今回はこのシリーズの続き。
犯罪収益移転防止法の条文を通じてマネロン対策(AML/CFT)についてみていく。
48 継続的顧客管理とその他の努力義務
前回は、海外送金関係についてみてきた。
今回は、犯罪収益移転防止法第11条についてみていく。
まず、犯罪収益移転防止法第11条柱書を確認する。
(以下、犯罪収益移転防止法第11条柱書を引用、強調・改行は私の手による)
特定事業者は、
取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置(中略)を的確に行うため、
当該取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置を講ずるものとするほか、
次に掲げる措置を講ずるように努めなければならない。
(引用終了)
柱書には2つのことが書かれている。
1つ目は、取引時確認において確認した事項の情報を最新の内容に保つための措置を講ずる義務。
これはいわゆる「継続的顧客管理」と呼ばれているものである。
2つ目は、「『取引時確認等の措置(取引時確認の実施、確認記録や取引記録の作成保存、疑わしい取引の届出等)』を的確に行うための措置を講ずる努力義務」であって、犯罪収益移転防止法に明示されている努力義務の内容は次のとおりである。
・ 使用人に対する教育訓練の実施
・ 取引時確認等の措置の実施に関する規程の作成
・ 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査その他の業務を統括管理する者の選任
(犯罪収益移転防止法第11条第1号から第3号)
この点、取引時確認等の措置を的確に行うためには、研修は必要だし(第1号)、マニュアルといった規程等は作っておく必要があるし(第2号)、責任者たる統括管理者を選任する必要がある(第3号)。
そう考えれば、この3点は重要であろう。
では、犯罪収益移転防止法第11条第4号及び犯罪収益移転防止法施行規則第32条にはどのような措置が努力義務として定められているか。
この点、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第1項には、全特定事業者を対象とする努力義務が定められている。
また、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第2項には、国内の特定事業者が海外に外国所在営業所があり、かつ、その外国の法令によるマネロン・テロ資金供与対策に関する基準が日本の基準よりも緩やかな場合の努力義務が定められている。
なお、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第3項には、子会社に当たるかどうかの判断基準について定められている。
さらに、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第4項にはコルレス契約を締結した特定事業者(特定金融機関)の努力義務が定められている。
そして、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第5項、6項、7項、8項には電子決済手段等取引業者、暗号資産交換業者らの努力義務について定められているが、これらについては興味等がないため、ここでは割愛する。
まず、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第1項には次の努力義務が定められている。
・ 特定事業者作成書面等の作成、必要に応じた見直し・変更
(犯罪収益移転防止法第11条第4号、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第1項第1号)
いわゆる「リスク評価書」に関する事項を定めた規則である。
条文に書かれている内容を見ると、このリスク評価書は次の性質を持っているものらしい。
・自らが行う取引又は特定受任行為の代理等(新たな技術を活用して行うものその他新たな態様によるものを含む。)に関する調査と分析
・自らが行う取引又は特定受任行為の代理等による犯罪収益移転の危険性の程度その他の調査及び分析
・自らが行う取引等や自らが行う取引等による犯罪収益移転の危険性の程度の調査・分析結果を記載・記録した書面や電磁的記録の作成
・作成したリスク評価書について必要に応じて見直し、内容の変更
ざっくり言えば、自分たちがどんな取引をしているのか、それらの取引にどんなマネロン等リスクがあるのかを調査・分析して「リスク評価書」として書面化する、必要に応じて再調査・再検討を行い、変更部分を修正する、といったところであろうか。
これらは、いわゆる「リスクベース・アプローチ」における「リスクの特定」・「リスクの評価」に相当する。
・特定事業者作成書面等の内容を勘案して取引時確認等の措置の実施に必要な情報の決定と収集、収集情報の整理と分析
(犯罪収益移転防止法第11条第4号、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第1項第2号)
この条項では、「リスク評価書の内容を考慮した場合の『取引時確認や疑わしい取引の届出等』を実施する際に収集すべき必要な情報』」を決定し、現実にその情報の収集するとともに、得られた情報の整理・分析することを求めていることになる。
言い換えれば、「『リスク評価書の内容によっては、犯罪収益移転防止法が求めていない情報を求めることなくマネロン等リスクが許容レベルまで下げられないことがあるだろう』から、その情報を決定し、収集し、整理・分析せよ」ということになる。
こうやって見ると、「法律が求めるレベルではマネロン等リスクは十分に下げられていない」と言っている感じがしないではないが、それはさておき。
・ 特定事業者作成書面等の内容を勘案し、確認記録及び取引記録等を継続的に精査すること。
(犯罪収益移転防止法第11条第4号、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第1項第3号)
リスク評価書の内容に基づいて確認記録や取引記録を分析して、リスク評価書の内容が現実に即しているか検討・修正しなさい、といったところであろうか。
・ 顧客等との取引(代表者等によるもの含む)が、ハイリスク取引、取引時確認に応じない取引、及び、リスク評価書の内容に照らしてマネロン等リスクの高い取引(疑わしい取引、異常な態様による取引等)において、統括管理者の承認を取引実施の要件とすること
(犯罪収益移転防止法第11条第4号、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第1項第4号)
この点、犯罪収益移転防止法施行規則第27条では、ハイリスク取引、取引時確認に応じない顧客等の取引、及びマネロン等リスクの高い取引においては、その取引実施について統括管理者またはそれに準じる者の判断が必要となっていた。
これが犯罪収益移転防止法施行規則第32条第1項第4号の努力義務の場合、統括管理者以外の判断は認めないという形になっている。
統括管理者以外の承認を認めないということができるかどうかは特定事業者の規模によるような気もする。
・ ハイリスク取引、取引時確認に応じない取引、及び、リスク評価書の内容に照らしてマネロン等リスクの高い取引について、情報の収集、整理及び分析を行った場合の整理・分析結果を記載・記録した書面等を作成し、確認記録又は取引記録等と共に保存すること。
(犯罪収益移転防止法第11条第4号、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第1項第5号)
ハイリスク取引等統括管理者等の判断・承認を要した取引において、取引の結果と収集した情報を整理すること、分析した場合はその記録を確認記録や取引記録とともに保存することが要求されている。
まあ、情報を収集・整理・分析したとしても、その結果が保存されなければ意味がないことを考慮すれば、当然のことと言えようか。
・ 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な能力を有する者を特定業務に従事する職員として採用するために必要な措置を講ずること。
(犯罪収益移転防止法第11条第4号、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第1項第6号)
マネロン・テロ資金供与に関して能力のある職員を採用せよ(教育せよ)といったところか。
何かを感じないではないが、それはさておき。
・ 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査を実施すること。
(犯罪収益移転防止法第11条第4号、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第1項第7号)
監査をちゃんとしなければ、マネロン・テロ資金供与対策ができているかどうかの確認ができない。
これもまたある意味当然と言えようか。
以上、特定事業者全体を対象とする努力義務についてみてきた。
次に、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第2項に規定されている海外に営業店や子会社のある金融機関で、その地方のマネロン・テロ資金供与対策に関する基準が日本よりも緩やかな場合の特定事業者の努力義務についてみていく。
なお、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第3項に子会社か否かの判断基準が規定されているが、その基準は「議決権の過半数を直接・間接に有しているかどうか」であり、かつ、直接・間接の考え方は実質的支配者の決め方と同様のようである。
この点、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第2項が定めている努力義務は次のとおりである。
・ 外国の子会社・営業所において犯罪収益の移転防止に必要な注意を払うこと。
・ 子会社・営業所がある外国の法令に違反しない限りにおいて、子会社・営業所において「取引時確認等の措置に準じた措置」の実施を確保すること。
(犯罪収益移転防止法第11条第4号、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第2項第1号)
・ 子会社・営業所のある外国において、その国の法令により取引時確認等の措置に準じた措置を講ずることが禁止されているために取引時確認等の措置に準じた措置が実施できない場合、その旨を行政庁(主に金融庁長官)に通知すること。
(犯罪収益移転防止法第11条第4号、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第2項第2号)
まあ、そんなところであろう、という感じである。
最後に、コルレス契約を締結した特定金融機関の努力義務についてみていく。
犯罪収益移転防止法施行規則第32条第4項によると努力義務の内容は次のとおりである。
・ コルレス契約締結先の為替取引業者における犯罪収益移転防止に係る体制整備状況、営業の実態、外国政府機関のコルレス契約締結先の為替取引業者に対する監督の実態に関する情報の収集、及び、収集した情報に基づいたコルレス契約締結先の為替取引業者の犯罪収益移転防止に係る体制の評価
・ 統括管理者の承認を含めたコルレス契約を締結に係る審査手順を定めた規程の作成
・ 特定金融機関自らが行う取引時確認等の措置及びコルレス契約締結先の為替取引業者が行う取引時確認等相当措置の実施に係る責任に関する事項を文章等により明確にしておくこと。
・ 特定金融機関自らがコルレス契約に基づいてコルレス契約締結先の為替取引業者の顧客と為替取引を行う場合のコルレス契約締結先の為替取引業者が為替取引を行う顧客の取引時確認等相当措置を行う体制の整備の状況を確認、及び、コルレス契約締結先の為替取引業者が取引時確認等相当措置により得た情報を自分たちに提供することができることを文章等により明確にすること。
(犯罪収益移転防止法第11条第4号、犯罪収益移転防止法施行規則第32条第4項各号)
以上、犯罪収益移転防止法第11条と犯罪収益移転防止法施行規則第32条を見てきた。
これらの条文を見ていると、犯罪収益移転防止法第11条において努力義務となっている項目は、金融庁の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に具体化されているように見える。
そこで、次回は、金融庁の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」についてみていく。