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司法試験の過去問を見直す3 その1

 これまで旧司法試験の論文試験の憲法第1問の過去問を見てきた。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

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 今回から新しい過去問に目を向けることにする。

 

1 旧司法試験・論文試験・憲法・平成8年第1問

 今回から見ていく過去問は平成8年度第1問である。

 具体的な問題文は次のとおりである。

 

(以下、過去問の問題文を引用、引用元は『司法試験対策講座5・憲法・第2版』(伊藤真著・弘文堂・1998)より)

 団体Aが、講演会を開催するためにY市の設置・管理する市民会館の使用の許可を申請したところ、Y市長は、団体Aの活動に反対している他の団体が右講演会の開催を実力で妨害しようとして市民会館の周辺に押し掛け、これによって周辺の交通が混乱し、市民生活の平穏が害されるおそれがあるとして、団体Aの申請を不許可とする処分をした。

 また、団体Bが、集会のために右市民会館の使用の許可を申請したところ、市民会館の使用目的がY市の予定している廃棄物処理施設の建設を実力で阻止するための決起集会を開催するものであることが判明したので、Y市長は団体Bの申請を不許可とする処分をした。

 右の各事例における憲法上の問題点について論ぜよ。

(以上、過去問終了)

 

 この問題に関係する憲法の条文は次のとおりである。

 

憲法21条1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

憲法13条後段 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 

 また、憲法とは関係ないが、地方自治法の関連条文は次のとおりである。

 

地方自治法244条1項 普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。
同2項 普通地方公共団体(次条第三項に規定する指定管理者を含む。次項において同じ。)は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。
同3項 普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。 

 

 さらに、関連する判例としては次の2つが挙げられる。

 

泉佐野市民会館事件(国家賠償訴訟、原告敗訴)

平成元年(オ)762号損害賠償事件・平成7年3月7日最高裁判所第三小法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/449/052449_hanrei.pdf

 

上尾市民会館事件(国家賠償訴訟、原告事実上勝訴)

平成5年(オ)1285号国家賠償事件・平成8年3月15日最高裁判所第二小法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/875/055875_hanrei.pdf

 

「講演会に反対し、デモ等を使って阻止しようとする人間たちがいる」ということを理由に市民会館の利用を拒否できるか(拒否した場合、賠償金を払う義務を負うか)。

 自分の市の政策に反対し、デモなどの実力行使まで考えている団体の市民会館の利用を拒否できるか。

 以下、答案を作成するために必要な前提知識を述べていく。

 

2、団体の集会の自由

 憲法上の問題が問われている以上、第一段階として「不許可処分によって『各団体の憲法上の権利』が制限されうる」と言える必要がある。

 というのも、不許可処分によって憲法上の権利が制限されていなければ、そもそも憲法上の問題にならないからである。

 

 なお、前提として団体(法人)に人権享有の主体性があるかという問題はある。

 団体は人々の集合であって共有主体たる人間それ自体ではないからである。

 しかし、最高裁は「性質上可能な限り肯定される」と人権共有主体性をあっさり肯定しているので、ここでもあっさり肯定して良い。

 なお、肯定する理由としては、①現代社会において団体(法人)は社会的に実在する重要な構成要素となっていること、②団体に人権の享有主体を認めることで団体に所属する個人の人権の確保につながること、などである。

 もっとも、団体の人権共有主体性を否定しても、不許可処分によって参加者個人の憲法上の権利が阻害されると言いうるので、この争点を論じる実益はほとんどない。

 

 

 次に、不許可処分は各団体の憲法上の権利を制限しうるのか、という問題点がある。

 

 不許可処分によって団体A(団体Aの構成員)は講演会を開けなくなった。

 不許可処分によって団体B(団体Bの構成員)は集会を開けなくなった。

 いずれにおいても、人々が集まって行動(公演を聴く、集会を開く)する機会が奪われてしまったのである。

 そして、人々の集合・結集を保証したのが憲法21条1項の「集会の自由」である。

 したがって、いずれの団体も不許可処分によって集会の自由が制限されうることになった、と言える。

 

 この権利の制限に関する認定、分量は多くする必要は全くないが、必ず書く必要がある。

 ここがまさに原則部分だからである。

 

 

 そして、原則として「集会の自由の制限」が認定された以上、例外的な事情がない限り不許可処分は共に違憲・違法になる。

 では、例外が生じるにはどのような具体的な基準を満たせばいいか、そして、それぞれの団体に関して不許可処分はその基準を満たすかのか。

 次回以降でそれらを見ていく。