今回はこのシリーズの続き。
犯罪収益移転防止法の条文を通じてマネロン対策(AML/CFT)についてみていく。
53 雑則
前回は、犯罪収益移転防止法の第3章と第4章についてみてきた。
今回は、犯罪収益移転防止法の第5章(雑則)と第6章(罰則)についてみていく。
ただし、私の関心がない部分については省略する。
まず、犯罪収益移転防止法第20条は主務省令への委任について定めている。
これがいわゆる「委任立法」の根拠規定ということだろうか。
次に、犯罪収益移転防止法第21条は経過措置について定めている。
経過措置の根拠規定はこのようになっているのか・・・。
勉強になった。
また、犯罪収益移転防止法第22条は行政庁について定めている。
この点、犯罪収益移転防止法第22条第1項第1号によると、いわゆる「預金取扱い金融機関」の行政庁は内閣総理大臣になるように見える。
もっとも、犯罪収益移転防止法第22条第5項によると、内閣総理大臣の権限は金融庁長官に委任する旨定めている。
そこで、預金取扱い金融機関にとっての行政庁は金融庁長官となるのだろう。
なお、犯罪収益移転防止法施行令によると、この金融庁長官の権限は地方の財務局に対して権限を再委任している。
そこで、犯罪収益移転防止法施行令第21条を見て、財務局長への金融庁の権限の再委任についてみていくことにする。
この点、犯罪収益移転防止法施行令第21条には、金融庁長官権限(犯罪収益移転防止法第22条第5項により金融庁長官に委任された権限)について、「金融庁長官検査・是正命令等権限」(犯罪収益移転防止法第15条、第16条第1項、第17条、及び、第18条に定められた権限)と「金融庁長官検査等権限」(犯罪収益移転防止法第15条、第16条第1項に定められた権限)の使い分けがある。
前者の権限は金融庁長官が行使できる全部の権限であり、後者の権限は報告・資料の提出、立入・検査・質問等の権限に限られることになる。
以下、この点に注意しながら条文を見ていく必要がある。
また、分かりやすさのため、カッコ書きに関する部分を先に示しておく。
・ 銀行等 → 犯罪収益移転防止法第2条第2項第1号、2号、6号、25号、26号、30号の2ないし32号に掲げる特定事業者
・ 本店等 → 本店又は主たる事務所若しくは営業所
・ 支店等 → 本店等以外の事務所、営業所その他の施設
・ 財務局長等 → 財務局長及び所在地が福岡財務支局の管轄区域内にある場合にあっては福岡財務支局長
・ 検査等 → 報告若しくは資料の提出の求め又は質問若しくは立入検査
まず、犯罪収益移転防止法施行令第21条1項によると、銀行等に対する金融庁長官検査・是正命令等権限について本店等の所在地を管轄する財務局長等に委任すること、また、金融庁長官自らの権限行使を妨げない旨定められている。
言い換えれば、委任によりその銀行等に対する金融庁長官の権限はその本店等が所在する財務局長のところにも同様の権限がある、と言えばいいだろうか。
次に、犯罪収益移転防止法施行令第21条2項によると、金融庁長官検査等権限で銀行等の支店等に対するものについては、本店等の所在地を管轄する財務局長だけではなく、支店等の所在地を管轄する財務局長等も行使することができる旨定められている。
検査等の権限しかないが、支店等に対してであれば支店等の管轄する財務局長にも権限が委任されているようである。
また、犯罪収益移転防止法施行令第21条3項によると、支店に対して検査等を行った財務局長等が本店等や他の支店等に対しても検査等が必要であると認めた際には、その本店等・支店等についても検査等を実施できるらしい。
まあ、追加調査が別の本店等・支店等において必要となっても権限がありません、ではあれだからなあ。
それから、主務大臣等について定められている犯罪収益移転防止法第23条と事務の区分に定められた犯罪収益移転防止法第24条については見るのを省略する。
もちろん、ここで取り上げていない犯罪収益移転防止法施行令、犯罪収益移転防止法施行規則の条項についても省略する。
この辺りは、「犯罪収益移転防止法と犯罪収益移転防止法施行令に犯罪収益移転防止法施行規則を紐づける」際に見てきたし。
54 罰則
次に、犯罪収益移転防止法第6章の罰則についてみていく。
もっとも、私から見て特に興味・関心のない条項は飛ばしてみていくことにする。
つまり、今回見ていく条項は、私から見て興味・関心のある犯罪収益移転防止法第25条から第28条までと両罰規定に定められている犯罪収益移転防止法第31条についてであり、犯罪収益移転防止法第28条の2から第30条までは省略する。
まず、犯罪収益移転防止法第25条は、行政庁による是正命令に違反した場合に「2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又は併科」の刑罰を科す旨定められている。
とすると、単に、犯罪収益移転防止法に課された取引時確認等の義務を怠った(失念した)だけでは刑事罰の適用はない、といったところであろうか。
なお、是正命令違反については犯罪収益移転防止法第31条第1号に両罰規定が規定されており、法人には3億円以下の罰金刑が科されるらしい。
「3億円というとすごいなあ」と感じなくはないが、相手は特定事業者たる法人であることを考慮すれば理解できない話ではない。
また、命令違反を行った総ての法人に対して3億円の罰金刑を貸すわけでもないし。
次に、犯罪収益移転防止法第26条は、行政庁の特定事業者に対する報告要求に対する報告回避、虚偽の報告、資料提出要求に対する資料提出回避、虚偽の資料の提出(犯罪収益移転防止法第26条第1号)、それから、行政庁の特定事業者に対する質問に対する答弁回避、虚偽の答弁、検査の拒絶、妨害、忌避(犯罪収益移転防止法第26条第2号)の場合に、「1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又は併科」の刑罰を科す旨定められている。
また、両罰規定が犯罪収益移転防止法第31条第2号に規定されており、法人には2億円以下の罰金刑が科されるらしい。
2億円というとすごいなあ、と感じなくはないが、(以下略)。
以上、特定事業者に対する犯罪と刑罰についてみてきた。
以下、顧客等に対する犯罪と刑罰についてみていく。
まず、犯罪収益移転防止法第27条は、「取引時確認において、顧客等又は代表者等の本人特定事項を隠蔽する目的で、顧客等・代表者等の本人特定事項について虚偽の申告をした場合」に、「1年以下の懲役、若しくは、100万円以下の罰金、または、併科」の刑罰を科す旨定められている。
また、両罰規定が犯罪収益移転防止法第31条第3号に規定されており、法人には100万円以下の罰金刑が科されるらしい。
特定事業者に対する刑罰と比較すると、と感じなくはないが、そういうものなのだろう。
また、この刑罰は本人特定事項についての虚偽の申告に限られているようである。
最後に、口座の不正売買に関する罰則を定めた犯罪収益移転防止法第28条を見ていく。
なお、この条文に関しては両罰規定はない。
また、カッコ書きになっている部分を先に示しておく。
・ 特定事業者 → 犯罪収益移転防止法第2条第2項第1号から15号まで、37号に掲げる特定事業者
・ 預貯金契約 → 特定取引としての預貯金契約
・ 預貯金通帳等 → 預貯金契約に係る預貯金通帳、預貯金の引出用のカード、預貯金の引出し又は振込みに必要な情報その他特定事業者との間における預貯金契約に係る役務の提供を受けるために必要なものとして政令で定めるもの
以上を確認したところで、犯罪収益移転防止法第28条第1項に規定されている犯罪行為を見ていくと次の2種類が犯罪行為となっている。
なお、この「預貯金口座等の不正取得」対して課される刑罰は「1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又は併科」である。
・ 他人になりすまして特定事業者との間における預貯金契約に係る役務の提供を受けること又はこれを第三者にさせることを目的として、預貯金通帳等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者
・ 通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者
両者は、「預貯金通帳等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受ける」点では共通する。
そこで、①他人になりすまして預貯金契約に関する役務の提供を得る目的、②特定業者に他人になりすました者に預貯金契約に関する役務を提供させる目的、又は、③正当な理由なく有償で、「預貯金通帳等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受ける」ことが犯罪行為になると言える。
無償による取得の場合は違法な目的がないと犯罪が成立しないが、有償による取得の場合は原則として犯罪が成立する、と考えることができるかもしれない。
次に、犯罪収益移転防止法第28条第2項に規定されている犯罪行為を見ていくと次の2種類が犯罪行為となっている。
なお、この「預貯金口座の不正譲渡」対して課される刑罰は「1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又は併科」である。
・ 相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者
・ 通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者
こちらは、「預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した」点では同じである。
そこで、①相手方に他人になりすまして預貯金契約に関する役務の提供を得る目的等があることを知って、②相手方に特定事業者に他人になりすました者に預貯金契約に関する役務を提供させる目的があることを知って、または、③通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、「預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した」場合に成立することになる。
こちらも、 無償による譲渡の場合は違法な目的を知ってないと犯罪が成立しないが、有償による譲渡の場合は原則として犯罪が成立する、と考えることができるかもしれない。
さらに、犯罪収益移転防止法第28条第3項によると、「預貯金口座等の不正取得・不正譲渡」を業として行った場合は、刑罰が「3年以下の懲役若しくは5百万円以下の罰金、又は併科」に格上げされるらしい。
最後に、犯罪収益移転防止法第28条第4項によると、「預貯金口座等の不正取得・不正譲渡」をするように他人を勧誘し、あるいは、他人を誘引した場合、「1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又は併科」が刑罰として科される旨規定されている。
なお、業として行わなかった場合の「懲役1年以下(以下略)」というと、少々軽い感じがしないではない。
本格的に取り締まるのであれば、業務妨害罪レベル、つまり、懲役5年以下くらいにした方がいいのではないか、と考えないではない。
もちろん、他の刑罰との均衡が大事であるのはいうまでもないとしても。
以上、犯罪収益移転防止法第5章と第6章について確認した。
次回は、取引時確認に関する特例について定めた犯罪収益移転防止法施行規則第13条について確認していくことにする。