今回はこのシリーズの続き。
今回は「区別」と「差別」の判断、つまり、違憲審査基準を見て、設問1を検討する。
4 区別か差別かの判断、つまり、平等原則に関する違憲審査基準
まず、条文を確認する。
憲法14条第1項
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
この点、「平等」が原則だといっても、様々な社会的要請により取り扱いを変えること(合理的な区別)をせざるを得ないことがある。
例えば、税金や保険料は所得によって税率が違うし、また、課税額も異なる。
これは相対的平等・実質的平等を考慮した区別の具体例と言ってもよい。
では、区別と差別はどのように基準で判断するのか。
いわゆる平等原則違反の審査基準が問題となる。
そして、ここで問題となるのが「後段列挙事由」に関する問題である。
つまり、憲法14条1項は後段で「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により」という文言があるが、この部分を審査基準においてどのように解釈するのかという問題がある。
これについては大きく二つの考え方がある。
一つ目の立場は「後段列挙事由は例示に過ぎない」と考えて、審査基準においてさほど重視しないもの。
最高裁は一般にこの説を採っていると言われている。
もう一方の立場は「人種差別、信条や信仰による差別、男女差別、身分による差別は歴史的になされてきた」という経緯を踏まえて、これらの差別についてはそうでない場合と比較して厳しい基準で臨むという立場である。
この点、どちらの立場においても、審査基準は①目的の合理性(個人主義・民主主義が具体化した憲法上の権利・利益・要請との関係)、②目的と手段の関連性、③手段に伴う不利益の程度という3つの要件について検討することになる。
しかし、後者の立場に立ち、かつ、後段列挙事由に基づく場合、各3要件について厳しく判断することになる。
これに対して、前者の立場に立った場合、または、後者の立場を採用しながら、後段列挙事由に当たらない場合、「手段によって制限される権利」を見ながら、慎重に判断したり、緩やかに判断したりすることになる。
例えば、「住所」によって日本国籍を有する国民に選挙権を与えない、または、投票の価値に差(3倍以上の差)を付けるといったことを考える。
この場合、「住所」は後段列挙事由にあたらないから、厳格な基準は用いない、または、用いるべきではないと考えるかもしれない。
しかし、選挙権は参政権のうち最も基本となる権利であることを考慮すれば、緩やかに考える、あるいは、約5倍近い差があっても合理的であると主張するのは、制限される権利の重要性や民主主義の正当性の担保という観点から見れば妥当ではない。
よって、この場合、制限される権利を見て、厳格に、慎重に判断することになる。
この点、どちらか一方の立場に立つ必然性はない。
ただ、ここでは「条文の文言に意味を持たせる」ということを尊重して後段列挙事由に意味を持たせる後者の立場で考えることにする。
そして、後者の立場に立った場合、本問は「性別による差異が生じているケース」であるから、厳格に判断していくことになる。
つまり、①目的が憲法上の利益を達成する上で必要不可欠なものであり、②手段が目的を達成するために必須のものであり、③手段による不利益が最小限度であるという3要件を満たさない限り、不合理な差別として違憲になる。
以上を前提に設問1からみてみよう。
5 設問1(再婚禁止期間規定)に対する違憲審査
では、設問1から見てみる。
まず、設問1の問題文を確認する。
(問題文を再び引用)
以下の場合に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。
1 再婚を希望する女性が,民法の再婚禁止期間規定を理由として婚姻届の受理を拒否された場合
2 女性のみに入学を認める公立高等学校の受験を希望する者が,男性であることを理由として願書の受理を拒否された場合
(引用終了)
まず、目的から見てみよう。
判例や民法を知っている人間はこの規定が「生まれてきた子供の法律上の父親を確定させること(いわゆる、父性推定重複の防止)」のものであることは当然の前提になっている。
これに対して、「本当か?」と思う人がいるかもしれない。
例えば、「この規定は離婚直後に直ちに再婚するのは道徳上不謹慎であることから、それを法律で禁止し、健全な道徳を維持することが目的ではないのか?」など。
しかし、このような目的を設定すると、次の疑問に答えられないことになる。
① 何故、女性だけ禁止するのか(男性が禁止されない理由は何か)
② 何故、出産後や妊娠していないことが確定している場合に禁止されない(民法733条2項)のか
つまり、条文の作り(②は重要である)を考慮すると、「道徳の維持」という目的と整合しない。
よって、この目的を認定してしまうと、「この人は論点を知識として知っているだけで、具体的な条文を知らないのではないか?」と疑問を持たれても抗弁できないだろう。
もちろん、このような「道徳の維持」という目的を認定した場合、これこそ「後段列挙事由に基づく差別の典型例」となって、目的の部分で違憲となって一蹴されることになるが。
閑話休題。
話を戻そう。
再婚禁止規定の目的は「子供の父親を早期に確定すること」にある。
そして、父親が誰かが決まらなければ、「子を扶養する義務を負うのは誰か(離婚前の夫か再婚後の夫か)」といった問題が生じる。
当事者でスムーズに話し合いができればいいが、逆に、離婚・再婚をめぐって紛争が起きていたら、父親が決まらない。
この場合、生まれた子どもの福祉の実現に対する重大な支障となりうる。
産まれたばかりの子供に対する福祉に支障が生じれば、子どもの発育に重大な懸念が生じ、ひいては、子どもの人格(憲法13条によって保障)が致命的に損なわれかねない。
以上を考慮すれば、①目的は憲法上の利益を実現するために必要不可欠であると言える。
次に、②手段の関連性についてみてみよう。
現代において父親を確定する手段としてDNA鑑定がある。
そこで、「『父性推定の重複』が生じてもDNA鑑定をすればよく、再婚禁止期間を置く必要はそもそもない」という主張が考えられる。
つまり、DNA鑑定で代替できるではないか、という主張である。
しかし、DNA鑑定はタダではないし、鑑定結果が出るまでにタイムラグがある。
その一方で、父親の早期確定は子の福祉にとっては重要であるし、そのためには形式的に決められる方が事務処理上の便宜もある。
よって、DNA鑑定では代替手段となりえず、手段は必須であるということはできる。
最後に、③手段の最小性についてみてみる。
この点、法律上、父親が二重に推定される期間は離婚後百日間だけである。
ならば、離婚後百日間については最小限度の制限と言える。
しかし、離婚後百一日以降百八十日については父親が二重に推定される事はない。
ならば、③百一日以降については最小限度の制限とは言えない。
よって、百一日以降を禁止している部分については違憲であると言える。
つまり、「本件が離婚後百一日以降の届出に対して受理しなかったのであれば違憲」という結論になる。
この結論に関しては、実務から見れば様々な問題がある(これは後述する)が、司法試験の答案であれば、この結論でいいだろう。
なお、この基準を採用した場合、必要不可欠の部分の評価は逆にして、再婚期間禁止規定の全部を違憲にもっていくことは可能かもしれないが、必要最小限度の要件をひっくり返すのは困難である。
というのも、日数は客観的に、かつ、容易に判断できるからである。
どうしても合憲の結論にもっていきたいなら、後段列挙事由に特別な意味を付与すべきではないと考えられる。
では、最高裁判所の例示列挙で考えた場合、どうなるだろうか。
この場合、違憲・合憲、どちらの結論も採用できる(私は全部を合憲にはしないが)。
まず、審査基準が緩くなる関係で、目的と手段の関連性の基準は容易に満たすことができる。
また、「手段の最小性」も要求されない(相当性は要求されるとしても)。
ならば、①八十日は三カ月も満たないわずかな期間であること、②その期間であっても事実上婚姻生活を送ることができること、③内縁関係にも民法上の規定が類推適用できることなどを考慮して、不利益の程度を小さく評価することは不可能な話ではない。
他方、①法律上「婚姻」と扱われるか否かは社会生活においても重要であること、②法律上婚姻が認められなければ名字の統一が不可能であること、③憲法は24条において家族関係における両性の平等を重視していること等を主張して不利益の程度を大きく評価して百一日以降の不受理を違憲にすることもできる。
この辺は丁寧に事実を拾い、丁寧に事実を評価すればよい(こちらの立場を採用した場合、丁寧な事実認定・事実評価は必須である)。
また、答案政策上は設問がもう一個あることを考慮して、さらっと次にもっていくのもありだろう。
以上、設問1の検討が終わった。
ここまでは基本。
次回は、応用、こと、設問2の検討に移る。