今日はこのシリーズの続き。
『数学嫌いな人のための数学』を読んで学んだことをメモにする。
27 第5章の第4節を読む
第4節のタイトルは「経済の相互連関を単純なモデルで理解する」。
第3節で登場した最単純ケインズモデルと数学を使って、経済学のエッセンスを見ていく。
まず、最単純ケインズモデルの内容を確認する。
この点、限界消費傾向をa(0<a<1)、投資関数をIとし、消費関数をC、生産関数・所得関数をYとするのは前回と同様である。
また、これらの言葉には「国民(全体)の」という文言がないが、国民全体を対象としている。
さらに、所得関数と生産関数は一致するものとする。
また、aとIが外生変数、CとYが内生変数であることも前回と同様である。
さらに、最単純ケインズモデルにおいては「政府が存在しない、外国が存在しない、時間は存在しない、国民は全員経済人である」ということを想定している。
以上を前提として、最単純ケインズモデルは次の2式で表現できる。
なお、プログラミングの発想で考える場合、「=」は代入演算子であり、この2式は収束するまでループすると考えるということも付け加えてもいいかもしれない。
Y=C+I ・・・(1)
C=aY ・・・(2)
外生変数aとIは定数であるから、具体的な数値をiと置く。
I=i ・・・(3)
数学の以上3式によって、経済の相互連関関係が表現されている。
つまり、(1)(所得関数の定義)は「CとIによってYが決まる」ことを示し、(2)(消費関数の定義)は「CはYによって決まる」ことを示している。
そのため、一見すると「これは循環論法ではないか」という批判が成立するように見える。
しかし、この2式に初期条件を示した(3)を加えることで、CとYの収束値が判明する。
収束値が分かるならば、循環していないので説明になる。
事実、(3)を(1)に代入して(1)と(2)を連立方程式として解くことで、CとYについて次の結論が得られる。
Y=i/(1-a)
C=ia/(1-a)
つまり、この方程式を解くことで、「政府が公共投資としてi円投入した場合のCとYの増加量」が判明する。
本書では需要量・供給量としてqという変数を用意し、qと供給関数S、需要関数Dの関係を考え、その両者をプロットして交点を求めることで均衡点を求めている。
つまり、
q=S(Y)=Y
q=D(Y)=C+I=i+aY
と置き、S(Y)=D(Y)から均衡点を求めている。
その結果は上の結果と同じである。
もちろん、均衡条件と存在条件と安定条件のすべてが満たされないと分析として用をなさないが。
ただ、本問では複雑化を避けるため、この辺の説明は割愛している。
ところで、上の結果から、具体的な数値を予測することができる。
つまり、i=1、a=0.8としてみよう。
すると、Y=5、C=4となる。
さて、これまでの説明では収束値を一気に求めてしまったが、細かく見ることによって乗数理論について理解することもできる。
そこで、その説明に移る。
この点、最単純ケインズモデルは「時間はない」と仮定しているが、これは「変化は一瞬で起きる」という意味になる。
もっとも、全変化を一つにまとめてしまうと、細かい変化を見落とすことになる。
そこで、変化を細かくみていくために、n回の変化した後のYとCをそれぞれ、Y(n)、C(n)として表現する。
また、細かい変化を見ていく際には、漸化式の発想、プログラミングの発想を利用する。
漸化式として表現した場合、最単純ケインズモデルは次のようになる。
なお、ループと配列を用いればプログラミングの形に置き換えることもできる。
(初期条件)
C(0)=0,Y(0)=0,I=i,a
(漸化式、なお、nはゼロ以上の整数)
Y(n)=C(n-1)+I
C(n)-C(nー1)=a[Y(n)-Y(n-1)]
この点、YとCの収束値はY(∞)やC(∞)である。
このようにして、Y(n)やC(n)の変化を見ていく。
すると、次のようになる。
なお、具体的に見ていくため、a=0.8,i=1とする。
Y(0)=0,C(0)=0,
Y(1)=1,C(1)=0.8,
Y(2)=1.8,C(2)=1.44(=0.8+0.64),
Y(3)=2.44,C(3)=1.952(=0.8+0.64+0.512)
・・・
つまり、nが0から1に変化したとき、投資iが生産に転化するためYが増加する。
また、Yが増加した結果、限界消費傾向に従ってCが増加する。
このときのYの増加分を直接効果と言われている。
しかし、nが1になったときにCが増えたため、Yも変化する。
つまり、nが1から2になることで、Yはn=1になったときのCの増加分が上乗せされる。
Yが上乗せされたので、その上乗せ分に従いCも変化する。
n=2のときにCが変化したため、Cの変化分だけYも変化する。
つまり、nが2から3になることでYは増加し、Cも増加する。
以下、エンドレスである。
このように細かく見ていくことで、乗数効果に関する細かいステップでみていくことができる。
そして、この細かいステップ(変化)で見られる現象こそ、スパイラルであり波及効果である。
つまり、Y(n)は次のように書ける。
Y(n)=1+0.8+0.64+0.512・・・・
このうち、「1」の部分が直接効果、0.8より後ろの部分が間接効果となる。
そして、Y(n)の一般項を求めてY(n)の極限を求める場合、C(n)の階差数列が初項1(初期投資iと同じ)、公比0.8(限界消費性向aと同じ)となることを利用することで、
Y(∞)=i/(1-a)=5
という形で求められる。
そして、この場合、直接効果は1(初期投資と同じ)なのに対して、間接効果は4となっている。
つまり、間接効果・波及効果の方が直接効果よりも大きくなることを示している。
なお、iとaで表現した場合、直接効果はi、間接効果は(i×a)/(1-a)となる。
そのため、aが0.8のような1より少しだけ小さい数である場合、間接効果は直接効果よりも大きいと言えるのである。
なお、「aが1より少しだけ小さい」ということは増えた所得の多くを貯金しないで使うことを意味するところ、全体としてみれば現実にある程度適合している(例えば、a=0.5である場合、国民の全員が増えた所得の半分を貯金していることを示すことになるが、このような事態は現実的に考えれば想定しがたい)。
以上、数学を使うことで相互連関関係を説明することができた。
一方が他方に、他方が一方に、というような相互依存関係であっても均衡点を示すことができたわけである。
これぞ数学の威力である、と本書は説明している。
なお、Y=C+Iを恒等式として考えた場合、これは事後的な数値となる。
この場合、セイの法則を示すとともに、事後的な収束値を表現する式になる。
ただ、この場合、収束値がそうなるということのみを示すだけにとどまることになるが。
他方、需要と供給の一致に関する方程式は、よりモデル・数式を細かくすることで市場における政府の影響や輸出入についても予測することが可能になる。
これぞ、数学の威力である。
本書は最後に、合成の誤謬として2つの例を示している。
一つ目は、「個人の貯蓄がもたらす公共の害悪について」である。
間接効果と直接効果の比をrと取ると、次のようになる。
r=a/(1-a)
個人が貯蓄を増やすということは、所得があっても消費しないことを意味するからaは減少し、やがてはゼロになる。
しかし、aが減少するとrの分子の部分は減り、分母の部分は増えるわけだから、乗数効果の威力は減少し、やがてはゼロになる。
逆に、限界消費傾向が1であれば、乗数効果の影響は無限大になる。
ケインズはこの結果から「個人を富ます貯蓄は、社会全体を貧しくする」と述べた。
これはいわゆる「合成の誤謬」にあたる。
儒教のステップたる「修身→斉家→治国→平天下」とは逆の現象である。
この合成の誤謬を理論化したのがアローであり、定理の名をアローのジレンマという。
この定理も数学を用いて説明がなされている。
このように数学の威力はあちらこちらに見られている。
本書はその威力を紹介して終わる。
以上、本書を読み切った。
次回、まとめをしてこの読書メモを終える予定である。