薫のメモ帳

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司法試験の過去問を見直す9 その1

 これまで「旧司法試験・二次試験・論文式試験憲法第1問」を見直してきた。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 これまで見てきた過去問は、平成3年度・4年度・8年度・12年度・14年度・15年度・16年度・18年度の8問。

 今回から平成11年の憲法第1問を見ていく。

 

 今回のテーマは「受刑者の人権」である。

 前々回(平成14年)が「『少年』のプライバシーと知る権利」、前回(平成16年)が「前科者のプライバシー(と知る権利)」がテーマであったが、今回も「罪を犯した人の人権」がテーマになっている。

 平成11年から16年までの間にこれだけ集中するとは興味深い。

 

1 旧司法試験・論文試験・憲法・平成11年第1問

 まず、問題文を確認する。

 もっとも、法務省のサイトに問題文がなかったため、私が受験当時に用いていた教科書(具体的には次のリンクのもの、ただし、版は当時のもの)からお借りした。

 

 

(旧司法試験・二次試験・論文式試験・平成11年度・憲法第1問)

 受刑者Aは、刑務所内の処遇改善を訴えたいと考え、その旨の文章を作成して新聞社に投書しようとした。刑務所長は、Aの投書が新聞に掲載されることは刑務所内の秩序維持の上で不相当であると判断して、監獄法第46条第2項に基づき、文章の発信を不許可にした。

 右の事案に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。

(問題文終了)

 

 問題文中の「監獄法第46条」というのは平成11年当時の法律である。

 この法律は2002年ころに起きた事件をきっかけに大幅に改正され、現在では「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」となっている。

 当時の条文と現在の対応する条文を掲げると次の通りとなる。

 また、当時の条文についてはこちらのサイトのものをお借りしている。

 

http://roppou.aichi-u.ac.jp/joubun/m41-28.htm

 

(旧)監獄法第46条

第1項 在監者ニハ信書ヲ発シ又ハ之ヲ受クルコトヲ許ス

第2項 受刑者及ビ監置ニ処セラレタル者ニハ其親族ニ非サル者ト信書ノ発受ヲ為サシムルコトヲ得ス但特ニ必要アリト認ムル場合ハ此限ニ在ラス

 

(現在)刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律

第126条 刑事施設の長は、受刑者(未決拘禁者としての地位を有するものを除く。以下この目において同じ。)に対し、この目、第百四十八条第三項又は次節の規定により禁止される場合を除き、他の者との間で信書を発受することを許すものとする。

第128条 刑事施設の長は、犯罪性のある者その他受刑者が信書を発受することにより、刑事施設の規律及び秩序を害し、又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者(受刑者の親族を除く。)については、受刑者がその者との間で信書を発受することを禁止することができる。ただし、婚姻関係の調整、訴訟の遂行、事業の維持その他の受刑者の身分上、法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理のため信書を発受する場合は、この限りでない。

 

 また、本問に関連する憲法上の条文は次のとおりである。

 

第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

第21条1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

第34条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

 

 さらに、関連判例として、次の判決がある。

 

平成15年(オ)422号損害賠償請求事件

平成18年3月23日最高裁判所第一小法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/855/032855_hanrei.pdf

 

平成7年(行ツ)66号発信不許可処分取消等事件

平成11年2月26日最高裁判所第二小法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/789/062789_hanrei.pdf

 

昭和52(オ)927号損害賠償請求事件

昭和58年6月22日最高裁判所大法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/137/052137_hanrei.pdf

(いわゆる「よど号ハイジャック新聞記事抹消事件」)

 

 

 典型的な人権問題(自由を行使しようとしたら制限がかかった事案)である。

 そこで、最初に「制限された行為が憲法上の権利にあたりうる」ことの確認を行う。

 この確認は原則論として極めて重要だから。

 

2 憲法上の権利の認定

 本問は、「受刑者Aが刑務所から文章を発信しようとしたら、刑務所長からそれを不許可にされた事案」である。

 そして、Aが生物的に見て「人間」ではない、日本人ではない(日本国籍がない)といった事情を本問からうかがうことができない。

 そのため、憲法学的に見た場合、Aの人権主体性については争いがないことになる日本教から見た場合の話は別途考える)。

 

 つまり、Aの文章の発信が憲法21条1項の「表現の自由」によって保障されうるので、刑務所長の不許可処分はその「表現の自由」の制約にあたる

 

 以上、原則論を確認した。

 あっさりと終わったが、重要なのでこの点は確認しなければならない。

 

 

 ただ、人権問題のメインはいわゆる「正当化」の部分である。

 そこで、この「正当化」についてこれから検討していくわけだが、それらについては次回に。