薫のメモ帳

私が学んだことをメモ帳がわりに

司法試験の過去問を見直す10 その5

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 旧司法試験・二次試験の論文式試験・平成20年度の憲法第1問についてみていく。

 今回も前回と同様、本問に関連する判例をみていく。

  

8 南九州税理士会事件最高裁判決を見る

 最初に見るのが南九州税理士会事件である。

 国労広島地本事件は「組合費払え」という団体が個人を訴えた事件だったのに対し、南九州税理士会事件は「決議は無効だ。それから、決議によって不利益(団体の役員選挙に参加できなかった)を被ったので慰謝料払え」という個人から団体を訴えた事件である。

 

平成4年(オ)1796号選挙権被選挙権停止処分無効確認等事件

平成8年3月19日最高裁判所第三小法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/864/055864_hanrei.pdf

(いわゆる「南九州税理士会事件」)

 

 まず、事実関係をチェックするため、判決文を引用する。

 なお、本文中、「K税政」とあるのは政治資金規正法上の「政治団体」である。

 

(以下、南九州税理士会事件から引用、節番号などは省略、各文毎に改行、ところどころ中略、強調は私の手による)

 被上告人は、昭和五三年六月一六日、第二二回定期総会において、再度、税理士法改正運動に要する特別資金とするため、各会員から本件特別会費五〇〇〇円を徴収する、納期限は昭和五三年七月三一日とする、本件特別会費は特別会計をもって処理し、その使途は全額K税政へ会員数を考慮して配付する、との内容の本件決議をした。

 当時の被上告人の特別会計予算案では、本件特別会費を特別会計をもって処理し、特別会費収入を五〇〇〇円の九六九名分である四八四万五〇〇〇円とし、その全額をK税政へ寄付することとされていた。

 上告人は、昭和三七年一一月以来、被上告人の会員である税理士であるが、本件特別会費を納入しなかった

(中略)

 被上告人は、(中略)、本件特別会費の滞納を理由として、昭和五四年度、同五六年度、同五八年度、同六〇年度、同六二年度、平成元年度、同三年度の各役員選挙において、上告人を選挙人名簿に登載しないまま役員選挙を実施した

(引用終了)

 

 そして、原審たる福岡高等裁判所は次のように述べて税理士の協力義務を肯定した。

 

(以下南九州税理士会事件から引用、節番号などは省略、各文毎に改行、ところどころ中略、強調は私の手による)

 被上告人が、税理士業務の改善進歩を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度の確立を目指し、法律の制定や改正に関し、関係団体や関係組織に働きかけるなどの活動をすることは、その目的の範囲内の行為であり、右の目的に沿った活動をする団体が被上告人とは別に存在する場合に、被上告人が右団体に右活動のための資金を寄付し、その活動を助成することは、なお被上告人の目的の範囲内の行為である

 K税政は、規正法上の政治団体であるが、被上告人に許容された前記活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であり、その政治活動は、税理士の社会的、経済的地位の向上、民主的税理士制度及び租税制度の確立のために必要な活動に限定されていて、右以外の何らかの政治的主義、主張を掲げて活動するものではなく、また、特定の公職の候補者の支持等を本来の目的とする団体でもない

(引用終了)

 

 以上の原審の判断と次の国労広島地本事件の判示は重ならないではない。

 

(以下、国労広島地本事件の最高裁判決から引用、各文毎に改行)

 労働者の権利利益に直接関係する立法や行政措置の促進又は反対のためにする活動のごときは、政治的活動としての一面をもち、そのかぎりにおいて組合員の政治的思想、見解、判断等と全く無関係ではありえないけれども、それとの関連性は稀薄であり、むしろ組合員個人の政治的立場の相違を超えて労働組合本来の目的を達成するための広い意味における経済的活動ないしはこれに付随する活動であるともみられるものであつて、このような活動について組合員の協力を要求しても、その政治的自由に対する制約の程度は極めて軽微なものということができる。

 それゆえ、このような活動については、労働組合の自主的な政策決定を優先させ、組合員の費用負担を含む協力義務を肯定すべきである。

(引用終了)

 

 上の判示を南九州税理士会の事案にあてはめた場合、「税理士会の外側に税理士会の目指す政策を実現することを目的とする政治団体がいたため、『政治団体への寄付』という形をとった。よって、政治団体への寄付に対する協力義務も肯定してもよい」ということになるだろう。

 原審の考えたことを国労広島地本組合費請求事件の最高裁判決に引き付けるならこのようになる。

 まあ、この政治団体は「本当に」そのために使ったのか、それを税理士会が制御できるのか(使わなかったらどうするのか)、という問題があるとしても

 

 

 これに対し、最高裁判所はこの原審の判断をひっくり返した

 キーワードは「強制加入団体」「寄付先が『政治資金規正法上の政治団体』であること」の2点である。

 

 まず、最高裁判所は次のように結論を述べる。

 

(以下、南九州税理士会事件最高裁判決から引用、ところどころ中略、強調は私の手による)

  税理士会が政党など規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても、(中略)税理士会の目的の範囲外の行為であり、右寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は無効であると解すべきである。

(引用終了)

 

 そして、いわゆる株式会社と税理士会の違いを強調する。

 重要な部分を引用すると次の通りとなる。

 

(以下、南九州税理士会事件最高裁判決から引用、節番号など省略、各文毎改行、ところどころ中略、強調は私の手による)

 しかしながら、税理士会は、会社とはその法的性格を異にする法人であって、その目的の範囲については会社と同一に論ずることはできない。

(中略)

 税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的として、法が、あらかじめ、税理士にその設立を義務付け、その結果設立されたもので、その決議や役員の行為が法令や会則に反したりすることがないように、大蔵大臣の前記のような監督に服する法人である。

 また、税理士会は、強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない(中略)

 税理士会は、以上のように、会社とはその法的性格を異にする法人であり、その目的の範囲についても、これを会社のように広範なものと解するならば、法の要請する公的な目的の達成を阻害して法の趣旨を没却する結果となることが明らかである。

(引用終了)

 

 そして、強制加入団体における個人の協力義務について次のように述べる。

 

(以下、南九州税理士会事件最高裁判決から引用、節番号など省略、各文毎改行、ところどころ中略、強調は私の手による)

 法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々の思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている

 したがって、税理士会が右の方式により決定した意思に基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある。

 特に、政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである。

 

 そして、政治団体への寄付については次のように述べている。

 

(以下、南九州税理士会事件最高裁判決から引用、節番号など省略、各文毎改行、ところどころ中略、強調は私の手による)

 なぜなら、政党など規正法上の政治団体は、政治上の主義若しくは施策の推進、特定の公職の候補者の推薦等のため、金員の寄付を含む広範囲な政治活動をすることが当然に予定された政治団体であり(規正法三条等)、これらの団体に金員の寄付をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題だからである。

 法は、四九条の一二第一項の規定において、税理士会が、税務行政や税理士の制度等について権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができるとしているが、政党など規正法上の政治団体への金員の寄付を権限のある官公署に対する建議や答申と同視することはできない。

(引用終了)

 

 つまり、政治団体への寄付した場合、それを政策実現目的に使うか、政党支援・候補者支援の目的に使うかは完全に政治団体の自由であり、税理士会政治団体への寄付と官公署への建議・諮問に答申することは同じではないと述べている。

 ついでに、最高裁判所は次のように述べ、「結果的に見た場合、この献金がトンネル献金になってしまったことは原審も認めているじゃねーか」と述べている。

 

(以下、南九州税理士会事件最高裁判決から引用、節番号など省略、各文毎改行、ところどころ中略、強調は私の手による)

 原審は、K税政は税理士会に許容された活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であり、その活動が税理士会の目的に沿った活動の範囲に限定されていることを理由に、K税政へ金員を寄付することも被上告人の目的の範囲内の行為であると判断しているが、規正法上の政治団体である以上、前判示のように広範囲な政治活動をすることが当然に予定されており、K税政の活動の範囲が法所定の税理士会の目的に沿った活動の範囲に限られるものとはいえない。因みに、K税政が、政治家の後援会等への政治資金、及び政治団体であるE税政への負担金等として相当額の金員を支出したことは、原審も認定しているとおりである

(引用終了)

 

 

 以上が、南九州税理士会事件の最高裁判決である。

 最後に、群馬司法書士会事件を見てみる。

 

9 群馬司法書士会事件最高裁判決を見る

 この判決には補足意見がない。

 そして、多数意見の概要を見ると、「寄付金として額が多すぎると言えなくもないが、阪神大震災という未曽有の事態に対する支援目的であり、(会員の)負担が重くない以上は無効とまでは言えない」という感じである。

 

(以下、群馬司法書士会事件最高裁判決から引用、節番号などは省略、各文毎に改行、ところどころ中略、強調は私の手による)

 原審の適法に確定したところによれば,本件拠出金は,被災した兵庫県司法書士会及び同会所属の司法書士の個人的ないし物理的被害に対する直接的な金銭補てん又は見舞金という趣旨のものではなく,被災者の相談活動等を行う同司法書士会ないしこれに従事する司法書士への経済的支援を通じて司法書士の業務の円滑な遂行による公的機能の回復に資することを目的とする趣旨のものであったというのである。

(中略)

 その目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で,他の司法書士会との間で業務その他について提携,協力,援助等をすることもその活動範囲に含まれるというべきである。

 そして,3000万円という本件拠出金の額については,それがやや多額にすぎるのではないかという見方があり得るとしても,阪神・淡路大震災が甚大な被害を生じさせた大災害であり,阪神・淡路大震災甚大な被害を生じさせた大災害であり,早急な支援を行う必要があったことなどの事情を考慮すると,その金額の大きさをもって直ちに本件拠出金の寄付が被上告人の目的の範囲を逸脱するものとまでいうことはできない。

 したがって,兵庫県司法書士会に本件拠出金を寄付することは,被上告人の権利能力の範囲内にあるというべきである。

(中略)被上告人は,本件拠出金の調達方法についても,それが公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き,多数決原理に基づき自ら決定することができるものというべきである。

 これを本件についてみると,被上告人がいわゆる強制加入団体であること(同法19条)を考慮しても,本件負担金の徴収は,会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではなく,また,本件負担金の額も,登記申請事件1件につき,その平均報酬約2万1000円の0.2%強に当たる50円であり,これを3年間の範囲で徴収するというものであって,会員に社会通念上過大な負担を課するものではないのであるから,本件負担金の徴収について,公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情があるとは認められない。

(引用終了)

 

 この事件については、「未曽有の大震災で、スピード感のある対応が必要だった以上、寄付額が大きくてもしょうがない」という事情が見える。

 補足意見がない以上、「しょうがない」という消極的な肯定にとどまるのか、それを超えて積極的な肯定まで含むのか、よくわからないところであるが。

 

 

 ところで、この事件では反対意見が2件ある。

 まず、深澤裁判官(弁護士出身)の反対意見をみてみる。

 

(以下、裁判官深澤武久の反対意見から引用、節番号などは省略、各文毎に改行、ところどころ中略、強調は私の手による)

 被上告人は,司法書士になろうとする者に加入を強制するだけでなく,会員が司法書士の業務を継続する間は脱退の自由を有しない公的色彩の強い厳格な強制加入団体である

(中略)

 本件決議当時,被上告人の会員は281名で年間予算は約9000万円であり,経常費用に充当される普通会費は1人月額9000円でその年間収入は3034万8000円であるから,本件拠出金は,被上告人の普通会費の年間収入にほぼ匹敵する額であり,被上告人より多くの会員を擁すると考えられるD会の500万円,E会の1000万円,F会の1000万円の寄付に比して突出したものとなっている。

 これに加えて被上告人は本件決議に先立ち,一般会計から200万円,会員からの募金100万円とワープロ4台を兵庫県司法書士会に寄付している。

(中略),本件拠出金の寄付は,その額が過大であって強制加入団体の運営として著しく慎重さを欠き,会の財政的基盤を揺るがす危険を伴うもので,被上告人の目的の範囲を超えたものである。

(中略)

 本件決議は,本件拠出金の調達のために特別負担金規則を改正して,従前の取扱事件数1件につき250円の特別負担金に,復興支援特別負担金として50円を加えることとしたのであるが,決議に従わない会員に対しては,会長が随時注意を促し,注意を受けた会員が義務を履行しないときはその10倍相当額を会に納入することを催告するほか,会則に,ア 被上告人の定める顕彰規則による顕彰を行わない,イ 共済規則が定める傷病見舞金,休業補償金,災害見舞金,脱会一時金の共済金の給付及び共済融資を停止し,既に給付又は貸付を受けた者は直ちにその額を返還しなければならない,ウ 注意勧告を行ったときは,被上告人が備える会員名簿に注意勧告決定の年月日及び決定趣旨を登載することなどの定めがあり,また,総会決議の尊重義務を定めた会則に違反するものとして,その司法書士会の事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長に報告し(司法書士法15条の6,16条),同法務局又は地方法務局の長の行う懲戒の対象(同法12条)にもなり得るのである

(中略)友会の災害支援という間接的なものであるから,そのために会員に対して(2)記載のような厳しい不利益を伴う協力義務を課すことは,目的との間の均衡を失し,強制加入団体が多数決によって会員に要請できる協力義務の限界を超えた無効なものである。

(引用終了)

 

 この点、深澤武久裁判官(弁護士出身)は、額の過大さだけではなく、手段の不相当性にも言及している

 

 

 次に、横尾裁判官(行政官出身)の反対意見を見てみる。

 重複する部分を除くと次の部分が参考になると考えられる。

 

(以下、横尾裁判官の反対意見から引用)

 原審が適法に確定した事実関係によれば,①本件決議がされた前後の被上告人の年間予算は約9000万円であった,②本件決議以前に発生した新潟地震や北海道奥尻島地震長崎県雲仙普賢岳噴火災害等の災害に対し儀礼の範囲を超える義援金が送られたことはない③被上告人の会員について火災等の被災の場合拠出される見舞金は50万円である(共済規則18条)というのであり,(中略)

 原審が適法に確定した事実関係によれば,①(中略)本件決議案の提案理由の中には,「被災会員の復興に要する費用の詳細は(中略),最低1人当たり数百万円から千万円を超える資金が必要になると思われる。」との記載があり,被災司法書士事務所の復興に要する費用をおよそ35億円とみて,その半額を全国の司法書士会が拠出すると仮定して被上告人の拠出金額3000万円を試算していること等からすると,本件拠出金の使途としては,主として被災司法書士の事務所再建の支援資金に充てられることが想定されていたとみる余地がある,(中略)③本件拠出金の具体的な使用方法は,挙げて寄付を受ける兵庫県司法書士会の判断運用に任せたものであったというのであり,このような事実等によれば,本件拠出金については,被災した司法書士の個人的ないし物理的被害に対する直接的な金銭補てんや見舞金の趣旨,性格が色濃く残っていたものと評価せざるを得ない

(引用終了)

 

 

 以上、関連判例を前回と今回でみてきた。

 ただ、判決を見るだけで相当の分量になってしまった。

 そこで、次回、本問の結論の妥当性を再考し、同時に、憲法外の事情を含めて諸々の気になったことを確認して、本問の検討を終了する。