今回は次の記事の続き。
マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン等についてみていく。
・マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン
(以下「ガイドライン」という。)
https://www.fsa.go.jp/common/law/amlcft/211122_amlcft_guidelines.pdf
・マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)
(以下「FAQ」という。)
https://www.fsa.go.jp/common/law/amlcft/amlcftgl_faq.pdf
16 第2章第2節第3項第2号を読む_中編後半
前回まで、「顧客管理」に関する「対応が求められる事項⑥」までを確認した。
今回は、「顧客管理」に関する「対応が求められる事項⑦」以降を確認する。
まず、「顧客管理」における「対応が求められる事項⑦」は次のとおりである。
(ガイドラインの「顧客管理」における「対応が求められる事項⑦」の内容を引用、強調は私の手による)
マネロン・テロ資金供与リスクが高いと判断した顧客については、以下を含むリスクに応じた厳格な顧客管理(EDD)を実施すること
イ.資産・収入の状況、取引の目的、職業・地位、資金源等について、リスクに応じ追加的な情報を入手すること
ロ.当該顧客との取引の実施等につき、上級管理職の承認を得ること
ハ.リスクに応じて、当該顧客が行う取引に係る敷居値の厳格化等の取引モニタリングの強化や、定期的な顧客情報の調査頻度の増加等を図ること
ニ.当該顧客と属性等が類似する他の顧客につき、顧客リスク評価の厳格化等が必要でないか検討すること
(引用終了)
そして、これに対するFAQにおける補足事項は次のとおりである。
① 「マネロン・テロ資金供与リスクが高いと判断した顧客」とは、金融機関等において策定した顧客の受入れに関する方針等に基づき、必要な情報を確認・調査した結果、次のいずれかの条件を満たした顧客を言う。
・ 受入段階においてマネロン・テロ資金供与に係るリスクが高いと判断された顧客
・ 受入後、継続的な顧客管理措置の中で、リスク評価を見直した際に、あらかじめ定められた方法で高リスクと判断された顧客
② 犯罪収益移転防止法第4条第2項のハイリスク取引を行う顧客について、法定の各項目を確認することは、法令対応として最低限対応が必要な措置である。
③ 犯罪収益移転防止法等の法令に定める取引時確認は最低限の対応に過ぎないため、リスクベース・アプローチによる顧客管理において何らかの追加的措置を講ずることは必然的にあり得る。
④ 各金融機関等は、その規模や特性等に応じた厳格な顧客管理(以下「EDD」という。)を実施する必要がある。
⑤ 「上級管理職」とは、犯罪収益移転防止法第11条第3号の「統括管理者」だけではなく、マネロン・テロ資金供与対策に従事する部門の長等が含まれる概念である。
⑥ 各金融機関等は、規模や組織構造等に応じて、「上級管理職」の範囲を判断・決定する必要がある。
⑦ 顧客が行う取引に係る敷居値の厳格化等の取引モニタリングの強化、定期的な顧客情報の調査頻度の増加等の具体例として次の事項が挙げられる。
・ 全顧客に対して実施されている顧客リスク評価の結果を踏まえた高リスク顧客に対する取引モニタリングの敷居値の厳格化
・ 全顧客に対して実施されている顧客リスク評価の結果を踏まえた高リスク顧客向けのシナリオの適用
・ 低リスク顧客に対する敷居値やシナリオの適用の簡素化
・ 顧客のリスクに応じた「定期的な顧客情報の更新において収集する情報の内容、種類及び粒度等」の決定
⑧ 属性等が類似する他の顧客につき、顧客リスク評価の厳格化等が必要でないかの検討手順の具体例として、次の各事項の実施が挙げられる。
・ 顧客リスク評価の結果、高リスク顧客と判断された顧客について、商品・サービス、取引形態、国・地域、顧客属性等に関する内容の確認
・ 他の顧客について、高リスク顧客と判断された顧客と類似又は共通する項目等がないかの確認
・ 類似・共通する項目等がある顧客に対して顧客リスク評価を見直す必要性の有無の検討
次に、「顧客管理」における「対応が求められる事項⑧」は次のとおりである。
(ガイドラインの「顧客管理」における「対応が求められる事項⑧」の内容を引用、強調は私の手による)
顧客の営業内容、所在地等が取引目的、取引態様等に照らして合理的ではないなどのリスクが高い取引等について、取引開始前又は多額の取引等に際し、営業実態や所在地等を把握するなど追加的な措置を講ずること
(引用終了)
そして、これに対するFAQにおける補足事項は次のとおりである。
① 顧客の営業内容、所在地等が取引目的、取引態様等に照らして合理的ではない取引とはいわゆる高リスク取引を指すところ、高リスク取引の具体例として次の事項が挙げられる。
・ 事業所と金融機関等との取引場所が離れている遠隔地取引で、遠隔地であることにつき合理的な理由のない場合
・ 送金依頼人が輸入者や商取引の支払人とは別の第三者であるところ、第三者が送金することに合理的な説明がない場合
・ 顧客から申告を受けている営業内容等の情報と取引内容が整合しない場合
② 高リスク取引に対する追加的な措置の具体例として次の事項が挙げられる。
・ 顧客の営業内容、所在地等が取引目的、取引態様等に照らして合理的ではない
場合の合理的な説明及び説明を裏付ける資料(証跡)の確認
・ 金融機関等における顧客への訪問又は実地調査
・ 顧客からの協力が得られない場合等における合理的ではない事項が明確になるまでの一定の取引に関する上級管理職等の承認等
③ 高リスク取引を実施する際に、金融機関等が把握することが不可欠な基礎事項の具体例として次の事項が挙げられる。
・営業実態
・所在地
④ いずれにせよ、リスクが高い取引等に対する追加的な措置については、各金融機関等が高リスク取引の特性・リスク等に応じて、個別具体的に判断する必要がある。
さらに、「顧客管理」における「対応が求められる事項⑨」は次のとおりである。
(ガイドラインの「顧客管理」における「対応が求められる事項⑨」の内容を引用、強調は私の手による)
マネロン・テロ資金供与リスクが低いと判断した顧客については、当該リスクの特性を踏まえながら、当該顧客が行う取引のモニタリングに係る敷居値を上げたり、顧客情報の調査範囲・手法・更新頻度等を異にしたりするなどのリスクに応じた簡素な顧客管理(SDD)を行うなど、円滑な取引の実行に配慮すること(注1)(注2)
(注1)この場合にあっても、金融機関等が我が国及び当該取引に適用される国・地域の法規制等を遵守することは、もとより当然である。
(注2)FATF、BCBS等においては、少額・日常的な個人取引を、厳格な顧客管理を要しない取引の一例として挙げている。
(引用終了)
そして、これに対するFAQにおける補足事項は次のとおりである。
① 「リスクに応じた簡素な顧客管理」(以下「SDD」という。)とは、顧客リスク評価の結果、「低リスク」と判断された顧客のうち、一定の条件を満たした顧客について、顧客情報を更新するなどの積極的な対応を留保し、取引モニタリング等によって、マネロン・テロ資金供与リスクが低く維持されていることを確認する顧客管理措置のことを指す。
② SDDは、顧客情報の更新等の実態把握やリスク評価の見直しといった「顧客管理」の場面に関するものである一方、犯罪収益移転防止法上の「簡素な顧客管理」(犯罪収益移転防止法施行令第7条第1項柱書及び犯罪収益移転防止法施行規則第4条第1項柱書)は取引時確認等の場面に関するものであるため、両者は完全に異なるものである。
③ SDDの対象となるためには、「なりすましや不正利用等のリスクが低い」ことが一般的に考えられる対象である必要があるところ、その際に満たすべき基準として次の3条件がある。
・ 全ての顧客に対する「『具体的・客観的な根拠に基づいた商品・サービス、取引形態、国・地域、顧客属性等に係るマネロン・テロ資金供与リスクの評価結果』を前提とした顧客リスク評価」の実施、及び、低リスク先顧客からSDD対象顧客への選定
・ 定期・随時に有効性が検証されている取引モニタリングを適用したSDD対象顧客の取引の把握、及び、不正取引等を的確に検知するための態勢の構築
・ SDD対象顧客に対する取引時確認等を実施、顧客情報が更新された場合の顧客リスク評価を見直し、及び、必要に応じて顧客管理措置の実施、ただし、SDD対象顧客に対して顧客リスク評価の見直しを実施した結果、再度SDD対象顧客と判断することに問題はない。
④ SDD対象顧客の選定のための自社の顧客等のリスク分析の際、SDD対象先から外すべき顧客の具体例として、次の事項が挙げられる。
・ 取引関係者や親子会社等、関与する者が相当に存在することが多く、かつ、取引に犯罪収益やテロリストに対する支援金等が含まれる可能性が相応にある法人や営業性個人
・ 「顧客情報が正確でないことによりリスク評価や疑わしい取引の検知を適切に実施できない可能性」を前提とした「本人確認済みでない」という事実や当該顧客の取引履歴データ等も踏まえてリスクを分析する必要のある本人確認済みでない顧客(1990年10月1日より前に取引を開始した顧客等でその後本人確認等を実施していない顧客)
・ 犯罪に関与し、又は、巻き込まれている等のリスクが相当程度存在する直近1年間において、捜査機関等からの外部照会又は口座凍結依頼を受けた実績がある顧客、及び、疑わしい取引の届出実績のある顧客
⑤ 金融機関等は、自身の顧客等のリスクを分析し、上記6条件を考慮した上でSDD対象顧客を選定する必要がある。
⑥ SDD対象顧客となるための具体的条件として、「経常的に同様の取引を行う口座であって保有している顧客情報と当該取引が整合する顧客」である必要があるところ、その具体例として次の事項が挙げられる。
・ 給与振込口座
・ 住宅ローンの返済口座
・ 公共料金等の振替口座
・ 営業に供していない口座
⑦ SDDを実施する際の「SDD対象先に対する顧客管理方法」の具体例として、次の事項が挙げられる。
・ 特定取引等にあたりSDD対象とした顧客との接点があった場合、不芳情報を入手した場合、今までの取引履歴に照らして不自然な取引が行われた場合等における、必要に応じた積極的な対応による顧客情報の更新、及び、顧客リスク評価の見直しの実施
・ 公的書類等の証跡が不足している SDD対象顧客が来店した場合等本来更新すべき情報を最新化する機会を活用した必要な情報更新を実施する態勢の構築
・ 本人特定事項(実質的支配者を含む)、取引目的及び職業等を確認できていない顧客に対する時機を捉えた犯罪収益移転防止法施行規則に定める方法による確認
⑧ 法律上の根拠に基づく信頼性のある情報(有価証券報告書等)が定期的に公表されている上場企業等の場合、有価証券報告書等に記載の情報を基に顧客リスク評価を実施し、そのリスク評価に応じたリスク低減措置を実施することも十分にありうる。
⑨ 国、地方公共団体、及び、その関連団体については、定期的な情報更新までは不要であるが、犯罪収益移転防止法第 11条柱書に則った対応をする必要がある。なお、上記関連団体とは、法律上の根拠に基づき設立・資金の運用が実施されている団体等を指す。
以上、「対応が求められる事項⑨」までを確認した。
EDD、高リスク取引への対応、SDD、各項目についてある程度具体的に書いており、非常に参考になった。
続きは次回にて。