものを確認する。

 犯罪収益移転防止法施行規則第7条第3号は、本人確認書類として「旅券等」・「船舶観光上陸許可書」を定めている。

 つまり、いわゆるパスポート等が本人確認書類となる。

 もちろん、そのパスポートにはその人の外国における住所が書かれていないわけだが。

 

 次に、犯罪収益移転防止法施行規則第6条第1項第2号には、本人特定事項の確認方法として「旅券や船舶観光上陸許可書の提示を受ける方法」と定められている。

 

 最後に、住所がない場合、住所の代わりに何を確認するのかが問題となる。

 この点、犯罪収益移転防止法第8条第1項第1号によると、両替・小切手の換金等・カジノ事業者と取引をする場合は「旅券等の番号」となっている。

 つまり、旅券等の番号が住所の代わりになるらしい。

 他方、それ以外の特定取引の場合は「住居」を確認しなければならない(犯罪収益移転防止法施行規則第8条第1項第2号)。

 とすれば、本人特定事項の確認ができないため、特定事業者との特定取引自体ができない、ということではないかと考えられる。

 

20 個人に対する本人特定事項の確認方法_3

 次に、本人確認書類の住所と現在の住所が異なる場合の本人特定事項の確認についてみていく。

 このことを定められているのが、犯罪収益移転防止法施行規則第6条第2項である。

 

 例えば、免許証(マイナンバーカードでも可能)に記載された住所が実際の住所と異なるものとする。

 そして、別の本人確認書類(写真なし)やいわゆる補完書類には、実際の住所が記載されているとする。

 この場合、その本人確認書類や補完書類を提示するか、その本人確認書類や補完書類の原本または写しの送付を受けることにより住所の確認を行っていい、ということになる。

 なお、提示する場合は原本を提示する必要があるが、送付の場合は原本でもコピーでもいいらしい。

 そして、書留郵便等により転送不要郵便物等として送付する場合、実際の住所に送ることになる

 

 

 また、書留郵便等により転送不要郵便物等として送付する代わりの手段が犯罪収益移転防止法施行規則第6条第4項第1号、2号に規定されている。

 この代わりの手段の概要は、本人確認書類に記載された住所や補完書類(と別の本人確認書類)の原本又はコピーに記載された住所に、特定事業者の役職員が直接赴いて、書留郵便等により転送不要郵便物等として送付する予定だった取引関係文章を直接交付する方法である。

 これならば、転送不要郵便等によって行うことを特定事業者の役職員が行うことになるので代替手段として十分成立するであろう。

 また、法令はちゃんと転送不要郵便等ができない場合の手段を考えている、ということであろうか。

 

21 取引目的と職業の確認

 次に、取引目的と職業の確認についてみていく。

 犯罪収益移転防止法施行規則第9条・10条によると、顧客が個人の場合、取引目的と職業の確認方法は申告を受ける方法による

 つまり、文章などによる疎明・証明(いわゆる「証跡」)は要らないらしい。

 

 確かに、口座開設目的や送金目的が生活費決済であること、または、口座開設目的が貯蓄目的であることを逐一「証明せよ」・「疎明せよ」といっても難しそうである。

 例えば、貯蓄目的を証明・疎明するためには何を準備すればいいのだろうか。

 貯蓄計画書でも用意すればいいのだろうか。

「ただ書くだけなら何でも書ける」ことを考慮すれば、公証役場に出向いて宣誓陳述書でも巻くべきなのだろうか。

 いずれにせよあれである。

 

 また、職業についても雇用主(企業)から真正な文章をもらってこいというのもあれである。

 雇用主から見れば、「(自分名義の文章を)何に使うんだ?」と気になるだろうし、利用目的が明らかでなければ書くことを嫌がるかもしれない。

 そして、顧客が雇用主に対して事実上文章利用目的を答える必要があるとなれば、「雇用主に報告しなければ口座開設ができない・単発の特定取引ができない」といった事態になりかねない。

 あるいは、10万超えの送金を繰り返す場合、その度に雇用主に一筆書かせるわけにもいかないだろう。

 そう考えると、個人の職業は原則として申告によらざるを得ないのかもしれない。  

 もちろん、不審な点があれば、証跡を求めるということはあり得るとしても。

 

 

 以上、個人に対する取引時確認についてみてきた。

 次回から法人に対する取引時確認についてみていく。