今回はこのシリーズの続き。
今回も『「空気」の研究』を読んで学んだことをメモにしていく。
23 第3章_日本的根本主義について_(二)を読む
本セッションは1970年代に起きた2つの話題からスタートする。
一つ目は、アメリカのファンダメンタリストたちのジミー・カーター(当時の民主党の大統領候補、そして、後の大統領)への熱狂的支持、そして、その熱狂を見たアメリカ知識人の持つ「アメリカは南部バプテスト(ファンダメンタリスト)に征服される」という危惧。
二つ目は、イスラエルにおけるイガエル・ヤディン氏に対する熱狂的支持。
この点、二つ目の話の背景には次の事情がある。
・イガエル・ヤディン氏はイスラエル建国時の英雄(名指揮官)だったが、建国後は政治から距離を置いて考古学者として活躍していた関係で、第四次中東戦争の時点(建国から約25年間経過している)で政争とは距離をとっていたこと
・当時のイスラエル人はイガエル・ヤディン氏を理想のイスラエル人としてとらえていたこと
・当時のイスラエル人は、経済的な成長・豊かな生活よりも建国当時の単純・質素・簡便な生活を求めていたこと
他方、一つ目のカーター元大統領への支持の背景にも類似の関係があると考えられる。
とすれば、この背景を丁寧に見ることで、日本人が持つ日本教のファンダメンタリズムの形(=「絶対である」と考えていること、根本主義)が分かるかもしれない。
そこで、カーター元大統領への支持の背景を丁寧に見ている。
まず、カーター元大統領を支持していたキリスト教のファンダメンタリストについてみてみる。
単純なイメージで語るならば、ファンダメンタリストは「聖書絶対主義者」であり、それがために、前セッションの「モンキートライアル」のようなことを引き起こした人たちということになる。
ただ、話はこれだけで終わらない。
彼らの中には著名な科学者や技術者もいる。
前者の聖書絶対主義に後者の事実が加わることで、日本人は頭に「?」を浮かべることになる。
著名な科学者・技術者たちはどうやって聖書の記載と進化論や聖書の記載に矛盾する科学的結論を両立させているのか、と。
「日本人なら情況で使い分ける」で済む話だが、熱心な一神教の信者であればそうもいくまい。
あるいは、黒人解放運動で名を馳せたキング牧師も南部バプテストの牧師であるが、これとファンダメンタリズムとどうかかわるのかも日本から見るとよく分からない。
この2点を理解するために、ファンダメンタリストと改革に関する一般論について確認する。
ファンダメンタリスト(=バプテスト・ピューリタン)たちはマルティン・ルターの時代から始まった宗教改革、その後の宗教対立において、「教皇(カソリックの親分)はそう言う、だが、聖書はかく言う」と聖書を片手に戦った。
そのため、聖書を否定すれば自分たちの精神的支柱が崩壊することになる。
よって、歴史的経緯により聖書はファンダメンタリストにとっての「譲れぬ一線」になる。
また、「改革」に関する逆説的な事情についても見えてくる。
「改革」というのは「古きものから新しきものに変わる」という形を採ると思われるが、さにあらず。
改革者たちは改革によって現状から昔の原点に戻そうとしていることが分かる。
マルティン・ルターから始まった宗教改革はローマ教会の教えから1000年以上前に編纂された聖書に戻ろうとした。
また、日本の王政復古・明治維新も武家政権から昔の天皇への大政奉還の形をとった。
さらに、失敗した例から見つけてみると、後醍醐天皇の建武の中興、徳川吉宗の享保の改革、松平定信の寛政の改革、水野忠邦の天保の改革も似た形(ある昔の時点の在り方を理想とし、その形に戻そうとすること)になっている。
また、中国の易姓革命も現状の腐敗した政治を転覆して(儒教から見た)古き理想の政治に戻すという意味合いがある。
上で述べたイスラエルの話も然り。
この本の最終的な関心事項はあくまで日本である。
アメリカの事情はおまけに過ぎない。
しかし、日本に対する理解を深めるため、アメリカのファンダメンタリズムについて歴史的に見てみる。
24 第3章_日本的根本主義について_(三)を読む
「聖書絶対主義」を採用した場合、統治システムは神政制を志向することになる。
事実、ルターの始めた宗教改革を引き継いだジャン・カルヴァンが具体化した統治システムはジュネーヴの神政政治時代である。
この神政政治時代は教会規程を基本とした厳格な統治の時代である。
また、『痛快!憲法学』でも見たとおり、イギリスのピューリタンはこのカルヴァンの影響を強く受けている。
アメリカの建国に携わったピルグリム・ファーザーズたちもカルヴァンの影響を大きく受けていることは間違いない。
ところで、宗教改革による神政政治というポイントで見た場合、もう一つ見ておくべき運動がある。
それはアナバプテスト派の行った神政制を目指した急進的革命である。
この革命の登場人物としてルターが「アルシュテットの悪魔」と呼んだトマス・ミュンツァーがいる。
ミュンツァーは世界を「霊と肉」という形の二元的ではなく一元的にとらえた。
そして、宗教改革を推し進めて地上に「キリスト教による共産制」という神の国(神政統治システム)を作ろうとする。
それゆえ、トマス・ミュンツァーは宗教改革の途中で世俗権力と妥協したルターを「偽善者」と非難することになる。
ミュンツァーは宗教に対して「純粋」であるがゆえ、ルターに対する告発・追求はローマ教会に対するそれよりも鋭い。
この点、ピルグリム・ファーザーズが渡米した際、急進的革命による混乱期からかなりの期間が経過している。
また、グロティウス等の新しい思想も生まれている。
そして、ピルグリム・ファーザーズたちが自由主義・合理主義的思想による影響を受けなかったわけではない。
しかし、彼らはそれらの思想が自分たちの信仰の核心を壊す危惧は抱き、それが渡米の動機になっている。
という形で次のセッションに続く。
次のセッションもアメリカのファンダメンタリズムに関する話になるのだが、きりがいいので、今回はこの辺で。