薫のメモ帳

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司法試験の過去問を見直す8 その1

 これまで「旧司法試験・二次試験・論文式試験憲法第1問」を見直してきた。

 

hiroringo.hatenablog.com

 

 これまで見てきた過去問は、平成3年度・4年度・8年度・12年度・14年度・15年度・18年度の7問。

 今回から平成16年の憲法第1問を見ていく。

 

 今回のテーマは「前科者のプライバシー権と親権者の知る権利」である。

 そして、この二つの権利の調整を本問法律がしていることから、平成14年度の問題と構造が似ている感じがしないではない。

 平成14年度の問題は「『少年の更生の権利と市民の推知報道を知る権利』を図書館運営規則で調整している」という見方ができなくもないので。

 

1 旧司法試験・論文試験・憲法・平成16年第1問

 まず、問題文と出題趣旨を確認する。

 なお、過去問は法務省のサイト、具体的には、次のリンク先にあるものをお借りした。

 

www.moj.go.jp

 

(旧司法試験・二次試験・論文式試験・平成16年度・憲法第1問)

 13歳未満の子供の親権者が請求した場合には,国は,子供に対する一定の性的犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定した者で,請求者の居住する市町村内に住むものの氏名,住所及び顔写真を,請求者に開示しなければならないという趣旨の法律が制定されたとする。この法律に含まれる憲法上の問題点を論ぜよ。

(問題文終了)

 

(出題趣旨)

 前科に関する情報を公表されない個人の利益と子供の安全のためにその情報を得る利益が対抗関係に立つような法律が成立したと仮定して,当該法律の憲法上の問題点につき,それぞれの利益の性質やその重要性等を踏まえながら,その立法目的や具体的な利益調整手段の在り方を論理的に思考する能力を問うものである。

(出題趣旨終了)

 

 なお、関連する条文と著名な判例は次のとおりである。

 

憲法12条後段

 国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

憲法13条後段

 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

憲法21条1項

 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

 

 また、関連する最高裁判例は次のとおりである。

 

昭和40年(あ)1187号公務執行妨害・傷害事件

昭和44年12月24日最高裁判所大法廷判決

(いわゆる「京都府学連事件」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/331/056331_hanrei.pdf

 

昭和52年(オ)323号損害賠償等事件

昭和56年4月14日最高裁判所判決

(いわゆる「前科照会事件」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/331/056331_hanrei.pdf

 

平成元年(オ)1649号慰藉料事件

平成6年2月8日最高裁判所判決

(いわゆる「ノンフィクション『逆転』事件」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/442/052442_hanrei.pdf

 

平成14(受)1656号損害賠償等請求事件

平成15年9月12日最高裁判所判決

(いわゆる「江沢民事件」)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/357/052357_hanrei.pdf

 

 最近の判決は詳しく知らないため、その辺は省略。

 この問題を検討する観点だけから見れば、それほど必要ではないので。

 

 

 本問は、いわゆる「日本で『メーガン法』ができた」と仮定した場合の法令審査を行うことになる。

 具体的に見ていくと、親権者の請求によって一定の前科を有する国民の氏名・住所・顔写真を開示することになるのだから、「『一定の前科を持つ者』として氏名・住所・顔写真を公開されない自由」が制限されることになる。

 そこで、①この自由が憲法上保障されるか、②保障されるなら「公共の福祉」による制限として正当化されるか、という2点を検討することになるのだろう。

 

 ところで、出題趣旨を見ると気になる表現がある。

 それは、「当該法律の憲法上の問題点につき,それぞれの利益の性質やその重要性等を踏まえながら,その立法目的や具体的な利益調整手段の在り方を論理的に思考する能力を問う」という部分である。

 つまり、司法試験委員会は「前科情報が公開されてしまう」という観点だけを問題にしていないように見える

 

 この点、本問法律は「子供に対する一定の性的犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定した者」しか開示しない。

 被害者が子供でない場合、常習犯でない場合、一定の性的犯罪でない場合、起訴猶予処分となった場合、親権者の住む市町村の外側にいる場合は開示されないことになる。

 その意味で、本問法律は「親権者の子供を保護するために必要な情報を知る権利が制限されており、違憲である」という主張もできなくはない。

 そして、この場合は、①親権者の国家の持っている前科情報を知る権利が憲法上の保障を受けるか、②開示情報を本問の範囲に限定することが「公共の福祉」による制約として正当化されるか、を検討することになる。

 そして、その意味では平成14年度の過去問に構造が類似することになる。

 

 どうなのだろう。

 この点、司法試験委員の出題趣旨を見る限り、「どちらか一方のみを検討すればいい」とは言い切れないようである。

 また、本問法律を合憲の結論にするなら、両方検討する必要があるとも言いうる。

 何故なら、不満は前科情報を開示される側にも開示を受ける親権者側にもあるだろうから。

 他方、本問法律を違憲の結論にするなら、違憲になる方だけを検討すればいい

 片方が違憲であれば、もう片方が合憲であっても違憲になるから。

 

 

 ただ、親権者と前科者のうち、本問法律が切実になるのは後者であろう

 そこで、前科者のプライバシーを中心に問題を検討していくことにする。

 

 

 具体的な検討は次回から。

 では、今回はこの辺で。