薫のメモ帳

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司法試験の過去問を見直す11 その2

 今回はこのシリーズの続き。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 旧司法試験・二次試験の論文式試験・平成13年度の憲法第1問についてみていく。

 

4 本問の論じ方

 まず、問題文を再掲する(引用元は前回と同じ、リンク先などは省略)。

 

(以下、過去問の問題文を引用)

 法律上強制加入とされている団体が、多数決により、特定の政治団体に政治献金をする旨の決定をした。この場合に生じる憲法上の問題点について、株式会社及び労働組合の場合と比較しつつ、論ぜよ。

(引用終了)

 

 問題文に「比較しつつ、論ぜよ。」とある以上、論じ方に気を付ける必要がある。

 そこで、本問の論じ方は、①株式会社が政治献金をする旨決定したケースを論じ、②労働組合が政治献金を決定したケースを論じ、③両結果と比較しながら、強制加入団体が政治献金を決定したケースを論じる、という方法になる。

 

 また、前回述べた通り、本問の強制加入団体の決議の有効性についても、決議の内容が法人の「目的」(民法34条)の範囲内にあるかどうかについて、民法34条の「目的」の解釈にあたって憲法の人権規定の趣旨を解釈するべきである

 この指針に従って、決議の有効性を見ていくことになる。

 

5 株式会社と労働組合の場合

 前回の過去問で見てきた通り、八幡製鉄事件では株式会社の政治献金を適法とし、国労広島地本事件では労働組合への政治献金を違法とした。

 両者は結論が分かれるので、対比に用いやすい。

 そこで、両者の場合について考えてみる。

 

 

 まず、株式会社の場合から。

 南九州税理士会事件において最高裁判所は次のようなことを述べている。

 前回は省略した部分であるので、改めて引用する。

 なお、判決文中の民法43条は現在の民法の34条のことである。

 

(以下、南九州税理士会事件より引用)

 民法上の法人は、法令の規定に従い定款又は寄付行為で定められた目的の範囲内において権利を有し、義務を負う(民法四三条)。

 この理は、会社についても基本的に妥当するが、会社における目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行する上に直接又は間接に必要な行為であればすべてこれに包含され(中略)、さらには、会社が政党に政治資金を寄付することも、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためにされたものと認められる限りにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為とするに妨げないとされる(中略)。

(引用終了)

 

 この点、八幡製鉄事件において最高裁判所は株式会社では「目的」の範囲を広く解釈した。

 その上で、株式会社による政治献金・多数決による意思決定による決議を肯定した。

 ただし、その実質的根拠は別途検討する必要がある。

 というのも、最高裁判所が肯定したから」というのは実務上のワイルドカードであっても、論文試験での実質的根拠として採用するには根拠として弱い(形式的に過ぎる)からである。

 

 この点、株式会社の「目的」の範囲を広く解釈する実質的根拠は、①株式会社は営利を目的とする私的な団体(営利社団法人)であること、②構成員には脱退の自由が広く保障されていることの2点になる。

 もちろん、この前提として、法人の人権享有主体性の問題、つまり、法人にも性質上可能な限り人権規定の適用があるという点もある。

 

 ここも一気に答案形式で書いてしまおう。

 

(以下、答案形式での論述、後に比較する箇所は協調で示す)

 では、株式会社が、多数決により政治献金をする旨の決定は有効になるだろうか。

 決議の有効性は決議の内容が株式会社の「目的」の範囲内にあるかどうかによるところ、この株式会社の「目的」(民法34条準用)の範囲内にあるかを考慮する際、法人の性格と構成員の寄付を強制されない自由を保障した憲法19条の趣旨を考慮しながら検討する。

 この点、営利社団法人たる株式会社は性質上可能な限り人権規定の適用があるところ、株式会社の目的は営利追求にある以上、その手段は広く認められるべきである。

 また、株式会社の構成員たる株主は原則としてその所持する株式を自由に譲渡することができる(会社法127条)ため、構成員の脱退の自由は基本的に肯定されている

 そこで、意に沿わない決議がなされた場合、反対に回った少数者は「株式を譲渡することで参加しない」という手段を採用できる。

 したがって、株式会社の「目的」の範囲内は、寄付を強制されない自由を考慮したとしても広く解釈すべきと考える。

 そして、この前提に立って客観的・抽象的に観察した場合、政治献金は自分の支持する政策を実現する政党を財政的に支持し、よって、営利追求の実効化を図る手段ということになる。

 そこで、政治献金は「目的」の範囲と言える。

 以上より、株式会社の場合、本問のような決議は有効となる。

 

 

 次に、国労広島地本組合費請求事件を参照しながら、労働組合のケースを考える。

 国労広島地本事件では政治献金については決議の効力を否定した。

 それについては、前回のメモで参照した通りである。

 そこで、論述形式で労働組合の場合を考えてみる。

 

(以下、答案形式での論述、後に比較する箇所は協調で示す)

 では、労働組合の場合はどうか。

 確かに、労働組合も団体としての人権享有主体性が肯定され、その結果としての政治的表現の自由も肯定されうる。

 しかし、労働者にとって組合に加入することは重要な利益をもたらすものであることから、組合脱退の自由も事実上大きな制約を受けている。

 とすれば、労働組合には様々な政治的思想・信条を持った人間がいることが想定できる。

 そして、政治献金のような政治的事項は投票の自由と表裏をなすものとして各々の組合員がその政治的思想・信条によって決すべきものである。

 また、労働組合は劣位ある労働者と使用者を対等な地位に立たせるための組織であって、公共的な面と労働者の権利を擁護する面の双方の面がある。

 そのため、労働組合の「目的」の範囲は株式会社の場合ほど広く肯定されず、労働組合の政治的活動において組合員の意に反する活動を強制することは「目的」の範囲外になるものと考える。

 以上より、労働組合の場合、本問のような多数決による政治献金の決定は、少数者の政治的思想・良心の自由を過剰に制限するものであり、「目的」の範囲外のものとして無効となる。

 

 

 以上、比較元の二者について検討した。

 これを用いて、強制加入団体の場合を検討する。

 

6 法律上の強制団体の場合

 では、強制加入団体の場合はどう考えるか。

 まあ、判例上の結論は無効であるから、労働組合と同様に考えていくのが妥当であろう

 そこで、以下、論述形式で考えていく。

 キーワードとして用いるべきものは、「同様に」と「異なり」である。

 

(以下、論述形式、一部強調)

 以上のケースを前提にして、法律上の強制加入団体について検討する。

 この点、強制加入団体の場合、法律上加入の条件が示され、構成員には脱退の自由が実質的に認められない。

 そこで、労働組合と同様に、強制加入団体にも様々な政治的思想・信条を持った人間がいることが想定できる。

 また、株式会社と異なり、法律上の強制加入団体の存在意義は公益目的の実現にある以上、その「目的」を広く解釈する必要もない。

 したがって、強制加入団体において「目的」の範囲は限定的に解釈すべきであり、意に沿わない政治的活動を強制することは「目的」の範囲外になるものと考える。

 以上より、強制加入団体の多数決による政治献金の決定は、少数者の政治的思想・良心の自由を過剰に制限するものであり、「目的」の範囲外のものとして無効となる。

 

 

 今回は判例と結論がそろっているので、結論の妥当性は吟味しなくてもいいだろう。

 

 以上で問題の検討は終わり。

 次回は、本問(平成13年度)と前回(平成20年度)の過去問を見ていて気になった点について見て、本問の検討を終了する。